新築の転移の扉
「よし、準備完了だな」
食事を終えて一休みしたところでスライム達に全部まとめて撤収してもらい、巨大化したファルコに飛び乗った俺は周囲を見回してからそう言った。
ハスフェル達も、もうそれぞれの従魔の鳥達に乗っているし他の子達もそれぞれ定位置におさまっている。
ちなみに、ベリー達は今回は自力で飛んでいくみたいでファルコに乗っていない。
「では、海の美味しいもの目指して出発進行〜〜!」
本音ダダ漏れなシャムエル様の号令一下、高々と鳴いたお空部隊の子達が一斉に羽ばたいて空へと舞い上がる。
「おお、いつもながらいい眺めだねえ」
眼下に広がる見事な景色を見て密かに感心した俺は、思わずそう呟いたのだった。
「おお、地上を行くのと違って空の旅は、目的地に向かって一直線だから早いなあ」
転移の扉の目標である空へと伸びる巨大な光の扉が、見えたかと思ったらぐんぐん近付いてくる。
「へえ、今回の転移の扉がある場所は山の頂上なんだ。あれって火口の中? ええ、すっげえ!」
到着したところで、光の柱の周囲を旋回するファルコの背から地上を見下ろした俺は思わずそう叫んでいた。
真下は巨大な山の山頂で、そこま見事なまでに陥没して深い穴になっていたんだよ。
「あ、底のところに何かある。あれって……」
「そうそう、ほら降りて大丈夫だよ!」
一瞬でファルコの頭の上に移動したシャムエル様が、何やら嬉しそうにそう言って足元のファルコの頭をぺしぺしと叩く。
「かしこまりました。では降りますね」
軽く羽ばたいてそう言ったファルコは、大きく翼を広げてゆっくりと火口に向かって降下していった。
「すっげえ、これってカルデラってやつだよな。へえ、これはなかなか見ない光景だな」
火口に降りたところでファルコの背から飛び降りた俺は、周囲を見回して思わずそう呟いた。
だって、周囲の360度全てが、見渡す限り全部断崖絶壁なんだぞ。しかもここ、相当大きなカルデラなんだけど地面には草の一本も生えていない。完全に岩だらけ。というか周囲全部が岩しかない。
そんな中に、ポツンと不自然なくらいに真新しい小屋が一つだけ建っていて、これまた驚きに声を上げた俺だったよ。
「おお、これはまた新しいパターンだな。ええと、これが転移の扉の入り口なんだよな?」
今までって、古くて朽ちた祠とか建物とか、古木の中とかそんな感じのものが多かったから、逆にこの妙にピカピカな木の小屋が新鮮だよ。
「ここの転移の扉には、以前は祠があったんだ。でも、土台部分がイマイチだったらしくて、以前地脈が乱れた時に大きな嵐がきて、ちょっと全体に傾いちゃったんだよね。さすがにそのままにしておくと崩壊したり倒壊したりする恐れがあったから、オンハルトに頼んで建て直してもらったの。仕上がったのは初めて見たけど、なかなか綺麗にしてくれたね」
右肩に戻ってきたシャムエル様の説明に、思わずオンハルトの爺さんを振り返る俺。
「うむ。いきなりシャムエルから転移の扉の建物を建て直してくれと頼まれて驚いたさ。でもまあ、事情を聞けば確かに建て直しが必要そうだったからな。放置は出来ぬと考えて、急ぎノーム達に頼んで建て直してもらったんだ。なかなかに良き仕事をしてくれたようだな」
「へえ、こういう建物なんかもオンハルトの爺さんの管轄なんだ」
ちょっと意外に思ってそう聞いてみる。
オンハルトの爺さんは鍛治と装飾の神様だって聞いていたからね。
「そうだな。巨大な建物からから小さな装飾品まで、何であれ人の手によるもの作りは全て俺の管轄だと思ってくれていいぞ。だがまあ、色々と苦労もあるので、あまり詳しくは聞かんでくれ」
苦笑いしたオンハルトの爺さんの言葉に、俺も苦笑いしつつ頷いたのだった。
そうだよな。この世界では、神様でも苦労は色々と多そうだよ。
何しろ、総元締めの創造神様がこの大雑把ぶりだもんな。
「ん? どうかした?」
思わずシャムエル様を見てしまったら、ちょうどこっちを見ていたシャムエル様と目が合ってしまった。
「何でもない。ええと、じゃあこの中にいつもみたいに地下へ続く階段があるんだよな?」
誤魔化すようにそう言って笑った俺は、真新しいドアノブを握ってゆっくりと扉を開いた。
小屋の真ん中に地下へと降りる階段があるだけで、他には何もない。
「ううん、これもなかなかにシュールな光景だな。まあいい、とりあえず降りよう」
苦笑いしてそう呟き、いつもの急な階段を手すりに捕まりつつゆっくりと降りる。
ハスフェル達や従魔達がそれに続き、長い階段を降りたところにあるいつもの広いエレベーターホールを見て、堪えきれずに吹き出した俺だったよ。
さて、いよいよ次は海だぞ。
ううん、どんな海産物があるのか、楽しみだなあ。




