昼食
「じゃあ、とりあえず作り置きでいいかな」
スライム達にテントを立ててもらい机と椅子を並べたところでサクラを机の上に抱き上げた俺は、そう言ってサクラに取り出してもらった料理を並べていった。
うん、主に肉メイン。サクラはちゃんとあいつらが何を欲しがっているか理解しているよ。
「シャムエル様は、タマゴサンドかな? それとも、こっち?」
俺はおにぎりが食べたかったので、おにぎり盛り合わせのお皿を取り出し、お味噌汁とだし巻き卵も出してもらってから肩に座ったシャムエル様を見た。
「タマゴサンドとだし巻き卵のどちらかなんて、私には選べないよ〜〜〜!」
そう言って尻尾を振り回して俺の首元にポフポフと叩きつけながら泣く振りをするシャムエル様。いいぞ、もっとやれ。
「じゃあ、両方な。はいどうぞ。おにぎりは肉巻きおにぎりかな?」
予想通りの反応に、笑ってタマゴサンドを一切れお皿に取り、その横にだし巻き卵とシャムエル様が大好きな肉巻きおにぎりも一緒に取り分けてやる。
「お味噌汁は?」
「ここにお願いします!」
いつもの小さなお椀が差し出されたのでそこに豆腐とわかめのお味噌汁を入れ、次に差し出されたグラスには麦茶を入れてやる。
俺用には、だし巻き卵の横におからで作った卯の花ときゅうりの酢の物、それからシャケのマリネを山盛りに取る。
「あ、それも少しください!」
シャケのマリネを見てそう言われたので、別の小皿に取り分けてやった。
「じゃあ一応お供えしておくか」
俺の呟きに、スライム達が即座にいつもの簡易祭壇を用意してくれる。
俺の分のおかず一式とおにぎりの盛り合わせ、それからお味噌汁と麦茶を並べてからそっと手を合わせた。
「ええと、今日はバイゼンを出発して海沿いの街へ向かう途中、ハスフェルの希望で新しい剣の試し切りで狩りに来ています。でもって一狩り終えて今から昼食です。少しですがどうぞ」
目を閉じて小さな声でそう呟く。
いつもの収めの手が俺の頭を撫でてくれたので顔を上げると、嬉しそうにおにぎりを撫で回した後にそれぞれのお皿を持ち上げる振りをしてから、一瞬でハスフェルのところへ行って彼の頭も撫で、彼の剣をそっと撫でてから消えていった。
「おや、新しい剣に祝福をくれたな。ありがとう。じゃあ俺の分もお供えしておくか」
驚いたように笑ったハスフェルがそう言い、ほぼ肉と揚げ物しか並んでいないお皿を持ってきて簡易祭壇に並べた俺のお皿の横に置いた。それから少し考えて収納していた赤ワインの大瓶も取り出して、一緒に並べてから手を合わせた。
現れた収めの手が嬉々として肉と揚げ物の山を撫でまわし、順番にお皿を持ち上げる振りをしてから、最後にもう一度ハスフェルの頭を撫でて消えていった。
顔を見合わせて小さく吹き出した俺とハスフェルは、それぞれのお皿を手に席へ戻り、改めていただきますを言ってから食べ始めたのだった。
「はあ、美味しかった。ええと、じゃあ少し休憩したらこのまま言っていたように海へ向かって出発かな。この近くだと、どこに転移の扉があるんだ?」
シャムエル様から貰った方の詳細な地図を取り出しつつそう尋ねると、赤ワインを飲んでいたハスフェル達が揃ってこっちを見た。
「バイゼンの北側に、二十一番の転移の扉があるからそこへ行こう。それでゴウル川の河口にあるターポートの街の近くに五番の転移の扉があるので、まずはそこへ移動だな。もう一つの大河ダリア川の河口近くにあるハンウイックの街周辺には転移の扉が無いんだよ」
それぞれターポートとハンウイックの街を指差しつつ、ハスフェルが教えてくれる。
「ハンウイックからターポートまでの海岸線が、漁師達が漁をしている場所だ。このカデリー平原の海岸線は、一部には岩場もあるがほぼ全て平らな砂浜が続いていて、どこでも漁が出来る。その途中の岩場を削っていくつかの港も作られていて、港周辺に大きな街は無いが漁師達が住む村がある。他にも海岸線には漁師達の住む村がいくつも点在しているぞ。このハンウイックとターポートの、二つの街の川を超えた左右の海岸線は、ほぼ全て険しい断崖絶壁になっていて海側からの上陸は不可能だ。地上側もこの辺りはほぼ森に埋め尽くされていて、人の入れる領域ではない。地図が途切れているのはそう言った理由からだ」
これまた地図を指差しながら今度はギイが説明してくれる。
「成る程。漁をしている地域は二つの川の間にあるカデリー平原の海岸沿いなわけか。じゃあ、これを飲んで一休みしたら行くとするか」
一応、俺は昼からお酒は自重したので、改めて食後に淹れた緑茶のカップを見ながらそう言う。
「ああ、それで良いと思うぞ。さて、今夜は新作の魚料理を期待しているぞ」
「そうだな。ケンが作ってくれれば、海の魚も美味しくなると思うからなあ」
嬉しそうなハスフェルとギイの言葉にオンハルトの爺さんも満面の笑みで頷いている。
「そうだな。俺もどんな魚介類が手に入るのか、今から楽しみだよ」
笑ってそう言いつつ、聞いた超巨大海老の話を思い出してちょっと遠い目になった俺だったよ。
2メートルサイズの巨大伊勢海老とかって、どう考えてもモンスター級だよな。
まあ、俺が自分で漁をするわけではないので、そこは漁師の皆様に頑張っていただこう!
とりあえずそう結論づけて、不安は全部まとめてふん縛って明後日の方向へ蹴り飛ばしておいたのだった。




