素材の角の使い道?
「ケン、せっかくだから渡しておくよ。俺はこのジェムはもう持っているからな」
ジェムコレクターのハスフェルが笑ってそう言い、シリウスから飛び降りて足元に落ちていためっちゃデカいヘラジカのジェムを拾う。長さ1メートル以上、太さは俺の胴回りよりも余裕で大きい。
そのジェムを軽々と拾ったハスフェルが、笑ってこっちに向かって放り投げたよ。
まさかの行動を見て悲鳴を上げた俺が、慌てて両手を広げてその巨大なジェムを受け止めようとするのと、ニュルンと横から伸びてきたアクアの触手がその巨大なジェムを掴むのはほぼ同時だった。
おかげで、巨大ジェムを咄嗟に顔面キャッチして鼻血を噴くのは無事に回避されたのだった。
「おお、ありがとうな。ええと、落ちてるこの角が素材なのかな?」
ラパンに乗ったままゆっくりと進み出た俺は、巨大ジェムを受け止めてくれたアクアをそっと撫でた後、地面に転がっている超巨大なヘラジカの角を見た。
多分俺なら一人では持てないくらいにデカい。とりあえず有り得ないくらいにデカい。
無言で手を伸ばしてその角をそっと撫でた俺は、ため息を吐いてからハスフェルを見た。
「ええとこの素材は……」
「もちろん一緒に引き取ってくれ。ギルドで売ればいい値が付くぞ」
にんまりと笑っったハスフェルの言葉の後に、元気に返事をしたアクアが、全部まとめて拾って収納してくれたよ。
『おやおや一撃でしたか。お見事です。新しい剣の出来栄えは素晴らしいようですね。それで、どうしますか? 先ほどよりももう少し大きな群れを一応あと三つは確認しています。従魔達も戦いたそうですから、まとめて追い込んで差し上げてもよろしいでしょうか?』
その時、また頭の中にトークルームが広がり、笑ったベリーの声が届いた。
『ああ、出来れば追い込みをお願いするよ。それに、せっかくだから俺ももう少しくらいは戦いたいし、従魔達も暴れたがっているようだからな』
妙に嬉しそうなハスフェルの言葉に、ベリーが吹き出して大笑いしている。
『了解しました。ではもうしばらくお待ちくださいね。先程のよりも大きな個体もいますよ』
これまた妙に嬉しそうな声でベリーがそう言うと、今度はハスフェル達が揃って吹き出し大喜びしていた。
あれよりデカいのが来ると聞いて喜ぶお前らが、俺は怖いよ。
そしてこの後、ベリーの言葉通りにとんでもなくデカいヘラジカの群れが次から次へと森から飛び出してきて、俺はまたラパンに乗せてもらって大急ぎで後方に避難したのだった。
だけどそんな俺に構わず飛び出してくる超巨大なヘラジカ軍団を相手に、嬉々として暴れ回るハスフェル達や従魔達。
非戦闘員の子達と一緒に避難した俺は、もう完全にドン引き状態で嬉々として戦う彼らを見ていたのだった。
「ええと、この巨大な角は何になるんだ? 削って装飾品になるとか?」
とりあえず出てきたのは全部駆逐して一面クリアーしたところで、俺も参加して落ちていたジェムと素材を集める。
まあ、ほぼスライム達がやってくれたんだけどね。
拾った角を軽く叩いてみると、コーンって感じになんとも綺麗で硬質な音がして思わず聞き惚れたよ。
その意外に硬そうなそれを指差しながら、ふと思いついて一番答えを知っていそうなオンハルトの爺さんに質問してみる。
「そうだな。こういった大きな角は、基本的にはそのまま壁の飾りとして使われるな。もちろん、手入れして綺麗に額や土台に固定してからだ。後はまあ、削って装飾品にする事も出来なくはないが、この角自体が相当に硬いので作業は当然難しいな。ミスリルのノコギリや彫刻刀ならば切ったり削ったり、あるいは模様などを彫る事自体は出来るだろうが、それでも相当な技量の持ち主でないと、細工品として売れる程のものを仕上げるのは困難を極めるだろう。まあ、バイゼンの連中ならば喜んで挑戦するだろうがな」
落ちていた角を一本拾ったオンハルトの爺さんの説明に、俺も拾った巨大な角を見た。
「確かに硬そうだ。じゃあ、クーヘンのところに届けるのは迷惑かな?」
「どうであろうなあ。彼らの力量ならば細工する事自体は可能だろうが……逆に無理をしてこの削りにくい素材を扱う意味があまり無いな。角の細工物ならば、もっと削りやすく美しい素材がいくらでもある」
苦笑いするオンハルトの爺さんの言葉に、ハスフェル達も苦笑いしつつ頷いている。
「じゃあ、これはまた冬にバイゼンへ戻った時にギルドに売ればいいな。地下洞窟の最下層で集めた綺麗な貝殻もまだまだ在庫があるし」
あの巨大鮑みたいなキラッキラの貝殻を思い出しつつそう言うと、笑ったハスフェル達が揃って右手を上げた。
「今回も色々と収穫してきたぞ。以前集めたのとはまた色味の違うのもあったから、あれはクーヘンのところにもいくつか渡してやればいい。あれなら他のクライン族の職人さん達も喜んで扱うだろうからな」
「あはは、また増えたのかよ。じゃあ、そっちは次にハンプールに行った時にまとめて渡してこよう。
笑った俺の言葉に、オンハルトの爺さんも笑って頷いていた。
って事で、ハスフェルの剣の試し切り(?)は、無事に終了したのでした。
うん、俺は見ていただけで何もしていないけど、腹が減ったからとりあえず飯にしようか。




