超巨大ヘラジカvsハスフェル!
「なあ、ここに出るそのヘラジカのジェムモンスターって、どれくらいの大きさなんだ?」
恐る恐るそう尋ねる俺に、振り返ったハスフェルとギイが何故か揃ってニンマリと笑う。
「大きさか? そうだなあ……」
「例えて言うなら体高はセーブルが一番大きくなった時くらいで、頭の上に大型テントくらいある角を二本生やした感じ、かな?」
「何それ! そもそもそんなの人が戦っていいサイズのジェムモンスターじゃあないって! 俺は絶対に無理〜〜〜!」
予想通りの、いやある意味予想以上の答えに悲鳴を上げる俺。
「無理無理。俺は後ろで見学しています!」
早くも戦線離脱を宣言する俺に、三人が同時に吹き出す。
「まあお前に、無理にあれと戦えとは言わんよ。じゃあ、構わないから、今回は後方で見学していてくれていいぞ」
笑ったハスフェルの言葉に、首がもげそうな勢いで頷く俺だったよ。
『群れを追い込みますから、準備をしていてくださいね』
その時、頭の中にトークルームが広がり張り切ったベリーの声が聞こえた。
『ああ、いつでも良いぞ』
嬉しそうなハスフェルの返事に、笑ったベリーの声が返る。
「今からヘラジカの群れをベリーが追い込んでくれる。剣の試し切りをしたいので、初手は俺に任せてもらえるか?」
巨大化してやる気満々な従魔達を見て、笑ったハスフェルがそう言ってヘラクレスオオカブトの剣を抜く。
「そうなのね。じゃあ仕方がないから初手はお任せするわ。手を出してもいいようになったら教えてね」
笑ったニニの言葉に、猫族軍団と犬族軍団の面々が、ちょっと残念そうにしつつも揃って頷いている。
草食チームや鱗チーム、非戦闘員の子達は少し下がって控えている。
お空部隊プラスアルファの面々も、巨大化して上空を旋回しているが、こちらも揃って頷いているので初手は任せてくれるみたいだ。
しばしの沈黙の後、何やら大きな音がしてバキバキと木の折れる音が響いた。
完全にドン引き状態の俺は、我に返って慌ててマックスの背から飛び降りたよ。だってこのままマックスの背の上にいたら、間違いなくそのまま俺ごと戦闘に突入しちまうって。
って事で、振り返った俺は後方に控えている草食チームのいる場所に向かって全力疾走した。
「じゃあご主人は私達と一緒にいましょうね!」
それを見たラパンが走って迎えにきてくれて、一瞬で巨大化して俺の前で止まってくれた。
「ありがとうな!」
そう叫んで首の辺りの毛を掴んで背中に飛び乗る。
「じゃあご主人、じっとしていてね!」
得意げにそう言ったラパンは、グッと頭を上げて胸を張るとそのまま後ろ脚で駆け出して戻って行った。
シェルタン君直伝、ホーンラビットのピッピが開発した跳ねずに走るやり方だ。
「あはは、これなら走っても大丈夫だな。ありがとうな」
予想以上の乗り心地の良さに、ラパンの耳を撫でてやりつつ笑ってそう言った俺だったよ。
無事に俺が避難した直後、もう一回バキバキと大きな音が響き巨木が数本勢いよく倒れた。
その直後、聞いた通りのとんでもないデカさのヘラジカが全部で六頭、森から一気に駆け出してきた。
「いくぞシリウス!」
完全にドン引きする俺と違い、嬉々としてそう叫んだハスフェルは、左手で手綱を握ったまま右手であの大剣を握って大きく振りかぶった。
そして走ってきたヘラジカに向かってその瞬間だけは両手で剣を握って、横に大きく剣を薙ぎ払った。
さらにもう一閃! そしてもう一閃!
群れの間を駆け抜けたハスフェルが振り返った瞬間、見事に首を落とされたヘラジカ達が地響きを立てて次々に倒れる。
「うわあ、あの太い首を一振りで落としたぞ。有り得ねえって」
またしてもドン引きする俺の呟きに、振り返ったハスフェルがドヤ顔になる。
「これは予想以上の切れ味だな。ううん、骨まで切ったはずなのに、全然抵抗が無かったぞ」
軽く剣を振って血を払ったハスフェルが、キラキラに目を輝かせながら嬉しそうにそう言って笑う。
「初手は任せるとは言ったけど、少しは残しておいてよ!」
「そうだそうだ〜〜〜一人で全部倒すなんてずるいです!」
「我らにも戦う楽しみを!」
「そうだそうだ〜〜!」
そして、一瞬で全滅させられてしまい、手を出せなかった従魔達が揃って文句を言い、ハスフェル達が揃って吹き出していたのだった。
まあ、せっかく戦えると思って喜んでいたのに、空振りに終わった従魔達の気持ちもわからないでもないけどさあ…あれを一人で全滅させるって、いくら切れ味のいい剣を持っていたとしても、やっぱり色々とおかしいと思うぞ。
完全にドン引き状態の俺は、ラパンのもふもふな毛に埋もれながら一人遠い目になっていたのだった。




