ぐだぐだな日といつもの朝の光景
「はあ、今日はなんだか凄く疲れたよ」
ヴァイトンさんとエーベルバッハさんを冒険者ギルドまで送り届けてからお城に戻った俺は、リビングのソファーに倒れ込むように座りながら小さくそう呟いた。
「確かに疲れたな。じゃあもう今日の夕食は作り置きで構わないぞ」
「ええ、良いのか?」
一応、簡単に何か作るつもりになっていた俺は、ハスフェルの言葉に思わず腹筋だけで起き上がった。
ギルドマスター達との宴会は、ほぼお酒ばかりで料理はおつまみ程度。大したものは食べていないので、確かに腹は減っている。
「構わないなら、お言葉に甘えて今夜は適当に作り置きを出すよ。明日は何かしっかり作るからな。サクラ〜〜作り置きの料理を適当に出してやってくれるか〜〜」
一応セーブして飲んでいたので、飲み過ぎってほどではない俺は心地よい酔いに身を委ねつつ、足元にいたサクラを抱き上げて机の上に乗せてやりながらそうお願いする。
「岩豚トンカツをお願いします!」
「俺も!」
「俺も頼む!」
それを見たハスフェルが何故か右手を挙げて直立しつつ大声でそう言い、ギイとオンハルトの爺さんまで一緒になって右手を挙げて直立する。
「はいはい。じゃあ岩豚トンカツも頼むよ」
「はあい。じゃあこの辺りかな?」
ビヨンと伸びたサクラが、少し考えてから岩豚トンカツをはじめとする作り置きを、やや控えめな量で色々と取り出し始めた。
それを見て、三人も手持ちの買い置き料理を色々と出してくれたもんだからかなり豪華な夕食となり、結局宴会第二弾に雪崩れ込んだ俺達は、揃ってリビングで寝落ちする事になったのだった。
まあ、今は急ぎの仕事もないし、俺達は自由気ままな冒険者稼業なんだから、こういうぐだぐだな日があっても良いよな。
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
こしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きてるって……」
翌朝、いつもの従魔達総出のモーニングコールに起こされた俺は、半ば無意識にそう答えながら腕の中にいた今朝の抱き枕役の子を抱きしめた。
お、今朝の抱き枕はフランマか。相変わらずの良き尻尾ですなあ……。
頭の中でそんな事を考えていたが、残念ながら寝汚い俺の体は全く動いてくれない。
何しろ今の俺、酷い喉の渇きと頭痛。ついでに言うとフランマの下になっている俺の左腕の感覚が無い。
フランマの前脚が、完全に俺の左腕の関節を上から押さえつけて決めてくれているからだ。
「待って、フランマ……腕が痺れてるよ……」
そう言いつつ、二度寝の海へ墜落していったのだった。ぼちゃん。
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
こしょこしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、だから起きてるって……」
二度目のモーニングコールに起こされるも、相変わらず起きられない俺。
ついでに言うと、頭痛がさっきよりも酷くなってる気がする。
「ご主人、いい加減に起きたら? もう日が高くなってるわよ」
腕の中にいたフランマの呆れた声に、俺は呻き声を上げてさらにしがみついた。
「うん、起きたいのは山々なんだけどさあ……目が開かないし、その上二日酔い……」
「ご主人、起きて〜〜」
「起きないと〜〜〜」
「舐めちゃいますよ〜〜」
「起きてくださ〜い」
その時、耳元で聞こえた甘えたような声に、俺は大いに焦った。
ちょっと待て! 今朝の最終モーニングコールは猫族軍団か。
しかも全員巨大化してるし!
起きろ俺の体、起きるんだ〜〜〜〜!」
内心大焦りだけど、俺に出来たのはもふもふなフランマの胸元に顔を埋めただけだった。
おお、ここも良きもふもふっぷりですなあ……あ、毛玉発見……今度またブラシしてやらないと……フランマの毛は長くて細いから、ふわふわで気持ち良いんだけど、油断するとすぐ毛玉になるんだよな。特にこの胸の下辺り……ここって歩く時にどうしても重なる場所だから毛玉が出来やすいんだよ……。
額に当たる妙に硬い毛玉に気づいた俺は、寝ぼけた頭の中でそんな事を考えていた。
「じゃあ、起きないみたいなので、起こしてあげてくださ〜〜い!」
「は〜〜〜〜い!」
何故か張り切ったシャムエル様の指示で、ご機嫌に返事をする猫族軍団の面々。
ザリザリザリ!
ザリザリザリ!
ジョリジョリジョリ!
ジョリジョリジョリ!
ゾリゾリゾリ!
ザリザリザリ!
ベロ〜〜〜〜〜〜〜ン!
「うぎゃ〜〜〜〜〜げふぅ!」
情けない悲鳴をあげた瞬間、腕の中にいたフランマが思いっきり俺を蹴っ飛ばして逃げていった。
そのまま転がって……うん、今朝はスライムベッドで寝ていたので、落っこちる事なく伸びた触手にキャッチされた俺は、腹の激痛と左腕の激痛にもう一回悲鳴を上げてからそのままあっけなく意識を飛ばしたのだった。




