ルベルとの対面だ!
「はあ、美味しかったです」
「いやあ、それにしても、生の魚がまさかこんな美味しい料理になるとは驚きです。ケンさん、街へ戻ってからで構いませんので、ぜひともこの寿司のレシピを教えてください。商人ギルドで正式にレシピを買い取らせていただきます」
完全に商人の顔になったヴァイトンさんの言葉に、エーベルバッハさんも真顔で頷いている。
もちろん、二人とも並んだ合計四つの弁当箱の中身は、どれも綺麗に食べ尽くしてあるので空っぽだよ。
だからその弁当、俺の感覚では一箱三人前分量なんだってば……やっぱりこの世界の人達の食べる量は、絶対に基礎設定から間違っていると思うぞ。
「気に入っていただけたようで嬉しいです。別に買い取っていただかなくても、レシピくらいいくらでもお教えしますよ。ちなみに生で食べるには、新鮮さが大事ですからね。これだけは絶対に守ってください。それから、やっぱりある程度の大きさの魚の方が調理しやすいですから。小さな川魚なんかで作るのはちょっと難しいかもですね。まあ、その辺りの事は、俺なんかよりも遥かに素材に対して知識のある料理人の方々が考えてくれるだろうから、全面的にお任せしておきます」
笑った俺の言葉に、ヴァイトンさんとエーベルバッハさんは大感激していた。
「では、この話は街へ戻ってから詳しくいたしましょう。改めまして、美味しい食事をありがとうございました。ところでその……ここへ来た目的についてなのですが……」
ヴァイトンさんの遠慮がちな言葉に、食後のお茶を準備していた俺は笑って頷く。
「まあ、満腹でルベルの背中に乗るのはちょっとお勧めしませんので、試乗会はもう少し休憩してからですね」
「「の、乗せていただけるのですか!」」
目を輝かせたお二人の声が重なる。
「もちろん、その為にこんな郊外まで来たんですからね。ええと、ちなみにここって街からどれくらい遠いんだ? ルベルが巨大化しても大丈夫なのか?」
周囲を見回しながらそう尋ねると、苦笑いしたハスフェルがある方向を見てから首を振った。
「まあ、かなり離れてはいるが、ルベルが最大サイズにまで巨大化したら、郊外に出ている冒険者に見られる恐れがあるな。一休みしたら、鳥達に乗せてもらって移動しよう。前回、ガンスを連れて行ったあの場所に行くのが良いと思うぞ。あそこなら、どれだけデカくなっても見られる心配はないから安心だよ」
そこまで断言するって、あの場所はどれだけ郊外なんだよ。ってツッコミはぐっと飲み込んでおく。
「ええと、そう言う事らしいので、じゃあこれを飲んで一服したら鳥達に乗って移動しましょうか」
緑茶の入ったカップを渡してやりつつそう言うと、お二人はもうこれ以上ないくらいの笑顔で頷いていたのだった。
って事で、食後の一服も終わったところで、巨大化したお空部隊の子達に別れて乗り込んだ俺達は、そのまま前回ガンスさんをお連れした場所へ向かった。
「おお。確かにここならば、誰かに見られる心配は無さそうですね」
「こんな場所があったんですね。しかしここはさすがに地上から来るのは無理そうですなあ」
地面に降り立ったところで、周囲を見回したお二人は感心したようにそう言って頷き合っている。
俺達全員降りたところで、今回は用のない従魔達が少し離れたところでもふ塊になって寛ぎ始めた。
マックスによると、急峻な山が連なるこの辺りは狩りをするには不向きな地形が続いているらしく、暇つぶしにちょっと気軽に狩りに行ってくる、ってわけにはいかないんだって。
うん、構わないからそこで寛いでいてくれたまえ。
後で俺が、その巨大なもふ塊に飛びこませてもらうからさ。
「では、ここで大きくなれば良いのか?」
ここで、ようやくマックスの首輪のカゴから本日の主役のルベルが出てくる。
しかし、小さい姿のままなルベルを見て、バイトンさんとエーベルバッハさんが揃って目を見開く。
「お、おお……翼がある……」
「こ、これは……確かにドラゴンだ……」
乙女のように両手を胸元で握りしめたお二人が、キラッキラに目を輝かせながらルベルを見つめている。
「じゃあ、とりあえず、あの辺で大きくなってくれるか」
苦笑いした俺がそう頼むと、面白がるみたいに目を細めたルベルはうんうんと頷いてからパタパタと羽ばたいて飛んで行った。
お二人はその場から動かず、離れていったルベルをガン見している。
うん、嬉しいのは分かるけど瞬きはしてください。
思わず脳内で突っ込んだ俺だったよ。
「では、ここで良いかな?」
かなり離れた場所に降り立ったルベルは、こっちを見ながらそう言い一気に巨大化した。
それを見たお二人が揃って歓喜の悲鳴をあげる。
でもまあ、元冒険者ならドラゴンの恐ろしさは充分知っているだろうし、勝てる相手かどうかも見ればわかるだろう。いや、そもそもあの大きさは人間が相手して良い大きさじゃないよな。
「おお……まさしくあれは、アサルトドラゴンだ……」
「ま、まさかこの距離で、攻撃される心配無しにアサルトドラゴンを見る事が出来るなんて……」
キラッキラに目を輝かせたお二人の呟きを聞いて、ちょとドヤ顔になるルベル。
「どうぞ。側へ行って好きなだけ見ていただいて構いませんよ。ちなみに俺以外と直接の会話は出来ませんが、こちらの話す言葉はルベルに通じていますからね。声をかけてからなら、少しくらい体に触れていただいても大丈夫ですよ」
「「ありがとうございます!」」
お礼の声が綺麗に重なり、文字通りルベルのところへすっ飛んで行くお二人。
そして周囲を走り回りあらゆる角度から見てから、何やらルベルに真剣な様子で話しかけ始めた。
頷いたルベルが首を空に向かって大きく伸ばし、ゆっくりと巨大な翼を広げる。
成る程。翼を広げたところを見たいと頼んだのか。
感心して見ていると、大感激なお二人の歓喜の叫びがここまで聞こえてきて、もう俺達は遠慮なく大笑いしていたのだった。
さて、この後の試乗会はどうなるのやら。
大騒ぎするお二人の様子と張り切るルベルの姿が容易に想像出来てしまい、もう笑いすぎてお腹が痛くなった俺だったよ。




