郊外目指して出発だ!
「はあ、美味しかった。じゃあ、もう午前中はゆっくりして少し早めに軽く食べてから出掛けるか。あ、だけど昼をどうするか確認しなかったな」
食後の緑茶を飲みながら思わずそう呟く。
「それなら、とりあえず何も食べずに少し早めに街へ行こう。あいつらが昼飯をもう食っているようなら、少し待ってもらって街で何か食べてもいいし、なんなら商人ギルドで部屋を借りて作り置きを食っても良かろう。もしもあいつらがまだ食事をしていないようなら、そのまま出掛けてどこかで作り置きを一緒に食べればいいんじゃあないか?」
笑ったハスフェルの言葉にギイとオンハルトの爺さんも笑って頷いているんだけど、その言葉の裏に、二人とも絶対に岩豚を食べたがっているんじゃあないか? って声が聞こえたよ。
うん、間違いなくそうだと俺も思うよ。
「そうだな。じゃあそれで行こう。ええと、じゃあ時間まではのんびり休憩でいいのかな?」
「おう、それでいいだろうさ。さすがに、今から午前中だけ地下へ行くのは時間的に無理があるだろうからな」
ハスフェルが少し残念そうにそう言い、ギイとオンハルトの爺さんまで一緒になって残念そうにしている。
そんなに地下のダンジョンへ行きたいのかよ。もう堪能しただろうが。
「別に、時間までに帰ってきてくれるなら行ってきてくれても俺は構わないぞ。ちなみに俺は、こうやって時間を潰しま〜〜す!」
残りの緑茶を飲み干した俺は、そう言って立ち上がると部屋の隅に出来ていた大きなもふ塊に向かって走っていき、そのまま両手を広げて飛び込んでいった。
「ご主人きた〜〜〜!」
嬉しそうなマニの声がして、もふ塊に飛びついた俺はそのままマニの胸に抱きつくみたいにして収まり、首元にはタロンが、脇腹にフラッフィーとティグが頭を突っ込んでくる。
その直後にマックスとニニが飛びついてきて、あとはもう何が何だか分からないくらいにマニごと揉みくちゃにされたよ。
背後から、それを見ていた三人の吹き出す音が聞こえる。
「確かに有効な時間の使い方だな」
「よし、俺も参加するぞ!」
「確かに、これは有効な時間の使い方だな」
笑った三人の声が聞こえた後すぐに振動がきた。どうやらあいつらも全力疾走してもふ塊に飛び込んだみたいだ。
大喜びする従魔達に揉みくちゃにされた俺達は、そのままもふ塊の海に沈んでいき、それぞれの従魔達とくっついて有意義な時間を過ごしたのだった。
いやあ、やっぱりもふもふは良いねえ……。
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
こしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きてるって……」
いつもの従魔達総出のモーニングコールに起こされた俺は、半ば無意識でそう答えつつ不意に感じた違和感に慌てて目を開いた。
「ご主人起きた〜〜〜」
腕の中のマニが嬉しそうにそう言って俺の鼻先をベロンと舐めた。
「痛い痛い! ってあれ?」
右手でマニの鼻先を押さえつつ、周囲を見回して吹き出したよ。
何しろ、もふ塊に沈んだ俺だけでなく、ハスフェル達三人までもが寝ぼけ眼で起き上がったところだったんだからさ。
「あはは、全員揃ってもふ塊で寝落ちかよ」
なんとか起き上がりつつそう言い、四人揃って顔を見合わせ、揃って吹き出したのだった。
一応サクラに改めて綺麗にしてもらってから、従魔達全員を引き連れて俺達は街へ向かった。
「いらっしゃい。待っていたぞ」
到着した商人ギルドでは、もう出掛ける準備万端で待ち構えていたヴァイトンさんとエーベルバッハさんだけでなく、何故かそこにガンスさんまでいて笑っちゃったよ。
もちろん、ガンスさんは留守番なので普段着だけど、他の二人はもう完全に冒険者仕様。しかも俺の目で見ても装備が半端ないレベル。
あれはどこから見ても現役の冒険者だって。
「ええ、凄いですね。お二人とも冒険者みたいですよ」
からかうつもりでそう言ったら、お二人とも兼業だったけど元冒険者だと聞いてもの凄く納得した俺だったよ。
ちなみに、商人ギルドマスターのヴァイトンさんは、元は装飾品を作る細工職人さんで、素材集めの為に冒険者もやっていたんだって。
でもって、ドワーフギルドマスターのエーベルバッハさんは、元は武器職人さんで、こちらも素材集めと作った自分の武器の出来を確認する為に冒険者も兼業していたんだって。
なんか凄い。
「ええと、昼食ってどうなさいましたか? ちなみに俺達はまだ食べていないんですけど」
話が一段落したところで、確認の為にそう尋ねてみる。
「ああ、二人ともまだだよ。ケンさん達がもしも食べているようなら、どこかで弁当を買って持って行こうかって話をしていたんだ」
笑ったエーベルバッハさんの言葉に、俺はハスフェルと顔を見合わせて笑顔で頷き合った。
「俺達もまだなんです。じゃあもうこのまま出かけましょう。天気もいいみたいですから、どこかで一緒に食べましょう」
そこまで言って、前回のガンスさんとは食事をしていなかった事を思い出した。
「あ、ちょっと待ってくれるか」
一応そう言ってからガンスさんを引っ張って部屋の隅へ行った俺は、岩豚入りの弁当をガンスさんに渡して大感激されたのだった。
「お待たせ。じゃあ行こうか」
満面の笑みのガンスさんと商人ギルドのスタッフさん達に見送られた俺達は、そのままのんびりと歩いて城門まで行き、そこからはそれぞれの騎獣に乗って出発したのだった。
ちなみに、エーベルバッハさんがセーブルに、そしてヴァイトンさんは悩みに悩んだ末にティグに乗せてもらっていたよ。
「じゃあ、郊外目指して出発だ!」
「おお〜〜!」
拳を振り上げた俺の掛け声に、全員から若干気の抜けた声が上がる。
初夏の日差しの中、マックスに乗って街道から飛び出してなだらかな草原を走りながら、岩豚も良いけど俺的にはそろそろ魚が食べたいなあ、なんてのんびり考えていた俺だったよ。




