料理の仕込みは楽しいなっと!
「ええと、じゃあ今夜にはあいつらも戻って来ると思いますので、明日、昼前くらいに出掛けましょうか。商人ギルドへ伺いますので、エーベルバッハさんと一緒に出掛ける準備をして待っていてもらえますか」
二杯目のお茶を注ぎながらそう言うと、ヴァイトンさんは分かりやすく笑顔になった。
「かしこまりました。ではその段取りで準備させていただきます。いやあ、これは楽しみだ」
少年のようにキラッキラに目を輝かせたヴァイトンさんは、そう言って淹れたての緑茶を静かに啜った。
しかし、どうやらちょっと猫舌だったらしく慌てて横を向いてハフハフしていたので、黙ってその横に冷たい水も出しておいてあげた。もちろんこれは、いつもの無限水筒から出てくる普通の水だよ。
「ああ、ありがとうございます。俺はかなりの猫舌でしてね。熱い方が美味しいと分かっている料理なんかも、少し冷まさないと食べられないので、色々と損している気がしますよ」
「あはは、俺も実を言うとちょっと猫舌なので、こういうお茶とかはかなり冷ましてから飲みますよ。飲む時にもついついフーフーしてしまうんですよね」
笑った俺がそう言いながら手にしたカップに息を吹きかけると、笑ったヴァイトンさんも同じようにフーフーと息を吹きかけた。
顔を見合わせて揃って吹き出す。
「まあ、この緑茶は熱湯ではなく沸かしかけくらいの少し低めの温度で入れるのが美味しいので、まだ大丈夫な方ですよ」
「確かにそうですね。熱々というわけではない。いやあ、少し甘みもあって美味しいですねえ」
笑ってそう言ったヴァイトンさんは、改めてお茶に息を吹きかけてからゆっくりと口にした。
それを見た俺も、軽く息を吹きかけてから緑茶をいただいたのだった。
はあ、やっぱりこのお茶、甘味があって美味しいんだよなあ……。
そうなんだよ。緑茶は熱湯ではなく沸きかけくらいの70〜80度くらいが適温なんだよ。
ほうじ茶みたいなガッツリ焙煎してあるお茶は熱湯でも大丈夫だけど、玉露みたいなお茶は、それこそ60度でも熱すぎるくらいだ。
一応、今淹れているお茶は、煎茶っぽい感じなので70〜80度くらいが適温だよ。
淹れている間に少し下がるから、ちょっと冷ましたくらいで俺でも大丈夫になるんだよな。
以前の職場にいた同僚で、お茶にはこだわりのある彼のおかげでこの辺りの知識は俺でも無駄にあるんだよ。
飲み会の度に延々と聞かされたからね。
でもまあ、今になって地味に役立っているので、どんな知識や技術もバカに出来ないんだよな。
「では、これで失礼します。明日を楽しみにしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします!」
結局三杯のお茶と茶菓子を綺麗に平らげたヴァイトンさんは、満面の笑みでそう言いながら帰って行った。
ちなみに、ここへ来るのに乗ってきたはずの馬がいなかったのでどうしたのかと思っていたら、何と収納袋からムービングログを取り出して軽々と乗って帰って行ったよ。
しかも、そのムービングログは足元に看板みたいのが前後に設置してあって、そこには流暢な文字でこう書いてあったんだよ。
移動が楽になるムービングログ、各ギルドにてご注文頂けます!
各パーツは別注も出来ますのでお気軽にご相談ください! ってね。
もう、見送りに出ていた俺は走り去る後ろ姿を見ながら大爆笑していたのだった。
さすがは商人ギルド、移動のちょっとした時間も無駄にはしません! って感じだよ。
しかも幾らなのかを明記していない辺りが、ちょっと怖い。
迂闊に問い合わせした観光客が、外車のスポーツカーレベルの価格を聞いて卒倒する未来まで見えた気がして、もう一回大爆笑した俺だったよ。
ようやく笑いが収まったところでお城へ戻った俺は、まずは買ってきた寸胴鍋各種と土鍋各種をありったけ取り出してスライム達に綺麗にしてもらい、大きな土鍋を並べて今夜の豚骨鍋をガンガン仕込んでおいた。
ちなみに具材は岩豚バージョン、ハイランドチキンとグラスランドチキンバージョン。各種つみれと水鳥バージョン。それから少し考えてグラスランドブラウンボアバージョンも作ってみた。
しかもシャムエル様と一緒に少しずつ味見してみたんだけど、マジでこの豚骨のスープ、どの肉にも合うって事が分かりもう大感激した俺だったよ。ってか、料理するのってやっぱり楽しい。
もう大丈夫だと思うまでガッツリ鍋各種を仕込んだ俺は、少し考えてまだ余っていた鶏がらスープメインで、ちょっとだけ豚骨スープを加えたスパイス控えめのさっぱりスープを作り、これにハイランドチキンとグラスランドチキンの手羽先を使って作ったつみれ各種を入れた鶏雑炊も量産しておいた。
これに溶き卵を入れたら、これまたいつも以上の激うま雑炊になってシャムエル様と二人で大感激したよ。
これで、いつでも安心して酔っ払って寝落ち出来るとか思ったのは内緒だ。
ここまで作ってもまだハスフェル達が帰って来なかったので、そのあとは鰹の一番出汁も取り出して、空いた土鍋に簡単雑炊やお粥も色々と作っておいたよ。
「ううん、まだ時間があるな。じゃあ寸胴鍋はまだあるから、他の鍋も少しずつ作っておくか。確かこの辺りはもうそれほど在庫がなかったはずだからな」
この人数だから、別に食べる時に用意しても大丈夫なんだけど、いつ何があるか分からないから食料は準備出来る時に用意しておくべきだよな。
そう考えて、スライム達に追加の具材の準備を手伝ってもらいつつ、いつもの鍋各種も順番に仕込んで行ったのだった。
「あ、明日エーベルバッハさんとヴァイトンさんと一緒に出かけるのなら、昼食には岩豚を使ったメニューを出してあげてもいいかも」
出来上がったお鍋各種を順番にサクラに飲み込んでもらいつつ、不意にそう思いついた俺は、今ある在庫でどれを出そうか割と真剣に考えていたのだった。




