来客とこの後の予定?
「到着〜〜〜じゃあ後は料理するだけだな」
街の中はゆっくりとムービングログを転がし、アッカー城壁を越えてからは思いっきりかっ飛ばした俺は、お城が見えて来たところで笑ってそう呟いた。
「ん? 誰かいるぞ?」
しかしその時、開けたままだったお城正門の前に誰か立っているのが見えて思わず急ブレーキで止まった。
一応、ここは俺のお城の敷地内。
だけどまあ、アッカー城壁は開けっぱなしにしてあるので誰かが勝手に入ろうと思えば簡単に入れる。
「まさかとは思うけど、泥棒じゃあないだろうな」
若干ビビりつつそう呟いたところで、どう考えてもこっちから見えているという事は、向こうからも丸見えになっている事実に不意に気がついた。
従魔達はスライムしかいない状況で、まさかの泥棒とタイマン張るのか?
ドン引きしつつどうしようか困っていると、振り返った謎の人物はこっちに向かって手を振ったのだ。
「あれ? って事は、少なくとも泥棒ではなさそうだな。行ってみるか」
安堵のため息を吐いた俺は、改めてムービングログに飛び乗るとググッと前に体重をかけて一気に加速した。
「おお、ケンさん。せっかく来たのに留守みたいだったから、置き手紙を残していこうかと思っていたところだよ」
笑顔で手を振りながらそう言ったのは、なんと商人ギルドのギルドマスターのヴァイトンさんだったよ。
「ああ、ヴァイトンさん! お久しぶりです。ちょっと所用で街まで行って来たんですよ」
慌ててムービングログから飛び降りた俺は、笑顔でそう言い右手を差し出した。
「お久しぶりです。ケンさんもお元気そうで何よりです」
「まあ、立ち話もなんですし、どうぞ中へ。ちなみに今、ハスフェル達が俺の従魔達も引き連れて地下洞窟に入っているので、申し訳ないんですが、ここには俺とウサギトリオとスライム達しかいないんですよね」
今ここでヴァイトンさんが来ている理由なんてもう一つしか思いつかなくてそう言うと、予想通りにヴァイトンさんはガクッって感じに肩を落とした。
「ああ、そっちがあったか。残念です。ちなみに、彼らはいつ頃お戻りの予定ですか?」
顔を上げたヴァイトンさんの期待に満ち満ちた言葉に、お城の扉の鍵を開けたところだった俺は堪えきれずに吹き出したよ。
「一応、そろそろ戻ってくる予定なんですけどね。ええと、ガンスさんからお聞きになったんですよね?」
あえて何かは言わずにそう尋ねると、一緒に中へ入ってきたヴァイトンさんは苦笑いしながら頷いた。
「ええ、聞きましたよ。また、とんでもないジェムモンスターをテイムなさったのだとか。彼から話を聞いた時にはさすがに冗談だろうと思いましたが……本当なんですよね?」
「ええ、本当ですよ〜〜まあ、俺も自分でした事ですが、やっぱり聞いただけでは信じられないだろうなあと思いますよ」
しみじみとした俺の言葉に、ヴァイトンさんは遠慮なく大笑いしていた。
一応、リビングにお通ししておき、緑茶を入れながらハスフェル達に念話で話しかけてみる。
『おおい、今、話しても大丈夫か?』
今回は大丈夫だったらしく、すぐに反応があった。もちろん、トークルームは全開だよ。
『おう、今移動中だから大丈夫だぞ。どうした?』
ハスフェルの言葉に、すぐに連絡がついて安堵のため息を吐く。
『ちょっと質問なんだけど、いつ戻ってくる?』
『ああ、地底湖の探索を一旦終えて、ベリー達と一緒に今地上に向かっているところだよ』
『例のスープ、仕上がったんだろう?』
『楽しみにしておるぞ』
笑った三人の期待に満ち満ちた返事に思わず吹き出す。
『了解、じゃあ今夜は鍋パーティだな。実は今、お城にヴァイトンさんが来ているんだよ』
『ああ、もしかしてルベルを見学に来たのか』
『そうそう、いないって聞いてがっかりしていたよ』
笑ったハスフェルの言葉に俺も笑って答える。
『じゃあ、ヴァイトンの予定を聞いて、都合が良ければ明日にでも郊外へ出るか』
『了解、ちょっと聞いてみるから待ってくれよな』
用意出来た緑茶を、座って待っていたヴァイトンさんの前に差し出しながら聞いてみる。
「ええと、今夜には戻るみたいです。ヴァイトンさんの明日以降のご予定は?」
「今なら急ぎの仕事はほぼないのでいつでも大丈夫です。ちなみにエーベルバッハも大丈夫ですから、いつでもケンさんの都合の良い時にお声がけいただければ、すぐにでも来ますので」
キラッキラの目でそう言われて、危うく緑茶を噴き出すところだったよ。
「あはは、それなら明日にでも郊外へ行きましょうか。ええと、だけどお二人同時に出掛けるのはまずいんですよね?」
そんな事をガンスさんが言っていたので確認の為にそう尋ねたんだけど、ヴァイトンさんは満面の笑みで首を振った。
「ガンスが、何かあれば初動は責任を持って対応してくれると言ってくれましたので、二人同時でも大丈夫です。一応、万一の際に備えて音の鳴る連絡用の道具を持っていきます。万一何らかの事態が起こった場合にはそのベルを鳴らしてくれるので、その際には申し訳ありませんが大至急街までお戻りいただけますか」
おお、そんな道具があるんだ。
「まあ、かなり上位のジェムを入れなければいけないので、普段はそう軽々には使いませんがね。ここから王都程度までの距離なら余裕で反応しますので。郊外へ行っても安心です」
ドヤ顔でそう言われて、俺も笑ってサムズアップを返したのだった。
よし、あとでギルドへ行ってまた各種ジェムと素材をがっつり置いてこよう。
まあ、あの飛び地へいって相当量のジェムや素材を確保しているだろうけど、多くて困る事はないだろうからね。




