いつもと違う朝と今日の色々
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
いつものシャムエル様とカリディアのちっこい手が俺の額を叩く。
「ケン、いい加減起きてくださいよ」
ペチペチペチペチ。
それから笑ったベリーの声と共に頬を軽く叩かれる。
「ご主人、起きなさいなの!」
そして最後に、フランマの前脚が俺の口元を力一杯押し込む。
「痛い痛い、それは痛いからやめてください。うん、起きるよ。ふああ〜〜」
フランマの前脚を掴んで止めた俺は、笑いながらなんとか目を開けてゆっくり起き上がった。
「おはようございます。ケンも起きたようですので、私達はまた地下へ行かせていただきますね」
俺が起きたところで笑ったベリーがそう言い、フランマとカリディアが一瞬でベリーの横に並んだ。
「じゃあまたね〜!」
「いってきま〜す!」
「おう、いってらっしゃい。でも無理はだめだぞ。怪我なんかしないようにな〜」
「もちろん分かってるわ。それじゃあね!」
得意げなフランマの言葉にカリディアも笑って頷くと、ベリーと一緒に駆け出して行ってしまった。
ベリーにはこの屋敷の合鍵を一通り渡してあるから、戸締りの心配はしなくていい。
「はあ、とりあえずベッド役ご苦労。なかなかの寝心地だったよ」
いつものサイズに戻ったウサギトリオを撫でたり揉んだりしてやってから、スライム達を引き連れて顔を洗いにいった。
でもって昨日と同じく思い切りスライム達と水遊びを楽しんでから、部屋に戻っていつものサンドイッチとホットオーレの朝食を食べたよ。
ウサギトリオと水遊びを満喫したスライム達を引き連れて厨房へ向かった俺は、午前中いっぱいかけて昨日仕込んだ各種スープを確認したり改めて漉したりして、あとはスライム達に手伝ってもらって、鍋用の岩豚肉団子を作ったり巨大手羽先を使って鶏団子を作ったりして過ごした。
昼にはもう一回豚骨ラーメンを作った。
一応、シャムエル様用には食べやすいように短く刻んだ麺と少し冷ましたスープで用意したので、今回は俺ものんびりと豚骨ラーメンを満喫出来たのだった。
「ううん、やっぱり美味しいねえ。ねえ、これで鍋にしたら絶対美味しいよね!」
スープまで残さず平らげたシャムエル様の言葉に、ドヤ顔で頷く俺。
「おう、午後からはこれの鍋をガッツリ仕込むぞ。あいつらもそろそろ帰ってくるみたいだから、帰ってきたら鍋パーティーだな」
大量に取り出してもらった鍋用の野菜各種を見ながらそう言うと、満面の笑みになったシャムエル様がクルッと見事なとんぼ返りを切った。
「食、べ、たい! 食、べ、たい! 食べたいよったら食べたいよ〜〜〜〜! 豚骨鍋を食べたいよ〜〜!」
そして、新作豚骨鍋食べたいの歌を歌いながら高速ステップを踏み始める。
残念ながらカリディアはいないので、今日はソロダンスだ。
「あはは、お見事! じゃあ、ご期待に添えるように頑張って作るよ。ええと、これをいつもの鍋仕様に切っておいてくれるか」
待ち構えているスライム達に野菜の仕込みはお任せしておき、俺はスープを作ろうとしたところで重大な問題に気がついた。
「ああしまった。寸胴鍋がもうないぞ」
結構あったと思っていたんだけど、鶏がらスープと豚骨スープでありったけ使ってしまったので、配合する鍋が無くなっちゃったんだよ。
しばし無言で考えた俺は、置いてあった鞄を手にサクラを見た。
「サクラ、ちょっと鍋を買いに街まで行くから一緒に行ってくれるか。他の子達は、仕込みの続きを頼むよ」
「はあい、じゃあ行きま〜す!」
俺の言葉にピョンと跳ねたサクラが、そのままもう一回跳ねて俺の鞄に飛び込んで収まった。
「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
「はあい、いってらっしゃ〜い!」
張り切るスライム達に見送られて足早に廊下を歩いて外に出た俺は、ムービングログを取り出して飛び乗ると一気に加速して街へ向かったのだった。
もちろん、アッカー城壁を抜けた後はちゃんと速度を落として安全運転したよ。
そのまま以前鍋各種を買った道具屋筋に向かった俺は、お粥や雑炊も作り置きしておこうと思い、寸胴鍋各サイズと一緒に、大きなサイズの土鍋もガッツリと買い込んだのだった。
「うん、飲んだ翌朝用のお粥各種と雑炊各種は、ガッツリ用意しておかないとな」
大量に買い込んだ鍋各種を鞄に入ったサクラに収納してもらいつつ、あの豚骨スープで雑炊を作るのはありかな? でも、飲んだ翌朝にはちょっとキツイかな? なんてのんびりと考えていたのだった。
「よし。飲んだ翌朝にはさすがにガッツリ豚骨味はキツイだろうけど、別に普段用になら豚骨雑炊もアリかもしれない。とりあえず一度作ってみよう!」
鞄を背負い直した俺は、にんまりと笑ってムービングログに飛び乗ったのだった。




