スープの仕込みと今夜の予定?
「はあ、美味しかった。これは冗談抜きで良いスープが出来たよ。よし、とりあえず教えて貰った配合であるだけ作っておいて、この後にまた豚骨スープと鶏がらスープを量産しておこう。あいつらも絶対にこれは好きだと思うから、このスープは大量に準備しておくべきだよ」
スープも全部飲み干したところでそう呟いた俺は、食後のお茶を飲んで一休みしてから、まずはこの激うま豚骨スープをあるだけ作っておいた。
その合間にスライム達には、減っていた特製スパイスを準備してもらい、それが出来上がったところで手持ちの寸胴鍋を総動員して、材料をあるだけ全部使って豚骨スープと鶏がらスープを仕込んでいった。
『おおい、今日は帰ってくるのか〜〜?』
並べた鶏がらスープの鍋のアク取りをしながら、念話でハスフェルに話しかけてみる。
『すまん、後でな!』
しかし、トークルームが広がった瞬間、ハスフェルの叫ぶような声が届いてすぐに途切れた。まさにガチャ切り。
「あはは、戦闘中だったか。そりゃあ悪い事したな。じゃあ、そのうち何か言ってくるだろう」
苦笑いしてそう呟く。念話は基本的に携帯の電話と同じで相手の状況が分からないからな。
って事で、何か言ってくるだろうからもうそっちは放置で、あとはひたすら出てくるアクをすくい、豚骨スープの鍋をかき混ぜ続けた。
『さっきは悪かったな。もう大丈夫だぞ』
出来上がった鶏がらスープをスライム達に手伝って貰って濾していたところで、苦笑いしたハスフェルの念話が届いてトークルームが頭の中に広がるのが分かった。
『こっちこそすまなかったな。それで、いつ戻って来るんだ?』
『おう、絶対王者を含めてなかなか楽しく狩りまくっているぞ。今回は、ベリー達も一緒に回っているから、今、最下層の水没地帯から戻ってきたところだよ。まだ数日程度はここでこのまま狩りをしようかと思っているんだが、そっちはどんな感じだ?』
俺が新メニューの仕込みをするって言ってあるので、そっちが気になるみたいだ。
『ふふふ、もう最高のスープが出来たよ。帰って来たら、これに岩豚を合わせた豚骨鍋にしようと思っているから、まあ楽しみにしていてくれ。今からこれを量産するところだ』
ドヤ顔になった俺の言葉に、三人の喜ぶ声が重なる。
『じゃあ、戻る時にまた連絡するから、準備をよろしくお願いします!』
『よろしくお願いします!』
『よろしくお願いします!』
何故か最後は敬語になったハスフェルの言葉に、ギイとオンハルトの爺さんの嬉しそうな声が重なる。
『了解、じゃあ帰ってくる時は早めに知らせてくれよな。狩りの方はまあ、無理しない範囲で頑張ってくれたまえ』
『了解だ。ああそうそう。従魔達が昨夜、お前のところに添い寝役の子が誰もいないって気がついて大騒ぎしていたぞ。後でシャムエルから一緒に寝たと聞いて皆で大笑いしていたんだ。どうする? 一応、ウサギトリオが帰ってもいいと言っているんだがな』
笑ったその言葉に、思わずシャムエル様を見る。
「言っておくけど、毎晩は嫌だよ。私の大事な尻尾の毛に変な癖がついたらどうしてくれるんだよ」
ふんす、って感じに鼻先に皺を寄せたシャムエル様にそう言われてしまった。
連夜の尻尾パラダイスは、残念ながら断られてしまったみたいだ。
『戻ってきてくれるなら俺は嬉しいけど、ウサギトリオだけで戻ってきて、万一にも途中に絶対王者と遭遇したりしたら大変だろう?』
ウサギトリオの面々だってそれなりには強いけど、さすがに絶対王者とタイマンは張れないだろう。
『ああ、戻るのならベリーが一緒に行ってくれるそうだから、その心配は無いよ』
『はあい、私が責任を持ってウサギトリオを地上までお送りしますよ〜』
笑ったハスフェルの言葉の後に、得意そうなベリーの笑う声が聞こえて俺は安堵のため息を吐いた。
『ベリーが一緒に戻ってきてくれるなら安心だな。じゃあ、ウサギトリオの事はよろしくお願いします。ええと、食料はまだ大丈夫だよな?』
作り置きの弁当をガッツリ渡してあるから、まだ大丈夫なはずだ。多分。
『おう、おかげでそっちはまだまだ大丈夫だよ。何か新作の作り置きがあれば別だが?』
ギイの何やら言いたげな言葉にわざとらしくため息を吐く俺。
『残念ながら、今回はスープの仕込みで手一杯だよ。これ、思った以上に意外に手間と時間がかかるんだって。しかも延々と煮込みをするから、これに関してはスライム達に手伝ってもらえないから全部俺がしているんだぞ。大変なんだよ。じゃあ、添い寝役のウサギトリオが帰ってくるのを心待ちにしているから、他の皆は、頑張って狩りをしてくれたまえ』
笑った俺の言葉に三人も笑いながら任せろと言い、従魔達が俺の言葉を聞いて大張り切りしていると聞かされて思わず吹き出した俺だったよ。
トークルームが閉じられた後も、俺は笑いが止まるまでしばらくかかったのだった。
ジェムも素材も、めっちゃまだまだあるからそんなに必死になって集めなくていいんだからな。
でもまあ、ウサギトリオが帰ってきてくれると分かり今夜のベッドが確保されて安心した俺は、そのあとはまた豚骨が入った鍋を棒でひたすらかき混ぜて回ったのだった。
「おやおや、またすごい匂いですね。しかも鍋が増えていますね」
豚骨スープの煮込みが佳境に入った頃、笑ったベリーの声が聞こえて振り返る。
「「「ただいま戻りましたご主人!」」」
小型犬サイズのウサギトリオが揃ってそう言い、その場でぴょんと飛び跳ねて見せる。
一応、煮立った鍋がすぐ側にあるので、いつものように飛びついてくるような事はしない。
「おかえり〜〜今、手が離せないから、もうちょっと待ってくれよな」
「はあい、ここだとお手伝い出来ない我らはお邪魔だと思うので、お部屋でお待ちしていますね〜」
ラパンがそう言い、手を挙げたベリーと一緒に部屋を出ていった。
「ごめんよ。まあゆっくりしていてくれ」
後ろ姿を見送りながらそう言った俺は、そのままかなり遅い時間になるまで、ひたすら豚骨の入った寸胴鍋をかき回し続けたのだった。




