何が出たって??
突然の爆発音と共に現れた、ジェムモンスター狩りに行ったはずの神様達。
従魔達は置いていったから歩きで出て行ったけど、幾ら何でも戻ってくる方法、乱暴過ぎだろうが!
折り重なるようにして草地に転がる彼らを見て、俺は慌てて駆け寄ったのだった。
「おい、大丈夫か! 一体どうしたんだよ」
……沈黙。
見ると、一番下が仰向けになったギイとハスフェル、その上には手を取り合ったグレイとシルヴァの女性二人が、半ばハスフェルと抱き合うようにして乗っかっていて、その上に両手を広げたエリゴールとレオが彼女達に覆い被さるようにしてうつ伏せになって乗っかっている。最後に一番上に倒れ込んでいるのはオンハルトの爺さんだ。
そのオンハルトの爺さんは、まだ巨大な斧を右手に構えたままだ。おお、あのデカさの武器を片手で持てるって、何気に凄えぞ爺さん。
全員が放心状態で固まったように動かず、呼び掛けにも全く反応が無いのでどうしようかと困っていたら、突然、全員揃って笑い出した。
しかも、大爆笑。
全員が、もう堪え切れないって感じでひきつけを起こしたみたいになって笑っている。
女性二人とエリゴールは笑い過ぎて涙が出てるし。
まだ笑っているオンハルトの爺さんが、山の上から転がり落ちるようにして飛び降りる。
一瞬にして持っていた武器は消えて無くなった。多分、収納したんだろう。
山が崩れて全員が立ち上がったが、エリゴールと女性二人はしゃがみ込んでまだ笑っている。
一番最後のギイが起き上がるのに手を貸しながら、全く状況が把握出来ない俺は、呆れたように机に座る小人のシュレムを見た。
「なあ、これの状況説明を求めても良いか?」
「いやあ……さすがにこれを私に聞かれても、正直言って何が何だかさっぱり分かりませぬなあ。ほら、お前ら。ケン殿が驚かれておるではないか! 何があったか洗いざらい吐け。まずは全員、そこへなおれ!」
シュレムのややきつい大声に、苦笑いしたエリゴールとレオ、女性二人も草地に座る。ハスフェルとギイは、まだその場に座り込んだままだし、オンハルトの爺さんは、空いていた椅子に座ってまだ笑っている。
「で、何があったんだ?」
目を細めてやや低い声でそう聞いてやると、ハスフェルの奴、俺から目を逸らしやがった!
「いやあ、まさかあんな事になるとはなあ……」
「だよな、あれは反則だ」
ハスフェルの言い訳がましい言葉に、ギイまでもが同意するように頷く。
「そうよねー。あれは無いわ。あれは反則」
「本当よねー。あれは駄目だわ」
女性二人も、おそらく意図的に主語が無いままに指示語だらけで同意する。
「だから、何があったのか洗いざらい吐けと言ったぞ」
おう、シュレムの声が一段低くなったぞ。
何やら、周りの空気までもが温度が下がった気がするのは、気のせい……だよな?
ビビったのは俺だけじゃなかったようで、全員が慌てたように座り直し、互いを見て無言で誰が話すか押し付けあってる。
「何だかなあ。向こうでは日常的な光景だけど、人の姿でされた途端に、ものすご〜く情けない気分になるのは何故なんだろうね」
シャムエル様が、俺の肩の上で、呆れたようにそう言って大きなため息を吐く。
「ほら、本気でシュレムを怒らせる前に、とっとと吐きなさい。何処で何をして来たんだい?」
シャムエル様の声も、いつもの可愛い声と違って神様バージョンの声になってる。
思わず後ずさった俺は、間違ってないよな?
神様同士の喧嘩に巻き込まれるなんて、絶対ごめんだからな!
とりあえず、近くにいたニニに抱きつく。
ああ、癒されるよ……この柔らかな毛並み……。
もふもふに埋もれて現実逃避している俺を放置して、神様軍団は全員、シュレムの前に素直に並んで地面に座っている。
叱られてる子供達みたいで、ちょっと笑ったのは内緒な。
「いやあ、この顔ぶれだからさ。最初は予定通りに普通のジェムモンスター狩りに行ったんだよ。だけど、早々に狩り尽くしてしまってな。それで、例の未踏の地下洞窟のマッピングだけでもしておきたいって、こいつらが言い出してなあ……」
「行ったのか?」
腕を組んだシュレムの問いに、素直に頷く一同。
駄目だ、完全に部外者だから言えるんだろうけど、大の大人が揃って小人に叱られてる図って、面白え!
今度は笑いを誤魔化すためにマックスに抱きつき、むくむくの毛に顔を埋める。
「で、何が出たんだ?」
シュレムの問いに、ハスフェルは大きなため息を吐いて顔を上げた。
「なあシャムエル、お前さん、一体何を考えてあんなのを召喚したんだ?」
突然話を振られて、俺の肩に座っていたシャムエル様は目を瞬かせた。
「ええ? 何の話?」
またしても……沈黙。
「ちょっと待て! あれはお前がやったのでは無いのか?」
「だから何の話? 私には何を言われているのか分からないよ?」
可愛らしく首を傾げるシャムエル様は、しらばっくれているのではなく、本当に分からないみたいだ。
「ええ、じゃあ一体どうやってあそこに来たんだよ?」
エリゴールの叫ぶ声に、オンハルトも呆然としつつ頷いている。
「そうよ。私達はてっきりシャムエルが悪戯で影を召喚したのだとばかり思っていたのに!」
「あそこにいたのが実体だって分かった時には、本気で血の気が引いたものね」
グレイの言葉に、泣く真似をしながらシルヴァも何度も頷いている。
「で、本当は何が居たんだよ?」
思わずそう尋ねると、ハスフェルとギイが揃って大きなため息を吐いてこっちを見た。
「暗黒竜だよ。しかも、完全実体のとんでもなくデカいのがな」
暗黒竜? いかにも強そうな名前だけど、神様が束になっても叶わない程の相手なのか?
よく分からなくて、肩に座っているシャムエル様を見ると、シャムエル様は尻尾の毛を逆立てて完全に硬直していた。
うわあ、何あの尻尾……今すぐもふりたい!
「え? ちょっと待って。それ冗談じゃな……」
「冗談じゃ無いぞ。本気も本気。俺達は通路を抜けた先にあった巨大な空間で、いきなりあいつと顔を付き合わせたんだからな。俺達に気付いた暗黒竜が、叫び声を上げてものすごい勢いで突撃して来たんだぞ。咄嗟にギイが巨大化して庇ってくれなければ、誰か死んでてもおかしくなかった程の勢いだったんだからな。さすがに俺達がこの世界で奴と本気でやりあったら、影響は冗談では済まんからな。咄嗟に跳躍の術を発動して戻って来たのさ」
それで、ギイが金色のティラノサウルスだった訳だね。
何だか分からんが、とんでもない相手だったって事だけは分かったよ。
納得して遠い目になる俺を見て、その当のギイは笑っている。良いのか!
「うわあ、ちょっと確認してくる。待っててね」
そう言うと、いきなりシャムエル様は消えてしまった。
消えたシャムエル様を見送った直後、シュレムも含めて、また全員が笑い出した。
「成る程な。其方らが泡食って逃げて来る相手は何処の誰かと思ったが、暗黒竜なら無理も無い。まあ、後始末はシャムエルに任せておけ」
シュレムがそう言い、皆に立ち上がるように手で示す。
まだ笑っていた彼らも頷いて立ち上がり、それぞれ椅子を出して座った。
話が一段落したみたいなので、気分を変える意味も込めて淹れたばかりのコーヒーを出してやる。
「ホットとアイス、どっちが良い?」
「アイスで頼む!」
「俺もアイス!」
ハスフェルとギイが、即座に手を上げて答える。
「アイスって何?」
不思議そうにシルヴァがハスフェルを見る。
「冷たく冷やしたコーヒーだよ。美味いぞ」
「じゃあ私も!」
「私もお願いします!」
次々に、全員の手が上がるのを見て、手早く砕いた飲み物用の透明な氷の入った器とアイスコーヒーを出してやる。一応、作ったガムシロップとミルクも横に一緒に並べて出しておく。
「はい、ご自由にどうぞ」
「何か甘い物は……あ、久々にログインボーナスチョコ食べたい」
小さく呟き、取り分けたチョコをお皿に出しておき、ちょっと考えてメロンパンも取り出して小皿と一緒に並べておいた。
「甘いのが食べたい人は、これもどうぞ」
自分用に小皿にチョコを二粒取り、マイカップに氷とアイスコーヒーを入れる。
セルフで入れるコーヒーと一緒に、男性陣はチョコを、女性二人は予想通りに両方取って食べている。
「何これ、美味しい!」
「本当ね、美味しい!」
嬉しそうにそう言って笑う二人を見て、オンハルト以外の全員が嬉しそうにメロンパンも取ったのを見て、俺はちょっと笑ったよ。
本当に何だろう、この可愛い神様達は。