まずは試作の豚骨ラーメンだ!
「さあてっと、じゃあ始めるぞ〜〜!」
広い厨房を見回した俺は、そう言って腕まくりをすると昨日も使っていた作業台の前に立った。
「ええと、誰かこのレシピメモ、確保して見えるようにしておいてくれるか〜」
あの鍋料理の店でおやっさんから貰ったレシピメモを取り出した俺は、そう言いながらスライム達を見る。
「はあい、やりま〜す!」
側にいたイプシロンが得意そうにそう言うと、触手を伸ばして俺の手からレシピメモを受け取り作業台の端で伸び上がってメモを広げた。
その際に、ちゃんと体の一部を平らにしてメモを当て、それをこっちに向けてくれているからメモが折れる事もない。
「ありがとうな」
笑って手を伸ばしてイプシロンを撫でてやる。
「任せてね〜〜〜〜!」
得意そうなその言葉に、笑ってもう一回撫でてやったよ。
「サクラ、まず昨日作った豚骨スープと鶏がらスープ、それから一番出汁を出してくれるか」
「はあい、これだね!」
レシピを熟読しつつまずはサクラに昨日作ったスープ各種を出してもらう。それからレシピを読み上げて、各種調味料やスパイスも取り出してもらう。
スパイスは、指定通りに量を計っていき、手の空いているスライム達に手分けして細かく砕いたりすりつぶしたりしてもらう。
スパイス単品は、基本的にそのままの状態で保管してあるからね。
特製スパイスが出来上がったところで、やや小さめの寸胴鍋を取り出して各種スープをこれまたレシピを確認しながら指定量を計り、寸胴鍋に入れて混ぜる。
「あとは、この特製スパイスとすりおろした生姜と同じくすりおろしたニンニク、豆乳とお酒、みりん少々、それで一旦煮立たせてから味を見て塩と醤油で味を整えるっと」
豚骨スープと鶏がらスープを作るのに時間がかかるが、それ以外は案外簡単だ。
「だけど、ここからが奥の深いところなんだよなあ」
小さくそう呟いて、改めてレシピを確認する。
この貰ったレシピには、各種スープの配合の比率と一緒に、今回参考にした作りやすい量が具体的なグラム数で書かれているのだが、その横には、慣れてくれば配合を変えて自分好みの味を探せ、と、わざわざ注釈が書かれている。
「つまり、この配合はあの店の黄金比であって、俺の黄金比じゃあないって事なんだよな。まあいい、とりあえず味見だ味見」
小皿を取り出した俺は、煮立ち始めたスープをもう一回しっかりとかき混ぜ、少しだけ小皿にすくい取った。
「ううん、もうちょい塩味だな。あとは……胡椒かな?」
味は良いんだけど、なんだかちょっとボケた味っぽくて、少し考えて普通の胡椒を追加してみる。
「お。良い感じになったぞ。よしよし、じゃあこれで一旦火を止めて麺を茹でてみよう。サクラ〜生麺ってまだあったよな?」
「はあい、これだね」
即座に作業台の上に飛び乗ったサクラが、セレブ買いで見つけた生麺を取り出してくれる。
その横で、普通サイズのお椀を手に高速ステップを踏み始めたシャムエル様を見て、俺は無言でふた玉お皿に取り分けたよ。
「じゃあ、麺を茹でる間に具材の準備だな」
大きめの片手鍋にたっぷりの水を入れて火にかけてから、昨日仕込んでおいた味玉を取り出してみる。
「おお、良い感じになってるじゃあありませんか〜よしよし、じゃあこれはそのまま使えるな。チャーシューは……岩豚の角煮のちょっと硬めのがあったから、あれを使おう!」
「これだね。はいどうぞ〜!」
俺の呟きを聞いたサクラが、即座に俺が言ったやや硬めの岩豚の角煮を取り出してくれる。
これは、煮汁がちょっと濃かったのと、単にそのお肉がやや硬かっただけだったみたいで、あのとろける角煮のプルプル感があんまりないお肉だったんだよ。
でも、薄切りにすれば美味しくいただけたので、今度ラーメンを作るときに使おうと思ってよけておいたものだ。
「じゃあこれ、薄めのこんな感じで全部で二十枚切ってくれるか」
最初の一枚だけ切って見本を見せれば、優秀なスライム達があとは喜んでやってくれる。
「あ、さすがにメンマは無いなあ。仕方がないからコーンでも入れてみるか」
刻んだネギの入ったお椀も取り出してもらったところで、そう呟く。
茹でてから粒にバラしてもらったコーンもあるので、それも出しておいてもらう。
「お、お湯が沸いたな。おおい、誰かこれ一回分計ってくれるか」
五分の砂時計を取り出し、側にいたベータが即座に確保してくれる。
ちゃんと俺が麺を鍋に入れたのを見てから砂時計をひっくり返してくれたベータを、俺は笑って撫でてやったのだった。
さて、新作豚骨ラーメンのお味はいかに?




