スープの仕込み完了!
「ああ、今から夜の事を考えると寒くなってきたぞ。お願いだから帰ってきてくれ〜〜〜」
予想外の展開に半泣きになりつつため息と共にそう呟いた俺は、しばらく放置していたために鍋のふちに溜まったアクをすくいながら、もう一回大きなため息を吐いた。
「あれ? もしかして、冗談抜きでもふもふ成分一切無しで寝るのって……異世界に来てから初めてじゃね?」
また豚骨スープをかき混ぜながら、不意に気付いた重大な事実に愕然とする。
初めてこの世界で目を覚ました時は、無限ループみたいな広い草原でたった一人だった。
だけどすぐに巨大化したマックスとニニが合流してくれ、シャムエル様と共に俺の旅が始まったんだよ。
その後仲間達は人も従魔もどんどん増えていき、一時はすごい人数だったからね。
その間、マックスとニニをはじめとした従魔達は常に俺と一緒にいてくれた。
そのもふもふやむくむく達が誰もいないなんて……。
「俺、冗談抜きで今夜は寒くて寝られないかも。広すぎるベッドじゃあなくてコタツに潜り込んで寝た方がいいかも」
冗談抜きで肩を落として小さくそう呟いていると、不意に俺の腹がググ〜と間抜けな音を立てた。
「おう、すっかり忘れていたけど完全に昼の時間を過ぎているな。よし、作業の合間になるけど作り置きで何か食おう」
厨房に椅子は無いので、手持ちの折りたたみ式の椅子を空いている作業台の前に取り出して座る。
「ええと、手で掴んで食べられそうな作り置きって、サンドイッチ以外だと何がある?」
朝と同じメニューはちょっと悲しいので、それ以外で聞いてみる。
「それならこの辺りかな。ハンバーガーセットだよ」
以前、ここバイゼンでスライムトランポリンのイベントをやった際にも食べた、あの巨大ハンバーガーセットだった。
まあ、確かにこれなら手掴みで食べられそうだ。
「それとこれだね!」
そう言ったサクラが、マイカップに入れたコーヒーを取り出してくれた。
「ご主人、ミルクは要りますか?」
「いや、これならブラックの方が良さそうだ。このままもらうよ」
そう言って、コーヒーの入ったマイカップを受け取る。
「ううん、何度見てもデカいな。これを俺一人で食べ切れるかな?」
周りを見てもシャムエル様がいないので思わずそう呟くと、その瞬間目の前にシャムエル様が現れた。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜っじみ! ジャカジャカジャン!」
大きなお皿を一瞬で取り出したシャムエル様が、今日は一人でご機嫌なステップを踏み始めた。
「はいはい、じゃあちょっと待ってくれよな」
装備していたナイフを抜いてハンバーガーを半分に切って、少し考えてから大きい方を差し出されたお皿に置いてやる。それから、ポテトとナゲットもたっぷりと盛り合わせてやった。
コーヒーは、差し出された小さな盃に入れてやる。
「ありがとうね! では、いっただっきま〜〜〜す!」
ご機嫌でそう言ったシャムエル様は、やっぱり頭からハンバーガーに突っ込んでいった。
「相変わらずだねえ。じゃあ俺もいただこう」
笑ってもふもふな尻尾をこっそり撫でつつ、俺も半分に切ったハンバーガーにかぶりついた。
「さてと、鶏がらスープはこんなものかな」
急いで食事を終えた俺は、あとはもうひたすら豚骨スープの鍋をかき混ぜ、合間にアクが完全に出なくなるまでひたすら鶏がらスープのアクをすくい続けた。
とりあえず、先に出来上がった鶏がらスープを布巾を敷いたザルに注いで漉し、別の寸胴鍋に入れてからサクラに収納しておいてもらう。
もちろん、濾した後の鶏ガラやくたくたになった野菜は、全部スライム達が大喜びで食べてくれたよ。
それから、豚骨スープが出来上がるまでの間に、ちょっと減っていた鰹出汁もガッツリ二番出汁まで準備しておいた。
結局、日が暮れても延々とまだまだ終わらずにひたすら煮込み続けた豚骨スープが仕上がったのは、ほぼ深夜になってからだったよ。
「疲れた〜〜〜! でも、おかげでガッツリ濃厚な豚骨スープが出来たな。ああ、こっちの骨は全部食べちゃってくれていいぞ」
ザルの中に残った豚骨の骨と微かに残った野菜くずをスライム達が取り囲んでいるのを見て、濾した豚骨スープの寸胴鍋に蓋をした俺は、笑ってそう言ってやった。
「わあい。では皆で一緒にいただきま〜〜す!」
一瞬で全員合体してゴールドスライムになったスライム達が、ザルごと飲み込んでもぐもぐし始めた。
「ううん、なんだかすごい臭いだな。体まで豚骨臭がこびりついた気がするぞ」
ゆっくり深呼吸をして、厨房全体に漂う豚骨臭に気付いて思わず吹き出す。
「じゃあ綺麗にするね! ついでに換気もしま〜す!」
その時、跳ね飛んできたサクラがググッと伸びて俺を包み込んだ。
解放されたその時には、まとわりついていた豚骨臭は綺麗さっぱり無くなっていたよ。
しかも、奥の壁側上に作り付けられていた換気用の小窓が全部開けられ、しかも一気に風が吹き込んできた。
驚いて見ると、窓に張り付いたスライム達が団扇みたいに触手の先を開いてパタパタとあおいで空気を入れ替えてくれていたのだ。
「おお。またしてもスライム達の新技発見だ。こりゃあすげえな」
感心したように笑って、側にいたサクラを撫でてやったのだった。
はあ、とりあえず腹が減ったので、一人で寂しいけどまた何か食うとするか。




