まずは下ごしらえから!
「マックスはダンジョンに行っちゃったから、街へ行くならこれだな」
まだお掃除してくれているので、サクラだけを連れて残りの子達をそのまま厨房に置いてきた俺は、お城を出たところで自分で収納していたムービングログを取り出した。
さすがに歩いて街まで行って帰ってきたら、それだけで一日終わりそうなのでここは文明の利器に頼るべきところだよな。
アッカー城壁までは思いっきり速度を上げて走り、城門を通り抜けた後はそれなりの速さで街へ向かった。
まずは、街にあるいつもお世話になっているお店を見て回る。
鶏ガラは、デカいハイランドチキンやグラスランドチキンのがあるけど、まずは普通の鶏で作ってみようと思ったんだよな。
その結果、牧場直営の大きなお肉屋さんで無事に豚骨と鶏がらをゲット出来た。
お店には並んでいなかったんだけど聞いて見たら、お店向けに量り売りしてくれるのがあると聞いて、迷惑にならない範囲でがっつりまとめ買いさせてもらった。
「これで材料は無事にゲットだな。他の材料は手持ちの分で全部あるし、じゃあ帰って早速仕込みにかかろう」
一応、途中のお店でいくつか夏野菜が出ていたので買い物もしつつ急いでお城へ戻った。
ううん、毎回思うがムービングログで出かけるとマックスの有り難さを実感するよ。
「お待たせ〜〜〜じゃあ仕込みを開始するぞ〜〜!」
お城へ帰ったところで、お掃除を完璧に終えて待ち構えていたスライム達と合流した俺は、買ってきた大量の豚骨と鶏ガラを取り出し、早速仕込みを始めた。
まずは、一段大きな寸胴鍋で豚骨スープを作ってみるよ。
「ええと、まずは骨を叩いて割っておく。これはスライム達にお願い出来るな。おおい、この太い骨を割ってくれるか」
師匠のレシピ本の豚骨スープのページを開いてアルファに固定してもらった俺は、それを見ながら取り出した豚骨を待ち構えていたスライム達に渡す。
これはいわゆる大腿骨に当たる部分の一番太い骨だ。豚骨といえばこれだよな。
がっつり割ってくれたところで、まずは大量の水で豚骨を下茹でする。
これで臭みや汚れが取れるわけだ。
ちなみに豚骨スープを作る際に、必ずかき混ぜ用の長い棒を用意するように師匠のレシピに書いてあったので、さっき街へ行った際に道具屋で一番長い麺棒を仕入れてきたよ。
1メートル以上は余裕であるそれで、鍋底に骨についた肉が焦げ付かないようにひたすら混ぜていく。
がっつり小一時間茹でたその最初の茹で汁は臭みがあるので全廃棄するから、これはそのままスライム達に片付けてもらう。
下茹でが終わったところで、新しい水と一緒にネギとニンニク、それから生姜のぶつ切りあとは普通のリンゴとナシなんかを半分に切ってぶっ込んでおく。うん、豪快だね。
そのまま鍋を火にかけ、ここからは時々かき混ぜながらひたすら煮込んでいくだけ。
もちろん、水が減ったら追加で入れるよ。
その隣にまた一番デカいサイズの寸胴鍋を取り出し、こちらには鶏がらスープを作っていく。
まあ、これは以前バイトしていた定食屋でも作った事があるので、師匠のレシピと俺の記憶を突き合わせほぼ変わりない事を確認したので、定食屋方式で作っていくよ。
まず、普通の鶏ガラで作ってみる。
ハイランドチキンやグラスランドチキンの手羽先や手羽中の骨があるんだけど、ちょっとデカ過ぎるので、これだけデカい寸胴鍋でも煮込むのが大変そうだからね。
以前は軽く湯引きして汚れやなんかを取り除いていたんだけど、ここはスライム達に頼んでサクッと綺麗にしてもらう。
そして、寸胴鍋に鶏ガラとこちらにもさっきと同じようにネギとニンニク、それから生姜のぶつ切りを入れて火にかける。
豚骨スープと違うのは、強火で一気に加熱して沸いたら弱火にしてアクを取る事。
これをしないと臭みのある濁ったスープになっちゃうから、ここは手抜きしてはいけないところだ。
そして沸いたらあとは弱火にしてグラグラに煮立たせないようにしつつ、ひたすらアク取りに精を出す。
水が減ったら、こちらも追加で水を足すよ。
「ご主人、さっきから何をしてるの?」
大きなお椀にひたすらアクをすくって取っていると、手の空いたスライム達が集まってきて不思議そうにお椀を覗き込み始めた。
「ええと、このアワアワみたいなのはアクって言って、茹でると出てくるいらないものなんだ。それをこうやってすくって綺麗にするんだ。ああ、これは食べていいぞ。食べ終わったらお椀にまた新しい水を入れておいてくれるか」
かなり溜まっていたのでお椀ごと渡しておき、その間に煮立っている豚骨スープの鍋を麺棒でかき混ぜる。
もうここからは地味な作業が続くよ。
「おや、これはまた凄い臭いですね」
黙々と作業をしていたその時、ベリーの声が聞こえて驚いて振り返る。
「ハスフェル達から伝言です。お弁当があればちょっとまとめて欲しいそうなんですが、何かありますか?」
「あいつら、賢者の精霊を使いっ走りにするんじゃねえって」
呆れたようにそう言い、とりあえず手持ちの弁当や重箱に入った大きい弁当をまとめて渡してやる。
「ありがとうございます。もしかしたら、今夜は中で泊まるかもしれないとの事ですので、もしも帰らなくてもご心配なく」
「了解。まあ無理はするなって伝えてくれよな」
苦笑いしてそう言い、手を振って消えていくベリーを見送る。
「ああ! ちょっと待て! 皆が帰ってこなかったら、今夜の俺のベッド役がスライム達しかいないじゃんか! もふもふとむくむくが〜〜〜〜!」
唐突に気付いた衝撃の事実に、ちょっと泣きそうになった俺だったよ。
俺の癒しが〜〜〜!
ニニだけでも帰ってきてくれ〜〜〜!




