サンドイッチの大量生産と緊急事態勃発??
「さてと、じゃあ頑張って作っていきますか」
そう呟いた俺は、まずは鳥のモモ肉を大量に取り出した。
「多分、これが片栗粉っぽいんだよな。あ、そうか。ちょっとだけ試しに作ってみれば良いのか」
セレブ買いで見つけたこれは、ソースにとろみをつける為の粉で花の根から採ったものだと聞いた。
片栗粉って、今はジャガイモのデンプンで作ってるけど、元はカタクリの花の根っこから採ったってクイズ番組で聞いた覚えがある。だから多分、これが本当の片栗粉なんだろう。
「とりあえず、一枚分だけ先に作ってみるか、小麦粉バージョンも美味しかったから、上手く出来たら両方作るのもアリだな」
サクラに頼んで、鶏肉をぶつ切りにしてもらい、大きなお椀でまずは下味をつける。
フライパンに油もセッティング完了。よし、揚げてみよう。
手早く粉をまぶして油に投下。待つ事しばし。
「なにこれ、めっちゃ美味いじゃんか。これは是非とも大量に仕込んでおこう。主に俺が食べたい」
思わずそう呟くぐらいに、サックサクで美味しかったのだ。片栗粉凄え。
「あ、じ、み! あ、じ、み!」
右肩でシャムエル様がもふもふダンスを踊っている。俺の頬がもふもふ尻尾で叩かれる。良いぞもっとやれ。
「ほら、熱いから気を付けてな」
おねだりを満喫してから小さな唐揚げを渡してやると、嬉しそうに頷き、ちょっと待ってから噛り付いた。
「美味しい! この前のより、サクサクで美味しいね」
目を輝かせるシャムエル様に、俺も笑ってもう一欠片自分の口に放り込んだ。
まあ、ハスフェル達は、唐揚げとトンカツがあったら絶対トンカツを取るみたいだから、唐揚げは、俺メインで食う事にする。
サクラとアクアに大量にモモ肉を切ってもらい、塩味と醤油味の二種類を作っておく。今回は、片栗粉で全部作ったよ。
大量に出来上がった唐揚げも、どんどんサクラが飲み込んでくれる。
仕込んだ分を揚げ終わると、一旦油を片付ける。それが終わったら、大きめの鍋でゆで卵を作る。これは砂時計があるから時間を計る。少し早めに取り出して、水と氷で冷やしておけば完成だ。
それから、炒り卵、目玉焼き、ベーコンエッグとハムエッグも大量生産。
そこまでやって、お昼タイムになった。
「はあ、さすがに疲れた。ちょっと休憩だ」
椅子に座った俺は、大きく深呼吸を一度して、置いてあった冷めた緑茶の残りを飲んだ。
「あ、午後からは、まずコーヒーだな。ネルドリップも見つけたし。これで大量に作れるぞ」
そう、俺の持っているパーコレーターだと多くても二人分程度しか一度に淹れられないのだ。
しっかり火を入れるので、確かにこれはこれで美味しいんだけど、量を淹れるには向いてない。もっと手軽に淹れられる筈! って事で聞いてみて見つけました。いわゆるネルドリップ。
分厚い生地で作られたそれに、挽いたコーヒーを入れて熱湯を注ぐだけ。要は布製の濾し器だ。
今回は新品なので、最初にお湯を沸かしてコーヒーの粉と一緒に一旦軽く煮込む。それが終わればしっかり洗って数回絞れば準備完了だ。次からは、洗うだけで良いからな。ネルドリップは、色々手間が掛かるけど美味しいんだよ。
鼻歌交じりに、まずは一度コーヒーを淹れてマイカップに注ぐ。残りは冷めないようにサクラに預けて、昼食には、昨日に引き続き自分用のベーグルを食べる事にする。
ちょっと考えて、作ったばかりの唐揚げとゆで卵、それからレタスもどきを取り出し、軽くトーストした雑穀ベーグルにバターとマスタードを塗り、半分に切った唐揚げを並べて適当に切ったゆで卵も挟む。
いつもの小さなお皿を勝手に取り出して振り回しているシャムエル様を見て、小さく吹き出した俺は、半分に切ったベーグルサンドの切り口部分を少しだけ切り取って乗せてやった。
「はいどうぞ。今日は、雑穀ベーグルの唐揚げサンドだよ」
盃にコーヒーも少しだけ入れてやり、揃って食べ始める。
「うん、美味しい。雑穀ベーグルって、なに挟んでも美味いんだよな」
「これは初めて食べるね、ちょっと硬いけど美味しい」
どうやらシャムエル様は、ベーグルサンドをお気に召したらしい。
「あいつらはあまり口に合わなかったみたいで、出してても全然減らないんだよな。だからもう、これは俺用にする事にしたんだ」
苦笑いしながら説明すると、ちょっと考えていたシャムエル様は、不思議そうに首を傾げた。
「美味しいのにね?」
「まあ、これは好みの問題だからね。無理して食べなくても、他に有るんだから良いじゃん。ま、俺は好きだから食うけどね。あ、シュレムは? 食わないのか?」
消えていなくなっていたシュレムが、いつの間にか戻ってきていたのに気付き、俺はベーグルサンドを見せる。
「お気持ちだけ頂いておくよ。この身体はそういった食べ物は必要としないのでね」
「あれ? じゃあ何を食ってるんだ?」
「空気と水ですよ。澄んだ空気と良き水があれば、私は大丈夫なんです」
「へえ、そうなんだ……」
ちょっと驚いてシャムエル様と並んで机の端に座るその姿を見た。
多分、身長は50センチくらい。20センチ程しかない小さなシャムエル様に比べたら、かなり大きく感じるが、まあ人形サイズだ。だけど、水と空気しか必要ないって事は、俺達みたいな血の通った体って訳じゃなさそうだ。
うん、何がどうなってるのかさっぱりわからん。
って事で、久々に考えるのを放棄して、全部まとめて疑問は明後日の方向にぶん投げておく。
「じゃあ午後からはまずコーヒーを淹れて、その後は何をしようかね」
食べたものを片付けて、お湯を沸かしてまずアイスコーヒーを淹れる。
セレブ買いの時にお願いして用意してもらった、深煎り豆を挽いたものだ。
どんどん淹れては、用意していた大量の氷で一気に冷やしていく。
「あ、神様達は甘くなくて良いかな? ガムシロップって要は砂糖水だよな。ちょっと作っといてやるか」
疲れてる時とかだったら、俺も甘いのが欲しくなるかもしれないから、小鍋に大量に砂糖を入れて、水を入れる。空いたコンロにおいて火にかけておく。砂糖と水の比率は、同量より水をちょっと少なめくらい。
多分これで良いはず。
そんな感じで、のんびりとアイスコーヒーとホットコーヒーを大量に淹れ、それからアイスティーも大量に用意しておいた、これで、暑い時でも大丈夫だろう……多分。
嬉しそうにコーヒーの残りの粉を平らげるスライム達を見ながら、新しく自分用にいれたアイスコーヒーを飲む。
「グラタンとかは、もうちょっと寒くなってからの方が良いもんな。じゃあ、先にサンドイッチを大量生産するか」
そう呟いて立ち上がった俺は、足元で待機しているスライム達を見た。
「アクアは、ここにあるゆで卵の殻を全部剥いてくれるか。それでサクラは、薄切りチーズとパンを八枚切りに頼む」
優秀なアシスタント達に指示を出し、大きく伸びをした俺は何から作るか考える。
「ベーコンエッグも目玉焼きも大量に仕込んだから、まずは、好評だったBLTサンドとクラブハウスサンドを作ろう。それが終わったら、定番のタマゴサンドやハムサンド辺りだな」
作るものが決まれば、後は順番に作るだけだ。材料の下準備を終えて、鼻歌交じりに手早く作っていく。
BLTサンドとクラブハウスサンドは、それぞれ、食パン一本分ずつ作った。つまり各三斤分だ。
これだけ作れば、幾ら何でもしばらくは有るだろう。
その後は、シャムエル様お気に入りのタマゴサンドや、鶏ハムと野菜サンドも大量生産。照り焼きチキンサンドも好評だったので作ろうと思い、これまた大量の照り焼きチキンをまずは作る。
合間にコーヒー休憩を入れつつ、照り焼きチキンサンドが大量に出来た時……いきなりそれは起こった。
出来上がった照り焼きチキンサンドを切ってサクラに預け、後片付けをしていた時だった。
突然、テントのすぐ外でまるで爆発したような大きな音がして、俺は飛び上がった。
「な、な、なんだ?」
俺だけじゃなく、今日も地面に転がって日向ぼっこを楽しんでいた従魔達までが一斉に飛び上がって身構えた。
テントの垂れ幕は、全開にしてあったから、マックスとニニが一瞬で俺の目の前まですっ飛んできたよ。速っ!
驚きのあまりそれらの事は一瞬の出来事だったのだが、なんだかスローモーションみたいに見えたよ。
そして、テントの外には、ひと塊りに折り重なるようになった神様軍団が転がっていたのだった。
しかも、一瞬で戻ったけど見えたぞ。
金色のティラノサウルスだったギイが!
「ええ? ちょっと待てよ。それって、言ってた緊急帰還ってやつじゃないのかよ! 大丈夫かよ、おい! ってか、今日は普通のジェムモンスター狩りの予定じゃなかったのかよ!」
持っていた木のお皿を放り出して、叫んだ俺は慌てて駆け出したのだった。