円形広場にて
「では、仕上がったらギルドを通して連絡させていただきます」
「ああ、よろしく頼む。仕上がりを楽しみにしているよ」
わざわざ外まで出て見送ってくれたフュンフさんとドワーフさん達にそう言われて、これ以上ない笑顔になったハスフェルがそう言い、俺達は笑顔で手を振ってギイが待っていてくれた円形広場へ向かった。
「あはは、めっちゃ注目されてる〜〜」
すぐ近くのそれほど広くない円形広場では、串焼きの束をスライムに確保させたギイが何故か真昼間っからビールを飲んでいたのだ。
でもって、預けた従魔達も当然ギイと一緒にいるんだけど、邪魔にならないように円形広場の屋台の出ていない空き地に集まって寝ていたんだよ。
まあ、リナさん達や新人さん達がいた頃に比べれば小さくはなったがそれでも巨大なもふ塊になっていて、周囲にいた人達の反応は見事なまでにきっぱりと二つに分かれていた。
一つは、動物そのものが怖いのだろう。怯えたような顔をして遠巻きに従魔達を見る人達。
そしてもう一つは、キラッキラに目を輝かせて、隙あらば従魔達に触りたい人達だ。
一応ビール片手のギイが、勝手に従魔達に触らないように言ったみたいで、あからさまに近づいてくる人はいなかったんだけど、逆にそんな人達に取り囲まれているもんだから、何やら円形広場全体が妙な緊張感に包まれているんだよ。
「お待たせ。それでお前一人だけ、なに楽しい思いをしているんだよ」
そんな周囲の様子には知らん顔でハスフェルがそう言って笑う。
その声が若干拗ねているみたいに聞こえて、咄嗟に吹き出しそうになるのを腹筋を総動員して我慢したよ。
「おかえり。いやあ、ただ待っているのも退屈だったから、ちょっと屋台で買い食いでもしようかと思ったらこの串焼きが最高に美味くてさ。こんなの食べたら飲まずにいられるかって」
にんまりと笑ったギイが、そう言いながらスライムが確保している串焼きの束を見る。
「はいどうぞ!」
ギイが俺達にも渡すように言ってくれたみたいでにょろんと触手が伸びて、俺達に串焼きを渡してくれる。
「おお、確かに香ばしいスパイスの香りだな。これは期待していいかも」
まだ熱々のそれは、強めのスパイスの香りをこれでもかと言わんばかりに漂わせている。
「うん、確かにこれを食べてビールが無いのはかなり悲しいかも」
一口食べて納得した。確かに美味しい。
ちょっと醤油を垂らしてあるのだろう。香ばしい香りの際立つその串焼きは酒の当てに最高だ。
「がっつり焼いてもらったからな。山ほど買ったのでいつでも言ってくれ。ちなみにこのビールはあっちの屋台で買ったぞ。冷えていてこれまた美味い」
木製のジョッキを軽く掲げたギイの言葉に目を見開く。
「マジか! 俺も買ってこよう!」
まさかの屋台での冷えたビールの販売。
嬉々として言われた屋台を見に行くと、まるで金魚掬いの屋台みたいに浅い水槽のようなものを置いた店があって、その水槽の中にはぎっしりと氷が敷き詰められていて、ビール瓶が大量に突っ込まれていたのだ。
「へえ、これだけの氷を確保するのは大変だろうに、でも、冷えたビールが定着してきたみたいで嬉しいなあ」
いろんな地ビールが冷えているのを見て、ちょっとマジでテンション爆上がりだよ。
「いらっしゃい、ケンさんだね。戻ってきてくれたのかい。さっき、あっちのギイさんにも言ったんだけど、あなた達から金を取る気はないよ。ほら、好きなのを好きなだけ持っていっとくれ!」
満面の笑みの店主と思しき男性から、冷えたビール瓶を渡されて慌てて首を振る。
「いやいや、お商売している方からタダでなんて貰えませんよ! ちゃんと払いますって!」
しかし、その店主さんは笑って首を振った。
「一応、俺は氷の術を使えるんだ。だけどまあ、こんな小粒の小さいのを作れるくらいで、当然、ケンさんのような巨大な氷を作る事なんて絶対に無理だから冒険者になるほどの力もないし、冷蔵庫への氷の補充にもあまり使えない。すぐに溶けちまうからね。しかも俺の作る氷は不純物が多いから食べられない。今までは食材を冷やすくらいしか使い道がなかったんだ。でも、この術があったおかげでこうやって冷えた飲み物を販売する屋台を始められたんだ。まあ、冬になったらまたビールの配達に戻るけどさ。おかげでこの春からこっち、良い稼ぎになっているんだよ。これって、ケンさんが流行らせてくれたそうじゃあないか。感謝してるよ」
満面の笑みでそう言われて、成る程と納得した。
「って事で納得してくれたみたいだから、これを受け取ってくれよな。ギイさんには、ケンさんに渡してくれって言われて受け取って貰えなかったんだよ」
満面の笑みの店主から、大きな木箱に入ったビールを大量に渡されそうになり、もう断るのに必死になったよ。
結局、引いてくれない店主さんと相談した結果、お礼のビールは受け取り、俺が持っていた恐竜のジェムをいくつか渡して決着した。
恐竜のジェム、憧れだったらしく部屋に飾るんだって言って大喜びしてくれたから、まあいいかと納得した俺達だったよ。




