ハスフェルの剣
「お、お邪魔しま〜す」
一応、俺はちゃんと挨拶してからフュンフさんの家に入る。
隣で、オンハルトの爺さんが苦笑いしていたけど、一緒にお邪魔しますって言ってくれたので、思わず顔を見合わせて笑っちゃったよ。
フュンフさんの家には以前にも来た事があるので、仕事部屋の場所は分かるので、とりあえず、そのまま奥へ続く廊下を歩いてつき当たりにある仕事部屋へ向かう。
「お邪魔しま〜す」
扉は開いたままだったけど、仕事部屋に入る時にももう一度そう言ってから中を覗くと、大きな炉があるのとは反対側に置かれた大きなテーブルの横で、ハスフェルとギイがフュンフさんと楽しそうに話をしていた。
フュンフさんの横には、俺は知らない顔だけど明らかに職人さんと思しきドワーフの男性があと二人いて、同じように笑顔でハスフェル達の話に加わっていた。
「ケン、オンハルトも見てくれ! 素晴らしい出来だぞ!」
振り返ったハスフェルのこれ以上ない良い笑顔に、俺とオンハルトの爺さんは足早にテーブルに駆け寄った。
「うわっ! デカい!」
「ほう、これはまた素晴らしい出来だな。まさしくハスフェルの為の一振りだなあ」
元々、普段はメイン武器として大剣を使っているハスフェルらしく、今回作ってもらったヘラクレスオオカブトの剣も大剣だった。
その大剣は、横幅も長さもそれから剣の厚みも俺が作ってもらった細身の両手剣とは明らかに違う。
大剣、めっちゃ格好良い。まあ、俺は腕力的に絶対無理そうなので持たないけどさ。
まだ鞘は無く、抜き身のまま広げた布の上に置かれたそれは、明らかにミスリルではあるものの俺の剣よりもかなり黒っぽい輝きを放っている。
「あれ? もしかして、この黒っぽい輝きって重鉄を混ぜた?」
確か同じようにヘラクレスオオカブトの剣を作ったアーケル君の剣が、重さを増す為に重鉄を混ぜていたのでちょっと黒っぽかったのを思い出してそう尋ねると、笑顔のフュンフさんが大きく頷いた。
「お久しぶりです、ケンさん。ええ、おっしゃる通りでこれにはハスフェルさんの希望で重鉄を混ぜ、かなりの重みを加えています。もちろんあのオリハルコンも使わせていただきましたので、ケンさんがお持ちの剣同様に、強度としなやかさを併せ持つ良き剣となっていますので、折れる危険性はかなり低くなっていますよ」
おお、俺の持つ剣って確かに以前よりも斬った時のしなやかさがあると思っていたのは、俺の気のせいじゃあ無かったんだ。あれって折れにくいんだ。へえ、凄い。
密かに感心していると、テーブルの上に置かれた剣をそっと撫でたハスフェルは小さくため息を吐いてからフュンフさんの隣にいるドワーフさん達を見た。
「これを見せられて、今すぐに持って帰れないのはちょっとした拷問ですね。でも、いくらでも待ちますのでどうぞ良き鞘をお願いします」
笑ったハスフェルの言葉に、二人のドワーフさんが笑顔で頷く。
「いやいや、そこまでお待たせは致しませんよ」
「あと十五日もいただければ、仕上げまで出来ますので」
成る程。あの人達は鞘を作る職人さん達だったのか。
「鞘が仕上がっていたとしても、さすがに今すぐお渡しするのは無理ですよ。まだ最後の研ぎが終わっていませんから」
ハスフェルの言葉に、苦笑いしたフュンフさんがそう言ってテーブルを指先で軽く叩く。
「そうだな。最後の研ぎは、鞘が仕上がる時に合わせるものだからな」
苦笑いしたオンハルトの爺さんの言葉に職人さん達が揃って頷く。
俺には分からないけど、職人さん達の作る際の暗黙の了解というか、仕上げの際なんかには、そう言った慣習のようなものがあるのだろう。
「ああ、それじゃあ別に急ぐ旅でもないんだし、十五日くらいなら構わないからこのまま仕上がりまでバイゼンにいればいいよな。それで仕上がったところで剣を受け取ってから出発すればいいんじゃね?」
一応、俺的には急がないけれどエビを目当てに海側の街へ行きたいのでそう提案すると、ハスフェルがわかりやすく笑顔になった。
「半月も待たせてもらう事になるが、構わないか?」
「もちろん構わないよ。じゃあそれでいこう」
俺の言葉に、ギイとオンハルトの爺さんも笑って頷いていた。
うん、それだけあればちょっと手の込んだ煮込み料理の仕込みも出来るな。
俺的には、以前レシピをもらったあの豚骨スープに挑戦してみたい。
実は師匠のレシピを探してみたところ、牛骨や豚骨、それから鶏ガラを使ったスープのレシピがちゃんとあったんだよ。
だから、ちょっとじっくり仕込む時間が欲しかったんだよな。
「よし、じゃあギルドマスターの用事が済んだら、お城にいる間に俺はまたちょっと料理の仕込みをしたいんだ。お前らは、暇なら従魔達を連れてうちのダンジョンに入ってくれていいぞ」
「ああ、それはいいな。じゃあそれで行こう」
って事で、この後の予定が決まったのだった。