フュンフさんの工房兼自宅
「じゃあ、どの子に乗って帰りますか?」
巨大化したファルコの背に上がりながら、俺はそう言ってガンスさんを振り返る。
「ふむ、来た時はその真っ白なフクロウに乗せていただきましたからなあ。では、こちらのピンクの鳥に乗せていただいてもよろしいでしょうか」
居並ぶお空部隊の面々を前にしたガンスさんが、腕を組んで少し考えてからモモイロインコのローザの前に立った。
一瞬で巨大化したローザが、得意そうに頬を膨らませる。
「ご指名とあらば仕方がないわね。ほら、乗って良いわよ」
仕方がないなあって感じのその言葉に思わず吹き出した俺がローザの言葉を通訳してやると、ガンスさんも嬉しそうに笑ってからローザに向かって深々と一礼した。
「願いをお聞き届けいただき感謝しますぞ。では、失礼します」
いそいそって感じに、嬉しそうにローザの背に乗り首元のところにまたがって座る。
「スライム達に守らせていますので、落ちる心配はしなくて良いですよ」
「はい、よろしくお願いします」
俺の言葉に笑顔で答えたガンスさんの元に、アルファとベータが跳ね飛んでいき、一瞬で大きくなってガンスさんの下半身をしっかりとホールドする。
「じゃあ行くわよ〜〜!」
大きく羽を広げたローザの声に合わせ、ファルコも大きく羽ばたいて一気に上昇していく。
ちなみにルベルは、いつもの小さいサイズに戻っていて、今はマックスの首輪に取り付けたいつものカゴの中にウサギトリオとモモンガのアヴィと一緒に収まっているよ。
それを見て、ハスフェル達の乗ったそれぞれの子達も羽ばたいてその後に続いて上昇していった。
綺麗な編隊飛行を描くお空部隊の子達に乗せてもらった俺達は、そのままのんびりと遊覧飛行を楽しみ、バイゼンの近くまで飛んでもらってから無事に地上へ降り立ったのだった。
そのあとはまた、ガンスさんはセーブルに乗せてもらってバイゼンへ戻って行ったのだった。
無事にバイゼンの街へ到着して冒険者ギルドにガンスさんをお送りした俺達は、そのままお城へ向かった。
預けていたお城の鍵は、ギルドへ行った際にガンスさんから受け取っている。
「ああ、そうだ。ちょっと待ってくれるか」
街の人達に手を振られたりしつつゆっくりと進んでいると、不意にハスフェルが右手をあげてそう言った。
「おう、どうかしたか?」
ちょうど大きめの円形広場に差し掛かったところだったので、一旦止まって邪魔にならないように端に寄る。
「せっかくバイゼンまで戻ってきたんだから、一度フュンフのところへ顔を出して来ようかと思ってな」
その言葉に、俺達は納得したように揃って頷いた。
「そっか。フュンフさんはもう飛び地から戻ってきているはずだもんな。ハスフェルの注文したヘラクレスオオカブトの剣、仕上がっていたらすぐに引き取れるな。もしもまだ仕上がっていなくて作業の途中だとしても、どうなっているのか教えてもらえるだろうからな」
俺の呟きに、ハスフェルが嬉しそうに頷く。
「じゃあ、こっちだな」
周りを見たギイがそう言って円形広場をぐるっと回って別の道へ向かった。
いまいちその辺りの詳しい地理が未だによく分かっていない俺は、素直にその後をついて行ったのだった。
到着したのは、以前にも来た職人通りにあるフュンフさんの自宅兼工房だ。
「フュンフ、いるか〜〜?」
閉じたままの大きな扉をハスフェルがそう言いながらバンバンと叩く。
これ、絶対にノックの音じゃあないと思うぞ。
「おう、今ちょっと手が離せないんで、鍵は開いてるから入ってくれて良いぞ〜〜」
家の中からフュンフさんの大きな声が聞こえて、当然のようにハスフェルは扉を開けて中へ入って行った。
確か前回来た時も、ギルドマスターのエーベルバッハさんがこんな感じで堂々と勝手に扉を開けて入っていったんだっけ。
何とも平和でのどかな事だ。
ちなみにフュンフさんの家には厩舎が無いし中も狭いので、さすがに連れている従魔達は一緒に入れない。
まあ、そうだよな。普通、一般家庭の家なんて、こんな大きな魔獣が複数入るようには設計されていないって。
前回と同じくギイが近くの円形広場まで行ってそこで従魔達を見ていると言ってくれたので、マックス達を預けた俺もオンハルトの爺さんと一緒に家の中へ入っていった。
い、一応俺は、入る時にちゃんと「お邪魔します」って言ってから入ったぞ。