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「いやあ、本当にありがとうございました! 巨大化したアサルトドラゴンを間近で見るだけでなく、まさか、まさかその背に乗って空を飛ぶ事まで出来たとは、今日は、我が人生最良の日となりましたぞ」
感動に目を潤ませたガンスさんの言葉に、さっき一緒にルベルに乗っていた時にも思ったんだけど、俺もなんだか凄く良い事をした気分になったよ。
「そんなに喜んでくださったら、連れてきた甲斐がありましたよ。まあ、ルベルの事は内密に願いたいので、アサルトドラゴンに乗ったって言いふらすのは、ちょっとやめていただきたいんですけどね」
苦笑いした俺の言葉に今更その事実に気付いたらしく、ガーンって文字が頭上に落っこちてきていたくらいにショックを受けているガンスさんだった。
「ううむ、これはちょっと飲んだ際なんかには気をつけなければいかんかもしれんなあ。まあ言ったところで、まず信じられんだろうから、俺のドラゴン好きが高じてとうとう夢と現実の区別がつかなくなったと思われるだけだろうがな」
しばらくしてようやく復活したガンスさんが、腕を組んでしみじみとそんな事を呟いていたので、俺はもう笑いそうになるのを必死で堪えていた。
もしかして、ガンスさんのドラゴン好きって周知の事実だったりするのか。それはそれで面白いぞ。
「ええと、ギルドマスターのヴァイトンさんとエーベルバッハさんになら、別にルベルの事を話してくださっても構いませんよ」
「良いのか!」
思わずそう言った途端、目を輝かせて身を乗り出してくるガンスさん。
「ええと、別に構わないよな? 言いふらすような方じゃあないのは分かっているし、な?」
ハスフェル達を振り返りながらそう言うと、彼らは苦笑いしながら頷いてくれた。
「別に言うのは構わないと思うが、俺達がバイゼンを出発した後でその話をしたら、何故自分達をその時に呼ばなかったと、ガンスは二人から思いっきり問い詰められるだろうな」
しかも、その後に言った笑ったハスフェルの言葉にガンスさんが思いっきり吹き出し、遅れて俺達も揃って吹き出した。
「た、確かにそれは絶対に言われそうだ。ううん、もうちょい早く気がつけば、一緒に連れてきてやれたのになあ」
思わずそう呟き考える。
「それなら、俺が言って二人を連れて来てやろうか? 鳥に乗っていけばこれくらいの距離はすぐだろうからな。ああ、だけどギルドマスター三人が同時に街からいなくなるのはまずいか」
笑ったギイが迎えに行くと言ってくれたんだけど、途中で一瞬口籠ったあと真顔になってそう言った。
「有り難い申し出だが、言うとおりに三人が同時に街から遠く離れるのはちとまずいな。万一にも街でなんらかの緊急事態が起こった際に、初動が遅れかねんからなあ」
残念そうなガンスさんの言葉に、ギルドマスター達が背負っている責任の重さが垣間見れた気がして、こっちまで真顔になったのだった。
「あ、じゃあこう言うのはどうですか?」
ある事を思いついたので、右手を挙げてそう言ってみる。
「ん? 何だ?」
驚くガンスさんを見て、俺はにっこり笑ってバイゼンの街がある方角を指さした。
「俺達は別に急ぐ用事があるわけでは無いので、今日のところはこのまま街へ戻りましょう。それで、明日にでもガンスさんの口からルベルの事をまずは話してください。いきなり俺が行ってルベルを見せるよりは衝撃は少ないでしょうからね。それでお二人の手が空いていれば一人ずつでも構いませんし、もちろん状況が許せば二人一緒でも構いませんから、今日みたいに一緒に出掛けてここまで来てルベルが大きくなった姿を見ていただきましょう。もちろん遊覧飛行付きでね」
最後はちょっと声を低くしてガンスさんの近くへ行きながらそう言ってやると、ガンスさん俺を見て満面の笑みになった。
「おお、それは有り難い。是非それでお願いします。もちろん話くらいいくらでもしますぞ。確か今のところどちらも急ぎの案件はなかったはずだから、言えば間違いなく喜んでくると思いますぞ」
「あはは、じゃあそれで行きましょう。それならもう帰りますか?」
俺がそう言うと、ガンスさんはルベルを見上げた。
「あの、わがままをお許しいただけるのであれば、このくらいの大きさのルベル殿にも乗せていただきたいのですが……」
最後はちょっとだけ上目遣いにそう言われて、吹き出した俺は悪く無いよな。
結果、構わないからとガンスさんを一人でルベルの背中に乗せてやり、もちろんスライム達にしっかりホールドさせてからルベルは空へ飛び立っていった。
そして、俺達のはるか頭上で調子に乗ったルベルが先ほどよりもさらにアクロバティックな曲芸飛行をやらかしたもんだから、地上にいる俺達のところにまでガンスさんの悲鳴が聞こえてきて、もう途中から俺達は遠慮なく大爆笑していたのだった。