遊覧飛行?
「こ、これは本当にアサルトドラゴンだ……まさか、まさかこんな近くでアサルトドラゴンを見る日が来ようとは……ああ、素晴らしい……ドラゴンを間近で見るのが、幼い頃からの夢だったんだ……」
握った拳をプルプルと振るわせながら、ルベルを見上げたガンスさんが感動したように小さくそう呟いた。
「冒険者時代に一度だけ、遥か遠くを飛ぶ姿を見た事はあったが、まさか、こんな近くで姿を見られる日が来ようなど、ああ夢ならどうか覚めないでくれ」
「大丈夫ですよ。夢でもなんでもありませんから。ああそうだ。よかったら乗ってみますか?」
ガンスさんのあまりの感動っぷりに最初はちょっと引いていたんだけど、ドラゴンを見るのが幼い頃からの夢だとまで言われて、ちょっとこっちまで感動していた俺は、側へ駆け寄りルベルの巨大な脚を軽く撫でてやってからそう言ってガンスさんを振り返った。
「ええ! 良いのか?」
これまた子供みたいに目をキラッキラに輝かせたガンスさんの叫びに、俺だけじゃあなくて見ていたハスフェル達まで揃って吹き出す。
「良いよな?」
俺のところへ巨大な頭を伸ばしてくれたルベルに、その鼻先を撫でてやりながらそう話しかける。
「ああ、ご主人が乗せてもいいと思うのならば、我は構わぬよ」
笑ったように低い音で喉を鳴らしたルベルの言葉に、ガンスさんはもう大感激だ。
「じゃあ、俺が一緒に乗りますから、前へどうぞ」
伏せてくれたルベルの腕に上がり、ガンスさんを引き上げてやってから一緒に背中に上がる。
ハスフェル達は上がって来なかったので、ガンスさんを前に座らせてやってからその後ろに俺が座った。
跳ね飛んで上がってきたアクア達が、即座に二人の下半身を確保してくれる。
「じゃあ、ゆっくりな」
俺がそう言って俺の足の横、ルベルの背中を軽く叩くと顔を上げたルベルはゆっくりとその翼を広げた。
目を輝かせてキョロキョロと周囲を見回していたガンスさんが、広がった被膜を持つその巨大な翼を見て感激の声を上げる。
そのまま軽く一度羽ばたいたルベルは、地面を蹴って大きく羽ばたき一気に上昇した。
「おお、飛んだ!」
大感激状態なガンスさんの呟きに、俺はもう笑いそうになるのを必死で堪えていた。
「ルベルの体が大き過ぎて、ここからだとほとんど下が見えないんですよね。さっき、ネージュの背に乗った時には下の景色が綺麗に見えたでしょう?」
笑った俺の言葉に、ガンスさんは苦笑いしながら首を回して背後にいる俺を振り返った。
「実を申しますと、先ほどは地面が遥か遠くに見えて少し怖かったんですよ。ですが今は、逆に下が見えないので純粋に飛んでいるアサルトドラゴンの背に乗れた事に大感激しております。ケン殿、乗せてくださり本当にありがとうございます。心から感謝しますぞ」
もうこれ以上ないくらいの良い笑顔でそう言われて、俺も何だか良い事した気分になっていたのだった。
「乗せたくらいでそこまで喜んでもらえたら、我も嬉しい」
ガンスさんと俺達の会話を聞いていたルベルが嬉しそうにそう言い、もう一度ガンスさんがルベルにもお礼を言っていた。
「ならば、こういうのはどうだ?」
笑ったルベルが何やら嬉しそうにそう言って、大きく広げていた翼を少し畳む。
何事かと思っていたら、いきなり加速した上に空中大回転をしたのだ。
そう、ジェットコースターのループ状態だ。
それから次に戦闘機のきりもみ状態! そして急上昇からの急降下!
さらにそこから、もう一回大きくループを描くルベル。
「「うぎゃあ〜〜〜〜!」」
いくらスライム達が確保してくれているから落下の危険はないと分かっていても、怖いものは怖い。
俺とガンスさんの口から、ほぼ同時に最大クラスの悲鳴が上がったのは言うまでもない。
そんな感じで悲鳴を上げつつもしばしの遊覧飛行を楽しんだ俺達は、無事にハスフェル達が待っていた先程の草原へ戻った。
俺達が背から降りたところで、ルベルはググッと小さくなった。とは言ってもいつものサイズではなく俺的には巨大な重機くらいの大きさだ。
ガンスさんは、改めてルベルに何度もお礼を言っていたよ。
ちょっとドヤ顔になったルベルを見て、俺はもう遠慮なく大笑いしていた。
しかし改めて向き合うと、逆にこれくらいの方が全身の姿が一目で見られて、いかにもドラゴン! って感じがする。爪や牙、突き出した角、長い尻尾。どれをとっても確かに格好良い。
ついでに言うと、このサイズだと俺でも戦えそうな気がして、我に返ってちょっと遠い目になった俺だったよ。
いやいや、例えヘラクレスオオカブトの剣とこの装備があったとしても、俺にはドラゴン退治なんて絶対に無理だからな!