ガンスさんの反応
「お待たせ!」
本当にあっという間に戻ってきたガンスさんは、普段と違って完全装備だった。
いかにも上位冒険者だと分かる胸当てや籠手などのフル装備。
あれは恐らく冒険者時代の装備なのだろう。兜は被っていないが、間違いなく持っているだろうと思われた。
そして腰に装備した剣は、間違いなくヘラクレスオオカブトレベルの剣だろう。
ここからでも分かる鞘の装飾が、半端なく見事だ。
だけど、その剣は何故だか妙に見覚えがある気がして密かに首を傾げてもいた。
「ギルドマスター。それはもしや……剣匠ハルディアの打った剣ですか?」
俺が密かにその見事な装飾に感心しつつ首を傾げていると、オンハルトの爺さんがいきなりそう言って立ち上がり、ぐっと身を乗り出すようにして前に進み出た。
「ええ、もうこれを手に入れてからは他の武器はほぼ使わなくなりましたね。ハルディア晩年の作です」
ガンスさんの、嬉しそうで得意そうなその答えに納得する。
成る程。どこかで見た事がある意匠だと思ったら、ギイが持っている剣の装飾とよく似ていたのか。
確か彼の剣も、剣匠ハルディアの作だったからな。
それを聞いたギイも笑顔で立ち上がって進み出て、ガンスさんとお互いの剣を交換して見せ合っては嬉しそうに、どこが良いと嬉々として話をしていた。
「俺の持っている、フュンフさんが打ってくれたこの剣も、いつか誰かにそんな風に言ってもらえたら嬉しいな」
思わず小さくそう呟き、ゆっくりと座っていたソファーから立ち上がった。
「お待たせ、じゃあ行こうか」
結局全員が持つ剣の交換お披露目の時間になり、俺の剣も改めてガンスさんに見てもらい激褒めいただいたよ。
笑いながら部屋を出て、そのままガンスさんも一緒に外へ出る。
ちなみに、フル装備のガンスさんを見て、ギルドにいた冒険者の皆さんは大きくどよめいていたよ。
でも、漏れ聞こえる会話は、また何処かへ狩りに行くらしいぞ。とか、俺達の仕事を取らないでくれよとか言って笑っていたから、もしかしたらたまには今でも狩りに行ったりもしているのかもしれない。
街の外まではそのまま歩いて街道を出たところで、ガンスさんはご本人の希望でセーブルの背中に乗ってもらった。
マックスより少し小さいくらいの大きさになったセーブルの背の上で、ガンスさんは子供みたいにキラッキラの目をしていたよ。
かなり走って完全に人の世界から離れたところで、俺はいつものようにファルコに、ガンスさんはこれまたご本人の希望でネージュの背中に乗ってもらった。
でも空の上は怖かったみたいで、急に無言になっていたからちょっと笑っちゃったよ。
「この辺りなら大丈夫だろう」
ハスフェルの案内で到着したのは、バイゼンからひたすら北上した大きな山の谷間にあたる場所で、かなりの高度のある場所だった。
しかもその辺りだけぽっかりと草地になっているから、多少の高低差はあるものの巨大化したルベルでもこれなら大丈夫だと思えた。
「では、ここで巨大化すればいいか?」
マックスの首輪に装着したかごからパタパタと飛んできたルベルが、キョロキョロと周囲を見回しながらそう言って俺を見る。
「うん、じゃあ俺達は安全を確保する意味でもちょっと離れるから、それから巨大化してくれるか」
とりあえず、まずはガンスさんには遠くからルベルを見てもらい、その巨大さを実感してもらう作戦だ。
「うむ、了解した。では離れてくれ」
頷いたルベルの返事に、これまた子供のようにキラッキラに目を輝かせたガンスさんが何度も頷き、俺達が何か言う前にその場から全力疾走で離れていった。
ガンスさん、足速っ!
「いやあ、何度見てもやっぱりデカいなあ」
「だな。どう見てもデカ過ぎて距離感がおかしい」
「いやあ、冗談抜きであれをテイムしたとは、この目で見ても未だに信じられんなあ」
呆れたようなオンハルトの爺さんの呟きに、ハスフェルとギイもルベルを見上げながら苦笑いして何度も頷いていた。
「ええ、頼もしくていいじゃないか。まあ、俺のモーニングコールの危険度は爆上がりしたけどな」
笑った俺の抗議の言葉に、三人は揃って吹き出していた。
ちなみにガンスさんはというと、巨大化したルベルの側に駆け寄って来たきり、ポカンと口を開けて瞬きをするのも忘れてただただ見上げていたのだった。
ガンスさん。せめて瞬きはしてください。見ているこっちの目が痛くなってきたよ。