ガンスさんの提案
「ほら、申請書だ。とっとと書いてくれ」
従魔登録の申請書を渡されて受け取り、手持ちのインクとペンを取り出して大急ぎで書き始める。
「ええと、ルベルのところの種族ってなんて書けばいいですか?」
申請書の従魔を書く欄は複数書けるようになっていたので、まずはサーベルタイガーと種族を書いてからファングの名前を書き、ルベルの名前を先に書いてから思わずそう尋ねた。
「トカゲって書いとけ。それで通すからな」
苦笑いしたガンスさんの言葉に思わず吹き出し、素直に言われた通りにトカゲと書いてからガンスさんに申請書をギルドカードと一緒に渡した。
「ト、トカゲ。トカゲだと? 我はトカゲ扱いなのか……」
まだ小さい姿のままでテーブルの上にいたルベルが、ガンスさんの言葉に若干不服そうにそう言って小さな翼を軽く羽ばたかせた。
「まあ、登録申請書は控えとして残るし、登録内容はギルドの職員さんなら見る事ができるからさ。さすがに、正直にアサルトドラゴンとは書けないから、仕方ないから諦めてください。でも、小さくなって首だけラパン達の間から出しているのを見たら、確かに、言われてみればちょっとトカゲっぽいかも」
「ご、ご主人までそんな事を!」
笑ってそっと背中を指先で突っつきながら俺がそう言うと、ガーンって擬音が文字通り落っこちて来るのが見えそうなくらいにルベルはショックを受けていたよ。
どうやら、ルベルにとってトカゲ扱いは、かなり不本意な扱いだったみたいだ。
ドラゴンだって、大きな括りで見ればトカゲに分類される気がするんだけど、違うんだろうか?
「ん? そっちのサーベルタイガーは、ハンプールの冒険者ギルドで登録されとるぞ?」
その時、登録装置の操作をしていたガンスさんが、驚いたようにそう言って申請書を見せながら俺を振り返った。
「あれ? ファングの登録って、したっけ……?」
全く記憶が無くて思わず考える。
「ああ、確かにハンプールの街へ戻った後に、新人さん達のジェムの買い取りと収納袋の身内販売をした時に、ファングの登録もしたな。すみません! すっかり忘れてました〜〜!」
確かにあの時、新人さん達のメタルスライムを登録する時に、俺のファングも登録したんだったっけ。完全に忘れていたよ。
誤魔化すように笑ってもう一度謝ると、操作を再開したガンスさんが笑いながら首を振った。
「まあ、ケンさんくらいの従魔の数になると、確かにいちいち覚えていられない事も多かろうさ。まあ、未登録のまま放置されるよりはずっといいよ。二重登録ならすぐに分かるから全然構わん。気にするな。それより、この際だから従魔の登録台帳でも作って、いつ何処でテイムしてどの街で登録したのか、一式書いて残しておくべきじゃあないか?」
振り返ったガンスさんが自分の手帳を見せながらそう言っているのを見て、俺は思いっきり吹き出したのだった。
確かに、それは良いアイデアかも。
まあ、今更って気は思いっきりするけどさ。
「はいよ、これで登録完了だ」
そう言って返してくれたギルドカードを受け取る。
従魔達の登録は、見えるところに表記は無いので特に確認もせずに自分で収納しておく。
「ところで、よければそのルベルが巨大化したところを一度見てみたいんだが……さすがに、街の中はまずいな。どこか郊外の人目につかないところでする方がいいか」
そう言いながら、ガンスさんにキラッキラの目で見つめられてしまいもう一回吹き出す俺達。
「別にお見せするのは全然構いませんけど、確かに何処でするべきですかね。ええと、お城へ戻れば大丈夫かな?」
思わず腕を組んで小さくなったルベルを見ながら考える。
しかし、いくらアッカー城壁があるとはいえ、あそこで巨大化したら間違いなく貴族街の館からはルベルの頭や翼は見えるだろうから、絶対に大騒ぎになって討伐隊が組まれるだろうし、冒険者ギルドに駆け込む人が続出するだろう。
若干遠い目になる俺を見て、ハスフェル達が思いっきり吹き出して大爆笑していた。
「じゃあ、このままガンスさんも一緒に郊外の山側へ行こうか。お空部隊の子達に乗って山の奥まで行けば、さすがに人に見られる心配は無かろう」
笑ったハスフェルの提案にガンスさんがこれまた目をキラッキラに輝かせて頷き、準備をして来ると言って文字通りすっ飛んでいなくなった。
「まあ、ああ言いたくなる気持ちはよく分かる、森林エルフの皆さんも、初めてルベルを見た時は大興奮していたもんなあ」
そう呟いた俺は、あの時の皆の大興奮っぷりを思い出してもう一回遠い目になったのだった。




