ガンスさんの反応?
「あの……ガンスさん……?」
いつまで経っても瞬き一つせずに固まっているガンスさんを見かねて、俺は遠慮がちに声をかけた。
数秒後、ぱちぱちと瞬きをしたガンスさんは、いきなり右手で眉間を揉んでから大きなため息を吐いた。
「ううん、どうやら皆に言われた通りに本当に仕事のし過ぎのようだ。疲れのあまり有り得ない幻覚が見え出したぞ。テーブルの上に小さなドラゴンがいるなんて、有り得ないにも程がある。悪いがちょっと休ませてもらうぞ」
目を閉じたガンスさんが、大きなため息と共にそう言って本当に立ち上がる。
まさかの反応を見た俺達は、揃って吹き出したよ。ガンスさん、驚きすぎて完全に現実逃避に走ってるよ。
「ガンス、いいから座れ。そう言いたくなる気持ちは心の底から分かるし同意もするが、これは幻覚でも冗談でもないんだよ。本当に、こいつが、この、アサルトドラゴンを、テイム、し、た、ん、だ、よ」
笑ったハスフェルが言い聞かせるように区切ってゆっくりと話す。
「誰が?」
「こいつが!」
呆然と振り返ったガンスさんの問いに、大真面目な顔をしたハスフェルが、俺を指差しながら答える。
「何を?」
「この、アサルトドラゴンを!」
必死に笑いを堪えて大真面目な振りをしているハスフェルが、テーブルの上で小さな翼を広げているルベルを指差す。
「それをどうしたって?」
「だから、ケンが、アサルトドラゴンを、テイムしたんだよ!」
「……テイムした? アサルトドラゴンを?」
またしても瞬きもしなくなったガンスさんが、呆然とそう呟きながらもう一回テーブルの上にいて自分を見ているルベルを見た。
しばし無言で見つめ合う一人と一匹。
「あ、有り得ねえ〜〜〜〜〜〜〜!!」
両手をそれぞれ握りしめたガンスさんが、天井に向かって両手を高々と突き出して吠える。
「ア、アサルトドラゴンだと? そんなの普通の冒険者が出会したら、その瞬間に人生終わるレベルのジェムモンスターだぞ。それをテイムした? 冗談も程々にしてくれって……冗談じゃあないんだよな!」
一人ツッコミをしてその場にしゃがみ込んだガンスさんは、もう一回ハスフェル達も顔負けのものすご〜く大きなため息を吐いた。
「言っておくが、今は小さくなっているが、ルベルが巨大化したらとんでもなくデカいからな。ここで巨大化したら部屋どころか建物ごと崩れ落ちるぞ」
笑ったハスフェルの言葉に、また俺達が揃って吹き出す。
「有り得ねえ〜〜〜〜〜〜!」
それを聞いて、もう一回両手を握りしめて叫んだガンスさんだった。
「はあ。まあケンさんのする事だからなあ。そういう事もあるか」
もう一回大きなため息を吐いたガンスさんは、何故かそう言っていきなり笑い出した。
「いやあ、ここのギルドマスターになって久しいが、まさかアサルトドラゴンを従魔登録する日が来るとはな。いやあ、長生きはするもんだな。ははは、腹が痛いって」
なんとか立ち上がったガンスさんは、さっきまで座っていた一人用のソファーに座ると、もう一度ため息を吐いてから大爆笑になった。
壊れたみたいに笑い転げるガンスさんを見て、顔を見合わせた俺達は揃って乾いた笑いをこぼしたのだった。
「はあ、ちょっと落ち着こう。うん、別室で相談して正解だよ。こんなの他の連中が知ったらギルド中が阿鼻叫喚になるぞ」
笑いすぎて出た涙を拭いながらのガンスさんの言葉に、俺達はもう一回乾いた笑いをこぼしつつ同意するように何度も頷く。
「了解だ。じゃあ、登録の機械を持ってきてやるからちょっと待っていてくれるか」
「あの! それならすみませんがこの子もまだ未登録だったのを思い出しました! すみませんが登録用紙は二枚お願いします!」
もふ塊の端っこにいたサーベルタイガーのファングを見て、我に返った俺が大いに焦りながらそう叫ぶ。
「何だ。他にもまた増えていたのか。二枚だな。ちょっと待ってろ」
笑いながら右手を上げたガンスさんが部屋から出て行くのを見送り、俺達はもう一回顔を見合わせた。
「いやあ、あれは予想外の反応だったな」
「確かに。驚いて叫ぶか、椅子から転がり落ちるかと思っていたが、まさかの見なかった事にされそうになるとはな」
顔を見合わせたハスフェルとギイの言葉に、横で聞いていた俺とオンハルトの爺さんは揃ってもう一回吹き出してから、全員揃って大爆笑になったのだった。
結局、台車に例の登録装置を載せて自ら運んで来てくれたガンスさんが戻って来るまでの間、俺達はもう全員揃って涙を流しながら、ひたすら笑い転げ続けていたのだった。