衝撃の報告?
「ようこそバイゼンへ!」
「おや、お帰りなさい!」
城門を警備していた兵士達に笑顔でそう言われて、身分証がわりのギルドカードを見せた俺は困ったように笑った。
「まだ冬になっていないけど、ちょっとギルドマスターに用が出来てね」
「もちろん、いつでも大歓迎ですよ。どうぞゆっくりしていってください!」
ギルドカードを返してくれた兵隊さんに満面の笑みでそう言われて、俺は誤魔化すように笑ってそそくさとマックスの背に飛び乗った。
「じゃあ、とにかく冒険者ギルドへ行こう」
予想以上の大歓迎っぷりに苦笑いしたハスフェルがそう言い、頷きあった俺達はとにかく冒険者ギルドへ向かった。
途中、俺達に気がついた街の人達は笑顔でおかえりと言って手を振ってくれるし、冒険者らしき人達に至っては、駆け寄ってきてハスフェル達と笑顔で言葉を交わした後に、冒険者ギルドまでハンプールの時みたいに周りを取り囲んで警備してくれたりもした。
ハンプールに続きここでも大歓迎ムードでお出迎えされ、村人その一レベルの俺のHPは駄々減りしたのだった。
「おやおや、こんな時期におかえりとは、嬉しいが何かあったのか?」
冒険者ギルドの建物の中へ入ったところで、ちょうどカウンターから出てきたところだったガンスさんが俺達に気づいて話しかけてきてくれた。
「お久し振りです。実はちょっとお願いがありまして……」
最後は、辺りを憚るように小声で話すと、一瞬だけ真顔になったガンスさんは笑顔で大きく頷いた。
「まあ、積もる話は奥で聞こう。どうぞこちらへ」
若干わざとらしくそう言うと、スタッフさんに何か言ったガンスさんはそのまま俺達を案内して奥の部屋へ向かった。
当然、マックスを先頭に従魔達も全員ついてきているよ。
「ほら、そこに座って。茶ぐらい淹れるよ」
笑ったガンスさんがそう言って壁際に設置された小さなキッチンに駆け寄り、手慣れた様子で湯を沸かして本当にお茶を淹れてくれた。
テーブルを挟んで俺とハスフェル、ギイとオンハルトの爺さんがそれぞれ大きなソファーに座り、ガンスさんはそんな俺達の横に置かれた、ちょうどお誕生日席にある一人用のソファーに座った。
「で、何があったんだ?」
真顔のガンスさんの言葉に、お茶を飲んでいた俺達の動きが止まる。
それを見て、明らかに言いにくい案件だとわかったらしく思いっきりため息を吐いたガンスさんは、飲みかけていたカップを置いてもう一度さっきよりも大きなため息を吐いた。
「お前さん達には散々世話になったからな。どんな困り事でも必ず力になってやる。だから、とにかく話せ。何があった?」
真顔のガンスさんはちょっと怖い。
同じくため息を吐いた俺は、振り返ってもふ塊になっている従魔達を見る。
「マックス、おいで」
俺の呼びかけに、ワンと一声吠えたマックスが嬉々として駆け寄ってくる。
当然、何を求められているのかを心得ているマックスは、俺の足の横、ちょうどソファーにくっつく位置に座ってから伏せの体勢で大人しく収まる。
「実はですね……ガンスさんに内密のお願いがありまして……かなりの無茶を言う自覚はあるんですが、ガンスさんしか頼れる先が思いつかなかったんですよ……」
神妙な顔でそう言う俺を見て、驚いたように目を見開くガンスさん。
「お、おう。頼ってくれて嬉しいよ。必ず力になってやるからとにかく話してみろ」
身を乗り出すように、若干前屈みになったガンスさんを見て、俺はそっと手を伸ばしてマックスを撫でてやった。
そのままさり気なく首輪の辺りに手をやり、ルベルをこっそりと両手で包み込むようにして捕まえた。
もちろん、こちらも心得ているルベルは小さく丸くなって俺の手の中に収まりじっとしている。
「実は、春の早駆け祭りの後に北方大森林へ行きまして、まあ色々ありまして、結果としてこんな子をテイムしたんですよね。それで、ガンスさんへのお願いと言うのが、内密に従魔登録をお願い出来ないかと思いまして……」
「はあ? テイムした従魔の従魔登録なら、別に内密にお願いする必要は無いだろうが。受付で申し込み用紙に記入して小銭を払えば済む話だぞ?」
不思議そうなガンスさんの言葉に、俺は困ったように笑ってそっと閉じたままだった両手を差し出してテーブルの上に広げて見せた。
起き上がったルベルがテーブルの上に降り立ち、小さな姿のままで翼を広げてガンスさんの方を向いた。
そして、ごくごく小さな火の玉を作り出して軽く息を吐く。
ボッ! って感じの小さな爆発音がして、一瞬だけ拳サイズの炎が出てすぐに消えた。
後には焦げ臭い香りと、少しの煙。
その後には、呆然と目を見開いたまま声も無く、テーブルの上で翼を広げるルベルをガン見しているガンスさんがいたのだった。
ガンスさん、お願いだから瞬きはしてください。
ちょっと、見ている俺の目が痛くなってきたんですけど……。




