バイゼン目指して出発だ!
「またいつでも来てくださいね」
「いつでも大歓迎ですよ」
いつもの扉から外の踊り場に出たところで巨大化したファルコを前にした俺は、一緒に見送りに出て来てくれた各枝の代表の皆さんから口々にそう言われて、笑顔で振り返った。
「俺の方こそ、本当に楽しかったし勉強になりましたよ。ぜひまた来ますので、その時はよろしくお願いします」
近くにいたサイプレスさんが、俺の言葉に笑顔で大きく頷いてくれた。
「では、出発しますね。ああそうだ。俺式の別れの挨拶で最後は締めくくりましょう」
俺も笑顔になり、顔の前で右手を握ってから突き出して見せると、それを見たサイプレスさんは、笑顔で即座に右手を握って突き出してくれた。
「絆の共にあらん事を」
お約束のセリフを言って、コツンと軽く拳を突き合わせる。
一瞬、驚いたように目を見開いたサイプレスさんだったけど、すぐに破顔した。
「良き言葉ですね。絆の共にあらん事を」
とても良い笑顔でそう言ってからもう一度、今度はサイプレスさんの方から拳を突き出して俺の拳にコツンと合わせてくれた。
それを見た他の枝の代表の皆さんも拳を握って嬉々として集まって来てくれたので、ここからはハスフェル達も加わり、笑顔で順番に拳を突き合わせて挨拶を交わしたのだった。
最後の一人と挨拶を交わしてから、待っていてくれた巨大化したファルコの背に上がる。
一応、ここは重量的に危ないので、巨大化したルベルには乗らないよ。
ちなみにルベルはというと、小さくなってマックスの首輪に取り付けたカゴの中にウサギトリオと一緒に収まっている。
「では、確保しま〜す!」
張り切ったアクア達の声が聞こえた直後、ビヨンと伸びたスライム達が俺や従魔達をしっかりと確保してくれた。
「いつもありがとうな。では、お世話になりました」
笑顔で俺がそう言って手を振ると、各枝の代表の皆さんも笑顔で手を振ってくれた。
「では、出発しますね」
ファルコがそう言って大きく翼を広げて軽く羽ばたく。
そのままふわりと浮き上がり一気に上昇していく。
あっという間に巨大な森の上空へと上がり、数度旋回してから一気に飛んでいった。
「楽しかったよ。マックス達とたくさん水遊びも出来たしな。ちょっと早い夏休みだったな」
すっかり初夏の日差しになったよく晴れた空を見上げながら、思わずそう呟いた俺だったよ。
そのまま森の上空をのんびりと遊覧飛行を楽しみ、太陽がそろそろ頂点にかかる頃に見慣れた巨大な城壁が見えてきたよ。
そう、バイゼンの街だ。
「へえ、街道沿いや城壁の外に新しく植えた木々も、こうして見る限りかなり成長しているみたいだな。もしかしてウェルミスさん達が何かしてくれているのかな?」
一瞬、地面から湧き出してきたあの巨大ミミズの群れを思い出して気が遠くなったけど、力一杯明後日の方向に蹴り飛ばしておいた。
うん、あれは単なる土壌生物。あれは単なる土壌生物。
呪文のようにそう呟いてから、とりあえず気分を変えるように大きく深呼吸をした。
「じゃあ、近くまで行ったら街道に入ってそのまま街へ向かい、とにかく冒険者ギルドだな」
マックスの首輪に取り付けたカゴから小さな首を伸ばしてこっちを見ているルベルを見て、俺が小さくそう呟く。
「そうだな。とにかくルベルの従魔登録が最優先事項だな。後はまあ、そのまま城へ戻って休んでもいいし、空いているなら宿泊所に泊まるのもありかな?」
笑ったハスフェルの言葉が聞こえて、俺もたまには宿泊所に泊まるのも良いかも、なんて考えていたら、笑ったギイが首を振って顔の前で手を振った。
「いやあ、この時期なら装備を整える目的の冒険者達が大勢来ているだろうから、恐らく宿泊所は満室だろう。特に一階の大部屋は、まず空いていないと思うぞ。特に今回は、東の街道が例の岩食い騒動で被った被害のせいで、補修工事の為にしばらく通行止めになっていたのもあるからな。街道が開通以降は、待ち構えていた冒険者達がバイゼンに殺到しているはずだ」
「ああ、成る程。確かに言われてみればそうかも」
納得した俺は、自分で収納していた鍵の預かり証を取り出した。
一応、留守の間の敷地内と建物の管理の為、冒険者ギルドにお城の鍵を預けてある。
これは、その鍵を預けた際に代わりに受け取ったものだ。これを冒険者ギルドに返せば、管理の委託は終了となって鍵を返してもらえる仕組みだ。
「さてと。じゃあ、行くとするか」
街道めがけて一気に降下するファルコの背の上で、俺は、アサルトドラゴンのルベルを見たギルドマスターのガンスさんが、割と本気で卒倒するんじゃあないかと思ってちょっとチベットスナギツネみたいな目になっていたのだった。