ランドルさん達の場合
「いよいよ地下洞窟だな。お前は何をテイムするんだ?」
「そうだなあ。俺は出来ればラプトルが欲しい。ギイさんの乗っていたブラックラプトル。あれはめっちゃ格好良かったからさ」
「確かに。でもそう簡単には確保出来ないだろうから、肉食恐竜をテイムするのならよく考えて戦わないとな」
「そうだな。従魔達がいるとは言え、迂闊な遭遇は避けるべきだな。よく連携を考えて動かないと」
やる気満々の様子で顔を突き合わせて真剣な顔で相談しているマールとリンピオを見て、俺はボルヴィスとアルクスと顔を見合わせて揃って苦笑いしてから地下洞窟の入口を見た。
俺の名はランドル。一応上位冒険者で魔獣使いだ。
旅の途中で知り合った、間違いなく世界最強の魔獣使いであるケンさんに色々と教えてもらったおかげで、長年スライム一匹だけをこっそり連れた隠れテイマーだった俺が魔獣使いになって自分の紋章を持てた。
今では様々な強いジェムモンスターだけでなく、その師匠であるケンさんから譲ってもらった魔獣のリンクスまで連れているって言うんだから、世の中何が起こる分からないものだよな。
今は、そのケンさん達とは別れ、同じく魔獣使いで上位冒険者のボルヴィスとアルクスの二人とともに、マールとリンピオという若い冒険者達とパーティーを組んでいる。ちなみにマールも魔獣使いだから、文字通り魔獣使いパーティーだよ。
それなりに腕は立つが、まだまだ未熟な部分も多いこの若き冒険者達二人を一人前に育ててやるのが当面の俺達の目標だ。
こいつらとは出会いこそ最悪だったけど、話してみれば色々と苦労している素直ないい奴らだったみたいで、今の俺達はもう完全に保護者気分だよ。
「二人は地下洞窟に入るの初めてだと言っていたな。まずはトライロバイトでしっかり槍での戦い方を覚えろ。そのあとは草食恐竜のところへ連れて行ってやる。肉食恐竜は最後だ。いいな」
「はい! よろしくお願いします!」
笑ったボルヴィスの言葉に、二人も満面の笑みで揃って元気な声で応える。
もちろん危険ではあるが、地下洞窟に入ると考えただけで冒険者なら誰でもワクワクするし、笑顔にもなるだろう。
それぞれ期待に胸を膨らませた俺達は顔を見合わせて頷き合い、嬉々として地下洞窟へと足を踏み入れたのだった。
「いいか。地下洞窟の中で絶対に注意しなければならない事がいくつかある。その一、自分のいる現在位置を常に把握しておく事。未踏の地下洞窟の場合は、定期的にマーカーを打ち込んで地図を作りながら進む。マーカーを打ち忘れると、帰れなくなるから絶対に忘れないように。ちなみにここの地下洞窟は、地図があるのでそれを使うからマーカーは必要無い」
中に入った最初の広場の入り口付近で立ち止まったところで、ボルヴィスがそう言ってやや小さめの地図を開く。
この地下洞窟は、最下層まで完全に攻略されていて、ギルドへ行けば少々値は張るが、詳しく描かれた内部の地図が簡単に手に入る。もちろん、出現する恐竜についての情報も詳しく書かれている。
基本的に場所ごとに出現する恐竜は決まっていて、今のところ出現する恐竜に変化があったと言う話は聞いていない。
真顔になった全員が、広げた地図を覗き込む。
「今いる場所がここ。ここに出るのはブラックトライロバイトとシルバートライロバイトだ。甲羅が硬いので剣では簡単に斬れないし弾かれる事が多い。出来れば槍か斧を使え」
その言葉に、二人がそれぞれ手にしていた収納袋から槍を取り出す。
その輝きはどちらもミスリルの合金製。出発前にバッカスの店で購入した一振りだ。
「トライロバイトは、とにかく一度に出る数が多いので、戦いが始まれば乱戦になる。スライム達が背後を守ってはくれるが常に周囲の確認を怠るなよ。乱戦の真っ最中にトライロバイトの角にぶっさりやられたら、下手をすれば出血多量であの世行きだからな」
ここへ来る前にスライムの巣に立ち寄り、それぞれ持っていないカラーの子達をテイムしているから、連れているスライム達の数は皆それなりにいる。
「よろしくな」
それぞれ真剣な様子でスライム達に背後の守りをお願いしているマールとリンピオを見て、もう一度顔を見合わせた俺達は揃って苦笑いしていたのだった。
まあ、トライロバイトとの乱戦は慣れの部分も大きいから、これはもう経験して覚えてもらう以外にない。
それぞれ槍を手に従魔達と共に走っていき配置につく二人を見て、俺達もそれぞれ取り出した槍を手に展開したのだった。