アーケル君達の場合
「ううん、空から行くとハンプールから王都までって案外近いんだな」
「確かに。船旅だともっとかかるのになあ」
「まあ、この速さでしかも一直線に目的地に向かって飛ぶわけだから、そりゃあ確かに地上の街道を進んだり船で進んだりするのとは、比べる意味もないくらいに早さは違うだろうさ」
もう間近になってきた王都の街並みを見た俺の呟きに、俺の後ろに座った兄さん達が感心したようにそう言って笑っている。
「なあ、アーケル。せっかくだから、俺達にも鳥をテイムしてくれないか?」
「ああ、確かに! 鳥がいると移動範囲が一気に広がるよな! なあ、アーケル! 俺も頼むよ!」
目を輝かせて手を打ったオリゴーの言葉に、カルンも笑って手を叩いてから俺の肩をバンバンと叩いた。
「痛いからそんなに力一杯叩くなって。別にテイムするのはいいけど、じゃあ代わりに何をしてもらおうかなあ〜〜」
わざとらしく考える振りをすると、顔を見合わせた二人が揃ってにんまりと笑い、小物入れから何やら板状の物を取り出して俺に向かって振った。
布で包まれたそれは、何やら厳重に紐がかけられてある。
「今、王都で大評判の〜〜」
「舞姫の姿絵でどうだ〜〜」
「俺は正面からの笑顔で〜〜」
「こっちは一番人気の見返り姿だぞ〜〜」
「よし、何でも好きなのを好きなだけテイムしてやる。あ、ただし一日の上限数は超えない範囲でな!」
真顔で即答する俺を見て二人が揃って吹き出し、顔を見合わせてもう一回吹き出してから手を叩き合う。
「何をしているんだお前達は」
すぐ近くを飛んでいる親父の呆れたような声が聞こえて、俺達はもう一回揃って吹き出し大爆笑になったのだった。
少し離れたところを飛んでいた、ムジカ君とシェルタン君、それからレニスさんと母さんには今の会話は聞こえていなかったみたいで、大爆笑している俺達を見て、揃って不思議そうに首を傾げていたのだった。
ケンさん達と別れてハンプールの街を出た俺達は、そのまましばらく街道を進んでから街道から離れ、連れていた鳥達に乗って一直線に王都を目指したのだった。
初めての空の旅に、兄さん達が大喜びだったのは言うまでもない。
思っていた以上の速さで無事に王都に着いた俺達は、そのまま一旦郊外にある別荘地の端に降り立ち、姉さん達が所有する別荘へ行って、まずは一休みする事にした。
一応、ここを姉さん達夫婦二組が購入する際に、せっかくだからと結婚祝いを兼ねて俺達もそれなりの金額を協賛したんだよ。
なので、いつでも好きに使ってくれていいと言われて俺達も鍵を貰っているから、建物への出入りは自由だよ。
「じゃあ、お前達は留守番だからな。建物の中は好きにしてくれていいぞ。でもって、うちの敷地はここからここまでで……」
一応、従魔達を全員連れて庭に出た俺は、敷地の境界線の場所をしっかりと見せながら説明して、敷地内は自由にしていいけど、柵の外には絶対に出ないようにしっかりと言い聞かせた。
まあ、この辺りは言葉が通じるって有り難いよなあと、いつも思うよ。
ペットだったりすると、こうはいかないからな。
「じゃあ、一休みしたところで街へ行くか」
ソファーから立ち上がった親父の言葉に頷き、俺達も立ち上がる。
「今度は俺達だけだから、まあ見られるって言っても普段通りだからな」
顔を見合わせてもう一回吹き出した俺達だったよ。
何しろ、もう普段から大勢の従魔達と過ごすのが当たり前だった俺達は、前回、春先にケンさん達と別れたあとに色々な報告を兼ねて王都に住む姉達に会いに行った時に、うっかり従魔達を引き連れたまま行ってしまい、そりゃあもう大騒ぎになったのだった。
雑貨屋を共同経営で営んでいる姉達の店には、従魔見たさに山ほどの野次馬が来て商売上がったりになるし、噂を聞きつけた貴族達の使いの者達が、これまた次から次へと店に押しかけて来るわ、街へこっそり出掛けても声をかけてくるわで、もう全然寛げず、買い物すらほとんど出来ず、結局姉達から、母さんの魔獣使い復活と俺が魔獣使いになったのはめでたい事だし心の底から祝うけど、商売の邪魔で迷惑だからもう出て行ってくれと真顔で言われてしまい、そのまま逃げるみたいにハンプールへ向かったんだよ。
なので、今回は従魔達は全員別荘で待っていてもらって、俺達だけで街へ向かった。
ちなみに、別荘地から街までは歩くとそれなりの距離があるけど、俺達だって冒険者だ。小柄ではあるがしっかり鍛えているから、これくらいの距離なら全然大丈夫だよ。
街までの道をのんびりと歩きながら、今頃ケンさん達は何をしているんだろうな。
きっと、ケンさんの事だから、またとんでもないジェムモンスターをテイムしているんじゃあないか? なんて話をしては笑い合っていたのだった。




