巨大ミミズさんとの交流?
「す、すまぬ。人の子は我らの姿を怖がるのであったな。ほら、其方達はもう良いから土の中へ戻りなさい」
唐突に地面の穴から現れた2〜3メートルクラスの巨大ミミズの群は、慌てたウェルミスさんにそう言われた途端に全員揃ってしょぼ〜んって感じに打ちひしがれ、一旦地面に張り付くみたいにぺしゃんこになってからズルズルと出てきた穴の中へとゆっくり戻って行った。
その姿がなんともいえないくらいに哀愁が漂っていて、振り返った俺は離れてはいるもののその場で深々と頭を下げた。
「あの! 逃げたりして申し訳ありませんでした。ちょっと突然の登場だったので驚いただけです。あの、ウェルミスさん、それからレオの眷属の皆様方、壊滅的だったオレンジヒカリゴケの群生地を守り育ててくださり、本当にありがとうございました。おかげで万能薬が必要な数だけ確保出来ました。これからも、どうかよろしくお願いします!」
俺の叫ぶような声が聞こえた途端、しょぼんとしていた巨大ミミズの皆様方は一気に元気になった。
そりゃあもう、見事なまでに。水を得た魚ならぬ感謝を得たミミズさん状態。
シュボッて音が出そうな勢いで復活して穴から飛び出してきた巨大ミミズの皆さんは、こっちに向かって一斉にスライム達みたいに伸び上がって、頷くみたいに鼻先(?)を上下させてから次々に穴の中へと消えていった。
何と言うか、一言も喋っていないのにはしゃいでいるのが分かってしまい、その様子を離れたところから見ていた俺は、最後のミミズが地面に飛び込んで行ったのを見てから安堵のため息を吐いた。
一応あんな見かけだけど神様の眷属だもんな。失礼はチャラになったみたいで安心した俺だったよ。
ちなみにウェルミスさんはまだ地上に出たままだけど、まあ、あのお方お一人だけなら、まあ……多少見慣れてきたので大丈夫だ。
そう思ってもう一回安堵のため息を吐いた俺が戻りかけて足を一歩踏み出そうとした途端、またしても唐突に目の前の地面に小さなひび割れが起こり、咄嗟に下がろうとして果たせずそのまま足を下ろしてしまった。
でもって、何故かひび割れた穴から一匹だけ出て来た巨大ミミズさんをまともに踏んでしまった。
「うぎゃあ! ああ、申し訳ありません!」
悲鳴を上げて、ついでに足も上げてから慌てて下がったけど、ニョロンと体半分くらいまで出てきたその巨大ミミズさんの頭頂部には、見事に俺の足跡がスタンプされていたよ。
「驚かせてすまぬ。この世界の救世主にして世界最強の魔獣使いケン殿に、改めてご挨拶申し上げる。また、先ほどのケン殿から頂いた感謝の言葉、我ら一同心に染みるほどに感激致しましたぞ。今後ケン殿が何か植物を育てる際には地下より我らが見守り、万全の状態でお育ていたしますので、ぜひお試しくだされ。ああ、ハンプールの街にあるケン殿の別荘地内の植物達も、我らがこっそり面倒を見ておりますのでご安心を。また次の季節にお戻りになられた暁には、春とは違う果物を楽しんでくだされ」
むふって感じに得意げにそう言われて、思わず目の前のミミズさんと見つめあってしまった。
まあ、一匹くらいなら……いや、超巨大ミミズなウェルミスさんよりも、逆にこれくらいのサイズの方がある意味怖いかも。
今の巨大ミミズさんは、地面に空いた穴から体半分くらいが出てきているんだけど、ちょうど俺と同じくらいの高さに顔、というか先端部分があって何と言うか妙にリアルで恐怖心が倍増する感じだ。
思わず一歩下がってから失礼だったかと我に返って慌てていると、小さく笑ったそのミミズさんはそのまま体をくねらせて地面に空いた穴に戻っていった。
「あの、俺の足跡が……ああ、行っちゃったよ」
あっという間に元通りになった地面を見つめて小さくそう呟く。
「はあ、まあいいか。地面の中を進んでいたら、きっと擦れてすぐに消えるよな」
ため息と共にそう呟き、あとはもう何だか笑いが止まらなくて一人で笑い転げていたのだった。
まあそんな訳で無事に収穫と群生地の確認を終えた俺達は、日が暮れる前に木の家へ戻った。
一応、帰る際にはルベルからお空部隊の皆に乗り換えてから戻ったよ。
ルベルに乗せてもらったら早いし移動は楽でいいんだけど、デカ過ぎて降りる場所が限られる。
これって人の住む世界へ戻ったら、多分だけどルベルの使い所は限られる気がするな。
最大サイズまで巨大化したアサルトドラゴンを迂闊に街の近くで人に見られたら、間違い無くギルドに速攻報告がいって、即座に討伐隊が組まれるレベルだろうからさ。
今は小さくなってマックスの首輪に取り付けたカゴの中にウサギトリオとアヴィと一緒に潜り込んでいるルベルを見て、苦笑いしながらそんな事を考えていた俺だったよ。
さて、無事にオレンジヒカリゴケの採取も終わった事だし、この後は、しばらくここでのんびりさせてもらうとしましょうかね。




