群生地の様子とウェルミスさんの事
「じゃあ、一休みしたら順番に他の群生地の様子も見ていくとするか」
食後のコーヒーを飲みつつそう言った俺の言葉に、同じくおかわりのコーヒーを飲んでいたハスフェル達も笑顔で頷く。
ナイフを使った採取方法を覚えたスライム達の大活躍により、この群生地で採取出来る分は見事なまでに全て採取され、今は全体に短くなったせいで薄い緑色になったオレンジヒカリゴケが視界一杯に広がっている。
根は全く傷ませる事なく採取出来たので、それほど時間をかけなくてもすぐにまた次の採取が出来るようになるだろう。
「おお、無事に採取を終えたのだな」
まったりと食後のコーヒーを楽しんでいた時、不意にテント横の地面が割れて巨大ミミズのウェルミスさんが顔を出した。
ううん、相変わらずなかなかシュールな見かけだねえ。朝から見るのはちょっと怖い。
神様の眷属相手に若干失礼な事を考えて遠い目になっていると、笑ったハスフェル達が次々にウェルミスさんに駆け寄り、見事なまでに群生地を再生してくれた事へのお礼を伝えていた。
それを見た俺も慌てて立ち上がり、ウェルミスさんにお礼を伝えたのだった。
一応、他の群生地の様子もウェルミスさんから聞き、追加の採取も兼ねて順番に、転移の扉で移動しつつルベルに乗せてもらって群生地を回っていった。
まず、最初に行った斜面に生えていた群生地が丸ごと地滑りを起こして無くなっていたあの場所は、なんと明らかに地形そのものが変わっていた。
何しろいくつかの場所で大きな崩落が起きて真っ平だった斜面がガタガタになっている上に、崩落の起きた上部では斜面にぽっこりと大きな穴があき、深い空間がいくつも出来ていたのだ。
その結果、大きな穴になった空間内の壁面全部とガタガタになった斜面全体にびっしりとオレンジヒカリゴケが生えていて、他の斜面部分とくっついて崩落防止になっていたのだ。
「へえ、これは考えたな」
「確かに見事だな。じゃあ、せっかくだからここでも採取させてもらおう」
「ふむ、確かにこれなら何かあっても前回と違って崩落は最低限で済むな」
感心したようにそう呟いたハスフェル達三人がまた手持ちのナイフを取り出してくれたのを見て、張り切ったスライム達が一斉にオレンジヒカリゴケの採取を始めた。
俺なら立っているだけでもギリギリの急斜面でも、どこにでもくっついて移動出来るスライム達にとっては平地とかわりない。
あっという間に収穫が終わり、俺達はまたお空部隊の子達に乗せてもらって移動したのだった。
うん、ここの斜面はかなりの急角度でルベルの巨体が降りるには危険過ぎるとの事で、今回はルベルでの移動はハスフェル達により却下された。
転移の扉とお空部隊の子達に乗って移動して他の群生地も見て回った結果、前回は全く採取出来なかった小さかった群生地もかなり大きく成長していて、それなりの量の収穫が出来た。
その結果、どうやら当分は何があっても大丈夫なくらいのオレンジヒカリゴケが採取されたのだった。
「それにしてもウェルミスとその仲間達の活躍に感謝だな。皆から分けてもらった分とケンの別荘の庭で採取出来た材料でなんとか凌いでいたとはいえ、手持ちに充分な量の万能薬が無いというのは、正直に言ってかなりの不安材料だったからなあ」
「そうだな。大繁殖はいつ何処で起きるか分からないから準備は万全にしておきたい。これでようやく安心出来たな。ウェルミスとその仲間達に感謝だな」
笑ったハスフェルとギイの言葉を聞いていて、俺は不意にある事に気がついた。
「ええと、ウエルミスさんとその仲間? え? 他にもレオの眷属さんがいるって事?」
驚く俺の言葉に、同じくらいに驚いたハスフェルとギイが俺を見る。
「お前、知らないのか? もちろん相当数が地面の下で活躍してくれているぞ。それらを総括しているのがウェルミスなだけで、レオの眷属はこの世界には相当数いるぞ?」
「ええと、それってつまり……」
そう言いながら地面を見る。
今いる場所は、とりあえず降りてきた転移の扉近くにある地面の上で、ところどころ綺麗な草地になっている。
「では、ケン殿に我が仲間達を紹介させていただくとしよう」
その時、予想通りにパカって感じに地面が割れて、巨大ミミズのウェルミスさんが顔、というか鼻先を出した。
そのまま身をくねらせて全身が草地に上がってきた。
そして、ウェルミスさんが出てきた穴から次々に長さ2〜3メートルくらいのやや細めの巨大ミミズが大量に飛び出してきたのだ。
「うぎゃ〜〜〜!」
別にミミズが嫌いってわけではないが、さすがにこのサイズの巨大ミミズが群れをなして出てくるのは予想外だよ。
情けない悲鳴をあげてすっ飛んで逃げていく俺を見てハスフェル達が揃って吹き出す。
そして何故かウェルミスさんが俺に慌てて謝っている声が聞こえて、なんとか立ち止まりはしたものの割と本気で遠い目になった俺だったよ。




