安心の万能薬!
「じゃあ、皆にもやり方を教えておくね〜〜。あ、でもナイフが無いね。ご主人、使っていないこれ、借りてもいいですか?」
ベリーにしばらくオレンジヒカリゴケの採取を見せていたサクラは、ようやく解放されたところで俺のところへ改めて跳ね飛んで戻って来てから、収納していたナイフコレクションの収納ケースごと取り出して俺の前に置いた。
これは、バイゼンのナイフの専門店で見つけたもので、箱型で留め具のついた蓋がついている。
シンプルな見かけだが案外しっかりとした作りになっていて、中はトレーが三段になっていて、それぞれにナイフを入れるスペースが細かく区切られている。
しかもその区切り部分は取り外しが出来て可動式になっているので、ナイフの大きさや厚みに合わせて細かく変えられる仕様になっている。
ここには俺がバイゼンで購入した、ちょっとお高めのいろんなナイフがぎっしりと詰まっている。あ、ちなみにオーダーで作ってもらった恐竜の鉤爪のナイフや、昆虫素材のナイフもここに一緒に入れているよ。
まだ使っていない物もあるから一瞬勿体無い気がしたんだけど、でもナイフは道具。使わないと意味はないから、それこそその方が勿体無いよな。
「おう、もちろん使ってもらって構わないよ。傷んだら、まとめてどこかの街で研ぎに出すよ。とにかく、手分けして出来るだけたくさん採取してくれよな」
笑って頷きながらそう言ってやる。
さすがにたくさんのナイフを買ったとは言っても、スライム達全員に行き渡るだけの数はない。
なのでここは手分けして交代で使うなり、チーム分けして共同で使うなりしてもらわないといけないんだけどさ。
「じゃあ、適当に分かれてね〜〜」
収納ケースの蓋を開けて中身を取り出したサクラが、そう言って集まって来たスライム達とくっついてモゴモゴし始める。
いつも何か新しい事を教える時はあんな風にくっつきあってモゴモゴしているから、今もああやって教えているのだろう。
しばらくして分解したスライム達は、次々にナイフを取ると、そのまま一斉に群生地に散っていった。
どうするのかと思って見ていると、オレンジヒカリゴケを触手で束ねて切りやすいように準備する子達がいて、ナイフを持ってその束ねてくれたオレンジヒカリゴケを切る子。そして、切ったオレンジヒカリゴケを即座に収納する子と、見事なまでに役割分担がされていて次々に採取していく。
しかも、残った方のオレンジヒカリゴケは、全く根が傷んでいなくて綺麗なままだ。
これ、下手な芝刈り機よりも綺麗に刈れていると思うぞ。ってか、俺がちぎったところよりも綺麗なくらいだ。
苦笑いした俺は、少し考えて自分の剣帯に装着していたナイフを抜くと、せっせとナイフでオレンジヒカリゴケを切り取って採取していったのだった。
うん、最初からこれでやればよかった。こっちの方が手が痛くならないし汚れないよ。
「はあ、ちょっと休憩して昼飯にしようか。疲れたし、腹も減ってきたよ」
ため息を一つ吐いた俺がそう言うと、ハスフェル達からも同意の声が上がった。
太陽はちょうど真上。うん、昼休憩にはぴったりの時間だ。
「いやあ、今日中には絶対に終わらないと思っていたけど、これって、もうほぼ終わったんじゃね?」
取り出した机の上に適当に作り置きを取り出しつつ、群生地全体を見回した俺は思わずそう呟く。
だって、もう見える範囲の採取はほぼ終了していて群生地全体が来た時よりも薄緑色っぽくなっている。
何しろ俺のスライム達だけではなく、ハスフェル達三人が連れているスライム達にまでナイフを使った採取方法が伝達され、当然大量のナイフを持っているハスフェル達がありったけ手持ちのナイフを取り出してくれたもんだから、俺のスライムを含めたスライム達全員に一匹につき一本ずつナイフが支給されたんだよ。
そしてスライム達は、全員が収納の能力持ち。
その結果、張り切りまくったスライム達の手によりもの凄い勢いでオレンジヒカリゴケが収穫されていき、もう群生地のほぼ全部が綺麗に収穫されたのだった。
いやあ、人海戦術って凄い!
って事で午後から俺達はひとまず採取は終了して、テントの中で休ませてもらった。
その間にスライム達には、手分けして、群生地内で採取のし残しがないかを一通り確認してもらった。
アクアとサクラはそれには加わらず、採取したオレンジヒカリゴケで最高品質の万能薬を量産して手持ちの空き瓶にありったけ詰める作業に専念してもらった。
出来上がった万能薬をまずはハスフェル達三人に渡した。
もう大丈夫だと彼らが言うまでひたすら量産してもらってから、後半は俺も何本か受け取って自分で収納しておいたよ。
まあ、ジェムモンスターの大量発生はいつどこで起こるかなんて分からないし、怪我だってどこでするかなんて分からないんだから、回復手段は常に持っておかないとな。
って事で無事に万能薬の在庫が回復して、俺達は揃って拍手大喝采となったのだった。
「よし、じゃあ今夜はがっつり肉を焼くぞ!」
一応、他の群生地の様子も一通り確認しておきたいとハスフェル達が言うので、今夜はここで野営して、明日は他の群生地を回る事にした。
オレンジヒカリゴケの生えていない場所にテントを並べて立てて、俺は急いで夕食の準備に取り掛かった。
焼くのは、全員からのリクエストで岩豚の肉だ。もちろん厚切り〜〜。
「サイドメニューは作り置きを出せばいいな。後はスープと味噌汁くらいあればよかろう」
分厚く切って塩胡椒をしっかり目に振った岩豚の肉をフライパンに並べつつ、サクラに頼んでその辺りを適当に出しておいてもらう。
嬉々としてサイドメニューを取り始めたハスフェル達を見つつ、おにぎりが食べたくなった俺は追加でサクラに取り出してもらってしっかり確保したのだった。
はあ、岩豚の肉を焼いているこの香りだけで、ご飯が食べられそうだよ。




