帰還と大騒ぎ
「よし。とりあえずここは撤収して、木の家へ戻って今日はもうゆっくりしよう。で、明日以降に取り急ぎオレンジヒカリゴケをあるだけ収穫して、それから何処か近くの街へ行ってルベルの従魔登録かな? ゆっくりするのはその後だな」
「それでいいと思うぞ。だが出来ればルベルの従魔登録は、ケンをよく知っているギルドマスターに頼んだ方がいい気がするな。初対面のギルドマスターに、この頼み事はさすがに重すぎる気がするぞ」
苦笑いしたハスフェルの言葉に、確かにそれもそうかと納得する。
「ううん、ここって北方大森林の中だから、行くなら一番近いのはバイゼンかな? ハンプールまで戻るって手もありか」
お空部隊の子達と、転移の扉を使えば何処であれ移動は簡単だから距離はあまり気にしなくていい。
となると、気心の知れたギルドマスターにこっそりルベルの登録を頼むのが良さそうだから、それならバイゼンかハンプールのどちらかへ行くのが良い気がする。
「そうだな。ここからならバイゼンへ行くのがいいんじゃあないか?」
まあ、早駆け祭りを終えて華々しく見送られて出発したハンプールへこんなにすぐに戻るよりは、まだバイゼンの方がいい気はする。
って事で、今後の予定が決まったところでこの場を撤収した。
「ご主人、せっかくなので良ければ我の背に乗ってみるのはどうだろうか? 一番大きくなれば、ご主人と従魔達だけでなく、ここにいる全員を乗せる事も余裕で出来るぞ」
ラパンとコニーの間から顔を出したルベルの言葉に、思わず考える。
巨大化したドラゴンの背中に乗って空を飛ぶなんて異世界ならでは、めっちゃファンタジーな感じで最高だと思うけど……。
答える前に、思わずハスフェル達を見る。
「魅力的な提案な気はするが、それはオレンジヒカリゴケを採取に行く時にしよう」
「そうだな。俺達が討伐に行った翌日、巨大化したアサルトドラゴンがあの場に一頭だけで近付いて行けば、間違いなく説明の間もなく、森林エルフ達総出による全力の魔法で総攻撃されるぞ」
「あはは、それはさすがに俺も絶対にごめんだな。って事で、ルベルに乗せてもらうのはオレンジヒカリゴケの採取へ行く時にな」
笑った俺がそう言って小さな頭を撫でてやると、ルベルは納得したのか笑ってうんうんと頷いてから、俺の手に小さな頭を擦り付けてきたので両手でおにぎりにしてやる、
「ああ、ルベルだけずる〜〜い」
「私も私も〜〜〜!」
「ご主人、私もおにぎりしてくださ〜〜〜い!」
それを見た他の従魔達が、なぜか巨大化して一斉に集まってきたもんだから、俺は歓喜の悲鳴をあげてもふもふの海へ沈んで行ったのだった。
ナニコレ、朝から何のご褒美ですか?
「よし、じゃあ出発だな」
もふもふタイムを終えてテントを撤収した俺達は、いつものように俺はファルコに、他の皆もそれぞれいつもの子達の背に乗せてもらってひとまず森林エルフ達の住む木の家へ戻る事にした。
一応、ルベルは小さくなってラパン達と一緒に、マックスの首輪に装着したカゴに収まったままのんびりお寛ぎ中だ。
最初のうちは若干遠慮がちだったルベルだけど、元々フレンドリーな俺の従魔達に大歓迎されたおかげで少しはのんびりと寛ぐ事にも慣れてくれたみたいだ。
しばらく遊覧飛行を楽しみ、無事に木の家へ到着した。
「ううん、何度見ても凄い光景だと思うなあ」
巨大な木の内部をくり抜いた光景を見て、思わずそう呟いた俺だったよ。
「おや、ようやくのお戻りですね。それで、どうなりましたか?」
いつもの扉から中に入ったところで、駆け寄ってきたのはサイプレスさんと、俺が勝手に花粉症コンビと名付けている杉の枝代表のロウトスさんと檜の枝代表のシャガルさんの三人だった。
「ああ、無事に討伐は完了したよ。それで、ちょっと内密の報告があるんだが、他の皆は?」
チラリと花粉症コンビのお二人を見たハスフェルの言葉に、サイプレスさんはにっこりと笑った。
「少し前まで皆集まっていましたから、今ならすぐに集まりますよ。では招集をかけますね」
そう言って、胸元から10センチくらいの細くて小さな笛を取り出して口に咥えた。
だけど、息を吹き込んでも音は聞こえない。俺の耳でも聞こえないって事は、笛に見えるけど違うんだろうか?
「これでいいですよ。では会議室へご案内しましょう」
しかし笑顔でそう言われて納得した。多分、犬笛みたいに彼らには聞こえる音だったんだろう。
いや、もしかしたら笛に何か魔法的な付与がされていて、任意の人にだけ音が届くとかなのかもしれない。
会議室へ向かう間、俺はのんびりとそんな事を考えていたのだった。
確かにすぐに全員集合してくれたので、そこでルベルを皆さんに新しい従魔として紹介した結果、ちょっとした大騒ぎになったんだけどまあこれは当然だよな。ドラゴンをテイムしたのって、史上初の快挙らしいしさ。
その結果、目を輝かせたサイプレスさん達にアサルトドラゴンの体の構造や細部を見たいからと頼まれて、大きくなったルベルが森林エルフの皆さんに取り囲まれて、感心するような声や歓声と共に撫で回されて若干居心地悪そうにしているのを見て、俺達はもう遠慮なく大爆笑していたのだった。




