問題発覚?
「モーニングコールも命懸けになってきたな」
からかうようなハスフェルの声に、顔を上げた俺はもう笑うしかない。
「あはは、確かに命懸けかも〜〜」
「お前がすぐに起きれば何の問題もないんだがなあ」
「それは無理! 人には出来る事と出来ない事があるんだよ!」
同じくからかうようなギイの言葉に、振り返って真顔で即答する。
「断言したなあ」
呆れたようなオンハルトの爺さんの言葉に、全員揃って思いっきり吹き出したのだった。
「はあ、もう朝って時間じゃあないけどとりあえず飯にしよう。ええと、お粥って何があったっけ?」
「もう在庫はあんまり無いよ。あるのは、これとこれだね」
俺の言葉に、机の上に飛び乗ってきたサクラがそう言いながらやや小さめの寸胴鍋を二つ並べて取り出してくれた。
ハスフェル達も平気そうにはしているが若干二日酔いらしいので、結局作り置きのあった刻んだ野菜入りのお粥と卵雑炊でまずは食事にする事にした。
「はあ、飲んだ翌朝のお粥って、マジで美味しい……」
刻んだ野菜入りのお粥を食べながらしみじみとそう呟く。シャムエル様は、机の上で卵雑炊を満喫中だ。
「確かにそうだな。また飲む事もあるだろうから、お粥の作り置きを頼むよ」
「この、卵雑炊も美味しいから作り置きをよろしく」
笑ったハスフェルとギイの言葉に、卵雑炊を食べていたオンハルトの爺さんも笑って頷いている。
「そうだな。じゃあ、後で色々と作っておくよ。ええと、アサルトドラゴンの脅威は去った訳だから、もうここでする事は無いんだよな?」
冷えた麦茶を飲んでから、そう言ってハスフェル達を見る。
「そうだな。とりあえず問題は解決出来たわけだから、まずは報告を兼ねて戻ろう。あとはもう、言っていたように久し振りにしばらくゆっくりさせてもらおう」
笑ったハスフェルがそう言ったところで、右手を上げたギイがため息を吐いた。
「と言いたいところだが、万能薬の在庫がかなり減ったから、出来れば一度オレンジヒカリゴケの収穫に行きたいぞ。リナさん達や仲間達からもらった材料で作った追加の万能薬も、今回の戦いでほぼ使い切ったからな」
「ああ、確かに。さすがに遠慮なく使ったから手持ちはほぼ壊滅したからな」
「確かに、手持ちはほぼ無くなったな。では、一休みしたら収穫に行こう」
ギイの言葉に、ハスフェルとオンハルトの爺さんもそう言って苦笑いしている。
どうやらこの後の予定が決定したみたいだ。
「ええと、じゃあとりあえず万一に備えて少ないけど俺の手持ち分を渡しておくよ」
ハンプールの別荘の敷地内で採取出来た材料でアクアとサクラが作ってくれた万能薬は俺が持っていたので、それを一本だけ残して、あとは全部渡して三人で分けてもらった。
大繁殖はいつ起こるかわからないから、最低限の万能薬は彼らには持っていてもらわないとな。
って事で、食事を終えて少し休憩した俺達は、一旦木の家へ帰る事にした。
「これ、帰ったら大騒ぎになるだろうなあ」
俺の右肩にシャムエル様と並んで留まっている、小さくなったルベルを見て思わずそう呟く。
「まあ、サイプレス達は驚きはするだろうが、別に問題はないさ。それより、人の街へ戻ってからの方が大騒ぎになりそうだな」
苦笑いするハスフェルの言葉に、驚いて振り返る。
「確かにそうだな。俺の知る限り、ドラゴンをテイムしたテイマーや魔獣使いはいない。恐らく史上初の快挙だと思うぞ」
「ええ? マジ?」
「おう、マジだよ」
面白がるようにそう言われて、思わず右肩にシャムエル様と並んでいるルベルを見る。
困ったように笑っているシャムエル様を見て、俺は乾いた笑いをこぼした。
「まあ、どの街で従魔登録するにせよ、大騒ぎになるのは確実だろうな」
「いや、その前に……ドラゴンを肩に乗せて街へ行った時点で大騒ぎ確定だと思うぞ」
苦笑いしつつも、割と本気で心配そうにしている二人を見て、俺も真顔になる。
「ええと……ルベルって、どこまで小さくなれる?」
さすがに、街へ行く度に怖がられたり叫んで逃げられたりすると俺も悲しいしルベルも嫌だろう。
最悪、鞄の中に避難させるかどうにかして存在そのものを隠す方法を考えていると、軽く羽ばたいたルベルがマックスの頭の上へ移動した。
「そうだな。普段からするなら……このくらいだろうか」
こっちを振り返ってそう言ったルベルはググッと小さくなり、頭の先から尻尾の先まで30センチくらいになった。
胴体部分はセキセイインコのメイプルより小さいくらいだから、これなら威圧感はまるで無いし、遠目には首の長いトカゲか太い蛇みたいに見えなくもない。
まあ、翼がある時点で全部台無しなんだけどさ。
「おお、そこまで小さくなれるんだ。街へ入る時には、こっちの方が良さそうな気がするけど、どう思う?」
「ああ、確かにそれくらい小さくなれるのなら、ケンの肩ではなく他の従魔達と一緒にいると誤魔化せそうだな」
「確かに、その方が良さそうだな」
安堵するようなハスフェルとギイの言葉に、苦笑いしたオンハルトの爺さんとシャムエル様もうんうんと頷いている。
「じゃあ、街の中ではそのサイズになって……そこに入ればいいんじゃない?」
笑ったシャムエル様が指差したのは、マックスの首輪に取り付けたカゴだ。
今は小さくなったウサギトリオが収まっている。戦いの時には、ここにアヴィが追加で入るんだけど、確かに小さくなったルベルなら隙間に収まれそうだ。
「どうだ? 入れるかな?」
俺の言葉にルベルは少し考えてからピョンとカゴの縁へ飛び乗り、そのままラパンとコニーの隙間に収まった。小さな頭がちょこんと顔を出す。
「あはは、これなら万一見られても小さなトカゲに見えるな。じゃあ、街の中や人目があるところはそれで行こう。郊外の人目がないところでなら、さっきのように俺の肩に留まってくれていいからな」
「了解した。ではよろしくお願い致す」
「もちろん大歓迎よ〜〜」
「よろしくね〜〜!」
「こっちにもきてね〜〜」
嬉しそうなラパンとコニー、それからタルジュの言葉にルベルは嬉しそうに目を細めていたのだった。