フランマの言葉の意味
「じゃあ、改めてよろしくな。ルベルだよ」
腕の籠手部分にルベルを留まらせてやり、集まってきた従魔達に改めて順番にルベルを紹介していく。
皆、笑顔で嬉しそうにルベルに挨拶をしてくれていた。
最初にニニに鼻チュンをされた時には驚いていたルベルだったけど、これが猫族の正式な挨拶なんだとニニに教えてもらい、そこからは嬉しそうに他の猫族軍団の子達とも順番に鼻チュンで挨拶を交わしていたよ。
「お、お前……」
「もしかしてとは思っていたが、まさか本当にアサルトドラゴンをテイムするとは……」
「いやあ、相変わらずやる事が無茶苦茶だな」
呆れたようなハスフェルとギイの言葉に続き、もう遠慮なく大爆笑しているオンハルトの爺さんの声が続く。
「いやいや、この流れでテイムしなかったら、逆にそっちの方が可哀想だろうが!」
ルベルを改めておにぎりにしつつそう言い返してやる。
「た、確かにその通りですね」
笑ったベリーの言葉に、三人も笑いながら頷いている。俺の横では、フランマもそんな彼らを見て目を細めて笑顔でうんうんと頷いていたよ。
従魔達と挨拶を終えた後に、改めてハスフェル達三人とベリーとカリディアとフランマをルベルに紹介してやる。
「上手くいって良かったわね。ご主人」
最後にルベルと挨拶を交わした後に、嬉しそうなフランマにそう言われて俺も笑顔になる。
「うん、フランマが何があっても守るって言ってくれたから、安心してテイムに集中出来たよ。ありがとうな」
ルベルを右肩に戻してから、そう言ってフランマのふわふわな頭を撫でてやる。
ううん、やっぱりフランマの撫で心地も最高だね。
「フランマ。まさかとは思いますが、先ほどの言葉、本気だったわけではありませんよね?」
その時、ベリーがカツカツと大きな足音を立てながら駆け寄ってきて、フランマのすぐ側へ来て真顔でそう尋ねた。
いや、その口調は尋ねたと言うよりもほぼ詰問だ。
そしてこちらも先ほどまでとは一変して真顔になったフランマは、すぐ側に来た真顔のベリーをじっとまるで睨みつけるかのように見つめているだけで、何故か答えようとしない。
「フランマ?」
またしても詰問調なベリーの呼びかけに、しかしフランマはフンって感じにそっぽを向いてしまった。完全にわざとのガン無視。
「ええ、一体何事だよ。なあ、仲良くしてくれよ」
慌てて二人の間に割り入るようにしてそう言ったんだけど、それを見た二人が何故か揃って大きなため息を吐いた。
「では、ケンにも分かるように、先ほどのやり取りの意味を説明させていただきましょう」
「はい! お願いします!」
真顔というよりも怒っているかのようなベリーの言葉に、俺には分からなかったみたいだけど明らかに何か重要な意味があったと思い、俺は慌てて居住まいを正す。
ハスフェル達三人も何事かと驚いた様子でこっちを見ているが、とりあえず話に参加する様子はなく様子見状態だ。
「フランマは先程、ケンがそのアサルトドラゴンをテイムすると宣言した際に、万一にもあいつが貴方や従魔達に向かって炎を噴き出すような真似をしたら、即座に全ての炎を消し去ってあげると、だから安心して良いと言いましたね」
「ああ、確かにそう言ってくれたな」
その通りだったので素直に頷く。
「その意味を理解していますか?」
「へ、その意味って? 言葉通りだろう? だってフランマは最強の炎の使い手なんだから、吹き出した炎を消し飛ばすっていうかそんな感じで助けてくれるって意味だろう?」
そう思っていたので、そのまま伝えると、またしてもベリーは若干わざとらしく大きなため息を吐いた。
「やはりそうでしたか。全く違いますよ」
ゆっくりと首を振ったベリーは、そう言って俺を見てからフランマを見た。
「即座に全ての炎を消し去る。炎を噴き出す対象者とあれほどの間近にいても躊躇いなくそう言えるのは、フランマが炎の核であるその額の石を持っているからです。炎の術はそれなりに使う私やオンハルトであっても、いえ、エリゴールであっても、さすがにその距離で噴き出された炎を即座に消すなんて絶対に出来ない事です」
「うええ、ちょっと待った! ベリーやオンハルトの爺さんだけじゃあなくて、炎の神であるエリゴールでも出来ないって、なんだよそれ!」
焦る俺の叫ぶような言葉に、もう一度大きなため息を吐くベリー。
「神体の時のエリゴールならばもちろん可能でしょうが、この物質界に来る際には、彼も人の子の体で来ますからね。そうなれば、いくら強い術師だとは言っても扱えるのは所詮は人の子の扱える範囲の力になります。なので、ケンの知る姿の、人の子のエリゴールには無理だって事です」
その説明に納得はしたものの、俺は隣にいるフランマを改めて見た。
平然と俺を見ているフランマの頭にそっと手を伸ばし、ゆっくりと撫でてやる。
「炎の核って、この額にある赤い宝石の事だよな?」
本当は絶対に触ってはいけないものらしいが、俺は何故か触っても大丈夫だ。
寝ている時にフランマを抱き枕にしている時なんかには、うっかり額の宝石に手が当たる事もあるし、それどころか向かい合わせになって寝ている時なんかには、額同士を突き合わせて寝ている事だってある。
「ええ、全ての炎を消し去るには、その炎の核を砕けばいい。ここから見えるくらいの範囲にある火は、それで全て消し去れます」
怖いくらいの真顔のベリーの言葉の意味を考える。
そして唐突に思いついたそれに血の気が引いた。でも、それはおそらく確実で……。
「なあ、まさかとは思うけど、その場合フランマはどうなるんだ……?」
返ってきた予想通りのベリーの答えに、俺は悲鳴をあげる事になるのだった。