従魔達の戦い方
「成る程。そういう事か!」
「それなら、もう少し削ってやるよ」
「戦いはこっちに任せろ!」
氷の剣を構えたハスフェル達三人は、こっちに向かって飛んでくるお空部隊の子達を見て揃って笑顔になり、頷き合ってからそのままあの子達の到着を待たずに降下していった。ベリーとカリディアも一緒だ。
フランマは、また俺の護衛兼氷の盾を出す指示役だ。
「ええ、いくら俺の従魔達が強いって言っても、あいつと戦うのは無茶だと思うぞ」
従魔達の中では最強を誇るセーブルであっても、あのデカいアサルトドラゴンの亜種の前では小さいし互角に戦うのは絶対に無理だと思うぞ。
「ご無事ですかご主人!」
ファルコが大きく羽ばたいて俺のすぐ側まで来てくれる。
ううん、空中で巨大化したファルコと正面から見つめ合える日が来ようとはね。
若干現実逃避気味にそんな事を考えていると、お空部隊の子達がゆっくりと旋回しながら降下し始めたのだ。
「待てって! 今降りると危険だから駄目だって!」
慌てた俺を見て、しかし従魔達は全員が揃って首を振った。
「攻撃はハスフェル様達にお任せします。我らは、あの馬鹿なアサルトドラゴンを叱りにきたんです」
「へ? 叱る?」
意味が分からず混乱する俺を見て、ファルコの背の上にいたマックスがワンと吠えた。
おお、今のはちょっと犬っぽかったぞ。
「まずは私が行きますね」
ファルコの背の上にはかなりいつもより小さくなったセーブルがいて、顔を上げたセーブルは何でもない事のようにそう言った。
「いや、いくらセーブルでも……」
「フランマ、ちょっとだけ手を貸してくださいね。さすがにこの距離をそのまま落ちると、私でも無事でいる自信はありませんので」
こっちを見て笑ったセーブルの言葉に、フランマも笑って頷く。
どうやら、フランマにはセーブルがしたい事がわかっているみたいだ。
「了解。ちなみに地面に降りる速さはどうする? ゆっくり? それとも速さは普通でいいかしら?」
「速さは普通でお願いします。巨大化すれば、それくらいは平気ですので。それではお願いします!」
一瞬で最大サイズにまで巨大化したセーブルは、何でもない事のように簡単にそう言うと、何とファルコの背から飛び降りたのだ。
「ええ、ここがどれだけの高度があると思ってるんだよ。無茶だって!」
慌てて追いかけようとしたが、当然のようにファルコとフランマに邪魔されてしまった。
どんどん落ちていく巨大なセーブルの姿が遠くなっていき割と本気で泣きそうになったが、セーブルは何と地面にそのまま降り立ったのだ。
成る程。今のはフランマが飛行術の応用でセーブルを守ってくれたわけか。
俺を見てドヤ顔になっているフランマを、俺は笑って撫でてやったのだった。
ハスフェル達は、その間も氷のドームから出てきたアサルトドラゴンをガンガン攻めまくっていて、時には返り討ちにあって弾き飛ばされていたりもするが、さっきのハスフェルみたいな大怪我はしていないみたいだ。
今のところ、何故か炎を噴き出す様子はないので俺の出番は無しだ。
ちなみに何度か氷で口を封じようとしてみたんだが、首をブンブンと振り回されてしまい成功していない。
これに関しては、もう完全に警戒モードになっているみたいだ。
「ハスフェル様方、下がってください!」
戦いの様子を見る為にさっきよりも少し降下していた俺の耳に、地面に降り立ったセーブルの大声が聞こえた。
即座にアサルトドラゴンから距離を取って下がる三人。
それを見たセーブルは、何とものすごい勢いで駆け出しそのままアサルトドラゴンの胸元に体当たりを喰らわせたのだ。
その力は予想以上だったらしく、大きく体がブレて長い首が反動で大きくのけ反る。
その瞬間、今度はもの凄い勢いでセーブルが跳ねた。
文字通り、真上へ。
ガコン! ってこれまたもの凄い音がして、見事にアサルトドラゴンののけ反った顎の下にまたしても体当たりを喰らわせるセーブル。
アッパーを決められて、さすがのアサルトドラゴンも勢い余って大きく体勢を崩してそのままひっくり返った。
しかも脳震盪を起こしたみたいで、完全に目を回していて首がぐらぐらと揺れていてすぐには起き上がってこない。
「この大馬鹿者が!」
またしてもセーブルの大声が聞こえて、思わず目を見開く俺達。
「な、何だと……?」
まだダメージから完全には復活していないみたいだけど、何とか顔を上げたアサルトドラゴンが思いっきり不審そうにそう言ってセーブルを見る。
「我を侮辱するか」
「大馬鹿者に大馬鹿者と言ったまでの事。それを侮辱とは片腹痛い」
煽り散らかすセーブルの言葉に、大きく口を開けるアサルトドラゴン。
慌てて氷の盾を作ろうとしたその時、何と今度はマックスとビアンカ、それからニニとカッツェとマニの五匹がいつの間にか降下してきていたお空部隊の子達の背から飛び降り、揃ってアサルトドラゴンの頭の上に飛びかかった。
さすがに五匹に飛び乗られては堪えきれなかったらしく、口は閉じマックス達ごと頭が大きく揺らいで地面に倒れ込む。
「凍れ! 凍れ! 凍れ!」
即座にマックス達が離れたのを見て、俺は急いでアサルトドラゴンの口をまた氷でガッチガチに凍らせてやった。
それから今なら出来るかと思い、奴の体の下半分も両脚と尻尾ごと全部まとめてこれもガッチガチに凍らせてやった。
これで奴の攻撃はあらかた封じたはずだから、力技で氷を砕かれるにしても、少しくらいは時間稼ぎが出来るだろう。
すると、それを見た他の従魔達も最大サイズになって次々にお空部隊の子達の背の上から地面に飛び降りていった。
「この馬鹿者が!」
地面に降り立った従魔達の口から、一斉にさっきのセーブルと同じ言葉が放たれる。
馬鹿だと何度も言われて不満なのだろう。
嫌そうに大きな唸り声を上げたアサルトドラゴンが、首をもたげてまた自分の凍った顔を地面に叩きつけようとする。
しかし、それを見たお空部隊の子達が巨大化したままで次々にその頭や目を狙って急速降下して左右から攻撃し始めた。
それと同時に、地面にいた従魔達もアサルトドラゴンの体や尻尾の上側に飛びかかり、ところかまわず噛み付いたり引っ掻いたりし始めた。
しかし当然だが硬い鱗に阻まれて、致命傷どころかどの攻撃もかすり傷程度にしかなっていない。
従魔達は、それでも何度も何度も攻撃しては、この馬鹿者が! と、怒鳴り続けている。
もう、俺達はどうしたらいいのか分からずに、そんな従魔達を少し離れたところからただただ呆然と見つめていたのだった。