復活
「うげえ! 切り落とした翼って再生するのかよ!」
地面に落ちたアサルトドラゴンだったが、むくりと起き上がって片方だけになった翼を開く。
その時、切り落としたはずの翼の根元部分から、骨のような物が再生し始めているのを見て思わずドン引く。
確かハスフェルから、手や足を落としたら万能薬でも再生しないって聞いた覚えがあったんだけど? ジェムモンスターはそれも再生するのかよ!
呆然と見ていると、みるみるうちに翼が再生していき、あっという間に元通りになってしまった。
しかし、何故か飛びあがろうとはしない。
「もの凄い再生力だな。だが、手足とは違ってさすがにすぐに飛べるほどには回復しなかったと見える。オンハルト、攻撃するなら今のうちだ!」
「おうさ! ケンは可能ならもう一度あの口を封じてくれ。だが無理はするなよ!」
氷の剣を取り出したギイとオンハルトの爺さんがそう言い、そのまま一気に降下していく。
「ええ、口の氷って……ああ、無くなってる!」
オンハルトの爺さんの言葉に驚いてアサルトドラゴンを確認すると、どうやら落ちた時の衝撃で口を塞いでいた氷まで一緒に砕けてしまったらしい。
自分に向かって降下してくる二人を見て口を開きそうになったアサルトドラゴンを見て、俺はもう一度奴の口を一瞬でガッチガチに凍らせてやった。
見える範囲なら、俺はどこでも瞬時に凍らせられるからな。
一応、さっきよりもさらに大きな氷の塊にしたので、なかなかシュールな見かけになったぞ。
またしても口を凍らされてしまい思いっきり嫌そうな唸り声を上げたアサルトドラゴンは、なんと首を振り上げて自分の顔を氷ごと地面に叩きつけた。
その隙にギイとオンハルトの爺さんが左右に分かれて本体を攻撃するも、硬い鱗に阻まれているらしく、どれもたいした傷にはなっていないみたいだ。
それでも何度も同じ箇所を素早く攻撃しているみたいで、二人の攻撃で鱗が弾け飛ぶ様子も見えた。
だが、致命傷には程遠い。奴にとってはかすり傷程度にしかなっていないだろう。
そんな攻撃でも鬱陶しい事には違いないらしく、アサルトドラゴンは、ちまちまとした二人の攻撃に嫌そうな唸り声を上げては翼や脚を振り回して、自分に近付く彼らを牽制していた。
そして地面に叩きつけても一度では割れなかった俺の氷だったが、もう一度さらなる勢いで叩きつけられたところでヒビが入り、慌てて追加で凍らせたが間に合わず、次の一撃で粉々になって砕けてしまった。
ちなみに、地面に叩きつけた拍子にアサルトドラゴンの鼻先の辺りの鱗が少し剥がれたが、怪我と言ってもその程度だ。
「凍れ!」
もう一度口を凝らせようとしたが、何とその瞬間にアサルトドラゴンは首を大きく振り回して凍るのを避けたのだ。
「うええ、何だよそれ! もう一回凍れ! ああ、出ろ出ろ出ろ出ろ!」
もう一回口元を凍らせようとしたが間に合わず、炎が噴き出すのを見て咄嗟にギイとオンハルトの爺さんの前ではなく、アサルトドラゴンを覆うようにして地面にドーム状の氷を作り出した。
とりあえず、左右に分かれていた二人が即座に上空に逃げる。
「こっちの攻撃も届かなくなったが、あれも時間稼ぎにはなるな。今なら万能薬を使える」
俺のすぐ側まで上がってきた二人は確かに傷だらけだ。苦笑いしながらそう言って二人が万能薬を飲み干す。
貴重だなんて言っていられない。今は遠慮なくバンバン使いまくっているよ。
「すまん。ちょっとまともに喰らってしまった」
その時、ベリーと一緒に回復したらしいハスフェルが上がってきた。
左肩の辺りが大きく破けて装備の一部も無くなっている。あそこをやられた訳か。
「大丈夫か!」
俺達三人の声が揃う。
「ああ、ベリーに何度も高位の癒しの術をかけてもらったおかげで、失った分の血も再生したよ。おかげで完全回復だ」
笑ったハスフェルの声は確かに元気でハリのあるいつもの声だし、顔色もいつも通りだ。
確かに万能薬では失った血までは回復しないし、ハスフェルの持つ癒しの術でも同じだったはずだ。
でも、ベリーの使う回復魔法は、重ね掛けすればそこまで再生出来るんだ。スゲー。
「それで、今どういう状況だ?」
遥か遠くの地面に氷のドームがあるのを見て、若干不思議そうな顔でハスフェルがそう質問する。
「ええと、二人がアサルトドラゴンの翼を片方切り落として地面に叩き落としたんだ。でも、何だかすっげえ勢いで回復して、何と切り落としたはずの翼が復活したんだ。でも、まだ飛ぶ事は出来ないみたいだ。で、二人がその隙に攻撃していたんだけど、炎を吹きそうになったから咄嗟に防いでああなったわけ」
密閉状態のドームの中で炎をバンバンと吹き出しているから、窒息とかしないかなあ、なんて考えつつ説明をしていると、バリンと大きな音を立てて氷のドームの上部が崩れ落ちた。
どうやら中からの熱に氷のドームも耐えきれなかったみたいだ。
「じゃあ、ハスフェルも復活した事だしもうちょい削るか」
ギイの言葉にハスフェルとオンハルトの爺さんも頷き、即座に三人の手に氷の剣が現れる。
頷きあった三人が降下しようとした瞬間、いつの間にかいなくなっていたシャムエル様が俺達の目の前にズサーって感じに滑り込んできた。
「危ないって!」
慌てて咄嗟に両手で受け止めてやる。
「連れてきたよ!」
「へ? 誰を?」
ドヤ顔のシャムエル様の言葉に、思わずそう聞き返す。
「従魔達を全員連れてきました! あ、スライムちゃん達は危険だからケンの鞄の中に避難ね〜〜!」
「はあい! よろしくお願いしま〜〜す!」
驚く俺に構わず、シャムエル様が俺の鞄の口を開く。
元気な声の後に、シャムエル様の体に張り付いていたらしいそれぞれ合成して翼持ちになったスライム達が一斉に羽ばたいて空中に現れ、すぐに俺の鞄の中へ次々に飛び込んで行った。
「ええと……」
慌てて周囲を見回すと、最大サイズに巨大化したお空部隊の子達がこっちへ向かって飛んでくるのが見えて俺達は揃って驚きの声を上げたのだった。
だって、巨大化したお空部隊の子達の背中の上には、スライムの助け無しに自力でしがみついている従魔達全員の姿があったんだからさ。