裏の事情
「お待たせ〜〜〜!」
その時、空中ではあるが俺の目の前にズサーって感じに滑り込んできたシャムエル様が現れ、慌てて両手で受け取るみたいにして支えた。
「ああ、ありがとうね。ええとね、色々分かったよ!」
俺の手の上に座ったシャムエル様の言葉に、全員が真顔になる。
「まず、あのアサルトドラゴンなんだけど、実はすっごく中途半端な状態になっているんだよね」
「「「「中途半端?」」」」
俺達全員の声が揃う。
「そう、中途半端。あのアサルトドラゴンが言っていたでしょう? 自分をテイムしに来た魔獣使いがいたって」
「ああ、そう言っていたな。一度はあいつを確保したって」
「そう。その魔獣使いは地脈が整った後にテイマーから順調に魔獣使いになった冒険者の人でね。元はパーティーを組んでいたんだけど、そのパーティーの仲間達が動物嫌いだったらしくて、彼がテイマーになった後に話し合いの結果パーティーは解散してソロの冒険者になったみたい」
「あらら。でもまあ仲間が動物嫌いなら、テイマーや魔獣使いは確かにそのパーティーにい辛くなりそうだな」
「でも、かなりの強い力を持った魔獣使いだったみたい。そうだねえ。例えるならリナさんやアーケル君達くらいかな。それでソロで活動しているうちにケンの噂を聞いたらしくてね。絶対に自分の方が魔獣使いの能力は上だって思ったみたい。負けず嫌いだったのかな。それで、ケンの今の従魔がどれくらいいるかを春になって行ったバイゼンの冒険者ギルドで聞いて、ケンがテイムしていないくらいに強い魔獣かジェムモンスターをテイムしようと思ったらしいんだ」
「で、まさかとは思うが、行ったのがアサルトドラゴンの生息地?」
「そのまさか。実は以前ハスフェルがアサルトドラゴンを倒した時、その存在を見かけた冒険者達が何人かいたらしいんだ。それで一部地域では噂になっていたんだって。アサルトドラゴンを倒した冒険者がいるってね。で、その噂も聞きつけたその魔獣使いの冒険者の彼は、アサルトドラゴンならいいだろうって安易に考えたみたいだね」
ため息を吐いたシャムエル様は、困ったように俺を見た。
「翼を持つ従魔に調べさせて、アサルトドラゴンの生息地を発見。とある筋から特別に強い毒を手に入れてその生息地へ向かった。でも結果的には返り討ちにあって従魔達ごと全滅したわけなんだけどさあ……」
まあ、その話も当のアサルトドラゴンから聞いていたから、俺達は顔を見合わせて揃ってため息を吐いた。
どう考えても、ご主人の承認欲求を満たすためだけに無茶をして、結果として巻き込まれた従魔達が哀れでならないよ。
「で、その中途半端ってのは一体何がどうなったわけだ?」
真顔のハスフェルの質問に、もう一度大きなため息を吐いたシャムエル様が地面を見下ろす。
当然そこにはこっちを睨みつけているアサルトドラゴンがいるわけだが、何故か傷が癒える様子が全くない。ジェムモンスターって、確かもっと早く怪我は回復していなかったっけ?
「あ、今ちょっと裏から小細工をして回復を遅らせているから、まだ全快するまでにはしばらく時間がかかるからね」
俺の考えている事なんてお見通しのシャムエル様の説明に、納得して頷く。
「それで、確保していた当の魔獣使いが死んだ時点で、本来なら確保から解放されるから全部忘れて元のようにただ存在するだけのジェムモンスターに戻るはずだった。でも、あいつはそうならなかった」
下を見下ろしたままそう言うシャムエル様の言葉を聞いて、揃って首を傾げる俺達。
「死んだ魔獣使いは、本人が自分が最強だと自惚れるのも当然なくらいに確かに相当有能ではあったみたいだね。アサルトドラゴンを確保した直後に無理やりテイムを試みていて、確かに一時的にではあるけどなんとかギリギリでテイム出来ていたんだ。まあ、テイムって言うよりもテイムもどきってレベルだったんだけどね。そもそもアサルトドラゴン自体、正直言ってケンでもテイムするのはちょっと無理だって思うくらいに強い存在なんだ。で、そのテイムもどきが偶然とはいえ成立していて、でもアサルトドラゴンの方は、自分がもどきとはいえ一度はテイムされたって自覚が全く無い状態になっているんだ。セーブルとは全く真逆だけど、状況としては似たような感じ。つまりテイムされたのにテイムされた事自体に気がついていないから、それからの解放もされていないわけ。ちょっとこんな事例は私も初めてだね。一応、裏から解放出来ないかやってみたんだけど上手くいかなかったの。なんとか説得出来れば、ケンなら頑張ればテイム出来るかもしれないんだけど……勧めはしない。正直言って、セーブルの時より無茶だと思うからさ」
またため息を吐いたシャムエル様の言葉に、本気で気が遠くなった俺だったよ。
ナニソレ。
単なる俺への対抗心でそんな無茶をして、当の本人は呆気なく死んでしまい、結局その尻拭いを俺達がするわけ?
ハスフェルと顔を見合わせた俺は、さっきのシャムエル様に負けないくらいの大きなため息を吐いたのだった。
マジでどうするんだよ、この後始末!