アサルトドラゴンの事情?
「どういう事だ? あれは間違いなくジェムモンスターだよな?」
真顔で首を傾げるハスフェルの呟きに、こちらも真顔になったベリーが頷く。
「ええ、ジェムの反応がありますから間違いなくジェムモンスターのアサルトドラゴンの亜種です。それ以上でもそれ以下でもありません」
「ジェムの反応?」
初めて聞く言葉に思わず反応してしまう。
「ああ、ケンはご存知ありませんでしたか。探知の術の応用で鑑定という方法がありまして、目の前の相手の強さや種族などが、その鑑定である程度ですが分かるんですよ。その際に鑑定する相手の中にジェムがあれば、その術に対して特別な反応が返ってくるんです。それはつまり、体内に核となるジェムを持っているという事ですから、それで、まずその相手がジェムモンスターだと分かるんです」
「成る程。それであのアサルトドラゴンが間違いなくジェムモンスターだって事が分かったわけか……じゃあ、どうしてその、亜種とはいえただのジェムモンスターにあれだけの知能があるんだ? ただ生きているだけのジェムモンスターにはそんな知能はないよな?」
考えられるとしたら、セーブルやヤミーみたいな主人に先立たれた元従魔くらいだけど、忌々しい人間どもめ。なんて言う奴が、もれなくご主人が大好きな元従魔だとは思えない。
訳が分からなくて困っていると、地面からこっちを睨みつけていたアサルトドラゴンがゆっくりと口を開いた。
また炎のブレスが来るのかと思って慌てて氷の盾を用意しようとした時、またあいつの声が聞こえてきた。
「どうして言葉が分かるのかだと? 簡単な事だ」
面白がるかのようなその言葉に、俺は真顔になってアサルトドラゴンを見下ろす。
「我をテイムしようとした愚かな人間がいたからだよ」
まるで嘲るようなその言い方が引っかかって、その意味を考えて目を見開く。
「テイムしようとした? つまり、お前は誰かにテイムされたわけじゃあないのか?」
予想外の言葉に、思わずそう聞き返す。それを聞いて、ハスフェル達が驚いた顔で俺を見ているけど、とりあえずそっちよりアサルトドラゴンの話を聞くのが先だ。
「少し前に、我の寝床に侵入して来た馬鹿な人間がいた。しかも、いきなり体が痺れる術を使って攻撃してきて、一時とはいえ我の動きを止めたのだ。その瞬間に何故か頭の中が不意に明瞭になり、我はテイムされる事の意味を理解した」
それってつまり、毒か、あるいは電撃系みたいな術を使ってこいつの動きを一時的にとはいえ制限して確保したって事だよな。それはまた凄い術者の魔獣使いがいたんだな。
一瞬、リナさん一家かあるいは俺の知り合いの魔獣使い達の顔を思い出したけど、別れてからの時間を考えて、その可能性は限りなく低そうだと思い安堵したよ。
「それで、その魔獣使いにテイムされたのか」
とりあえず会話出来る理由が分かって納得した俺がそう言うと、アサルトドラゴンは俺を見てまるで馬鹿にするかのように鼻で笑った。
「我を人間ごときがテイム出来る訳がなかろう。体は動かずとも息は出来たからな。炎のブレスで他の従魔もろとも骨まで焼き尽くしてやったわ」
驚きに目を見開く俺に向かって大きく口を開けたアサルトドラゴンが、唐突に炎のブレスを噴き出した。
「ご主人ブレスが来るわ!」
「出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ!」
それを見た瞬間フランマの叫ぶ声が聞こえ、俺はもう必死になってそう叫んで足元に大きな氷の盾を何重にも展開した。
離れていたハスフェル達とベリー達が一瞬で俺の周囲に集まる。おかげで、氷の盾の大きさは最低限で済んだのでその分厚みに変換出来たよ。
「出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ!」
みるみる溶けていく氷の盾に、俺は必死になって重ねがけをした。
息が途切れたらしくようやく炎が来なくなったところで、俺達は一気に高度を上げて炎の届かないくらいの高度まで逃げた。
「今のお前の言葉を聞いたが、あのアサルトドラゴンは元従魔なのか?」
真顔のハスフェルはちょっと怖い。
そんな事を現実逃避で考えつつ、一応足元に氷の盾を五重に重ねて展開してから俺は首を振った。
「いや、ちょっと違う。寝込みを襲われて一旦確保はされたものの、その魔獣使いを他の従魔ごと返り討ちにしたらしい。炎のブレスで骨も残らず焼き尽くしたって……」
俺の説明に、全員が驚きの表情になる。
「つまり、その魔獣使いを返り討ちにした事で、テイムはされずに知能は上がった状態のままになったと? シャムエル。そんな事が可能なのか?」
「ううん、有り得ないけどねえ。その場合は、確保していた魔獣使いが死んだ時点で、上がっていた知能は元に戻るはずなんだけどなあ。どうしてこんな事になったんだ?」
ちっこい腕を組んだシャムエル様が。俺の右肩に座って考え込んでいる。
「ちょっと見てくるから、ここで待っていてね」
俺を見てそう言ったシャムエル様は、言葉の通りに唐突に消えてしまった。
「シャムエル様が調べに行ってくれたみたいだから、とりあえずここで待ってくれってさ」
「了解だ」
応えるハスフェル達と共に、無言でアサルトドラゴンを見下ろす。
一応、遠くではあるが地面に落ちたアサルトドラゴンの様子はここからでも見えていて、奴はこっちを見上げたまま地面に座っているだけで動きはない。
「おい、まずいぞ! 翼の怪我がどんどん治っていっている! しかも、突き刺したはずの剣が抜けているぞ!」
その時、ギイがいきなりそう叫んで氷の剣を一瞬で取り出した。
「オンハルト! もう一度行くぞ!」
「おうさ!」
その声に応えたオンハルトの爺さんまで、氷の剣を取り出すのを見て俺は慌てて叫んだ。
「いや待てって! さっきはフランマが気を逸らしてくれたから不意打ちで成功したけど、あいつは今こっちをガン見しているんだから、降下したら間違いなくブレスにやられるって! 仮に俺が氷の盾で防御したとしても、それなら逆に地面に降りた時に氷の盾が邪魔で攻撃出来ないぞ!」
俺の必死の叫びに、一瞬降下しかけた二人が止まってくれた。
「ううん。しかしそうなると、奴が翼の傷を癒して上がってくるのは時間の問題だぞ」
ギイの言葉に俺も地面を見下ろす。
確かに、広げたままだった翼がゆっくりと畳まれている。ジェムモンスターはジェムさえ無事なら傷が癒えるのは早いからな。
「シャムエル様が戻ってくる前に全回復されたら、絶対また闘いになるよな。ええ、マジでどうするんだよ、これ」
そう呟いて、割と本気で気が遠くなった俺だったよ。
いやマジで、本当にどうすればいいんだ?