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留守番しながら料理の仕込み

 久々の一人の昼食は、どうやらあまり人気のないらしいベーグルサンドを、少しだけ残っていた最後のクリームシチューと一緒に食べた。

「美味しいと思うんだけど、ベーグルサンドだけほぼ買った時の数で残ってるんだ。そう言えばあいつらも、ベーグルサンドは、出して並べてても取ったのを見た事がないな」

 そう呟いて、最後のひとかけらを口に放り込んでしっかりと噛む。

「クーヘンだけじゃなく、ハスフェル達もベーグルはお口に合わないみたいだな。まあ良いや。だったらベーグルサンドは、俺専用って事にしよう」

 机の上で、こっちが良いと言われて取り分けてやった、クリームシチューに頭を突っ込んで食べているシャムエル様を見て、頷いた俺は最後のコーヒーを飲み干した。

「これで、コーヒーの在庫も無くなったし……さてと、何からやるかね」

 机の上を片付けて、考える事しばし。

「よし、まずは一番人気のトンカツと、チーズ入りトンカツを作るか。あ、じゃあ今回はビーフカツも作っておこう。それなら、牛のモモ肉の塊が山ほどあるからそれを使えばいいな」

 頭の中で段取りを決めると、まずはトンカツ作りの準備からだ。



「サクラ、食パンの使いかけってあるか?」

「あるよ。これだね」

 二斤分はありそうなそれを渡されて、少し考える。

「なあ、これを細かくする事って出来るか?」

 俺の質問に、アクアとサクラが並んで伸び上がる。多分、考えてるっぽい。

「ええと、どんな風にするの?」

「以前、俺が刻んだパンを炒ってから、細かく砕いたのをパン粉って呼んでたのを覚えてるか? このままの柔らかさで、あれぐらいの細かさになれば最高なんだけどな」

 食パンの塊を指差しながら言うと、納得したのか、サクラが置いてあった食パンを飲み込む。

「ええと、こんな感じで良い?」

 しばらくモニョモニョと動いていたのだが、いきなり横に置いた大きなお椀に大量のパン粉を吐き出したのだ。

 おお、ふわふわで完璧に生パン粉じゃん。よし、生パン粉もゲットしました!


「それじゃあまずは、トンカツを作るぞ。サクラ、豚肉のロース肉とそれからヒレ肉を出してくれるか」

 そう言えば、肉の部位の名前って、俺が知ってるのとは絶対違うと思ってたんだけど、意外な事にほぼ同じでした。

 今までは、現物を見てこれをくれとかって言ってたけど、あのセレブ買いの時に色々教えてもらった結果、ほぼ俺の知識で通用する事がわかった。



「それじゃあ、これをトンカツ用に切ってくれるか。こっちはチーズを挟むから少し薄切りでお願いします」

 出してくれた豚肉を見せてそれぞれ頼むと、元気に返事をした二匹が、手分けして大量の豚肉の塊を、あっと言う間にスライスしてくれる。積み上がった豚肉を広げて全体にいつものスパイスを振り、小麦粉をまぶしていく。

「あ、お前らは今日は狩りに行かなくて良いのか?」

 振り返って尋ねると、巨大化して好き勝手にそこらに転がってた猫族軍団が顔を上げた。

「たっぷり食べたからお腹いっぱいだよー」

「ねー」

 ソレイユとフォールの返事に、他の子達も揃って頷いている。マックス達も頷いているので、本当に大丈夫みたいだ。

「そっか。じゃあ、お前らは今日は休憩だな。まあ、好きに寛いでてくれよ」

 笑って、出してあった在庫からモッツァレラチーズの塊を取る。

「じゃあ、これも薄切りでお願いします」

「はあい、ちょっと待ってね」

 待ち構えていたサクラがぺろっと飲み込んで、綺麗なスライスチーズにしてくれた。

 薄切りの肉の間に挟んで、これにもスパイスを振る。それが終われば、トレーを並べて小麦粉をまぶしていく。



「アクア、そこの卵を十個、このお椀に割っておいてくれるか」

「はあい。これだね」

 俺の頼みに返事をしたアクアが、横に置いたお椀に、触手を使って器用に卵を割ってくれる。

「しかし器用なもんだな。あれを俺がやると、高確率で殻が入って危険なんだよな」

 感心したように呟いて笑った。そう、俺は地味に生卵を割るのが苦手なのだ。

 毎回ってわけじゃないんだけど。かなりの高確率で殻が落ちる。本当にあれはどうしてなんだろうな?


 割ってもらった卵をお箸で混ぜる。

 そう、あのセレブ買いで大量購入した中には、お箸も含まれていたのだ。

 普段使い用と料理用とで、大小各サイズをまとめ買いしたよ。

「料理の仕込みは、お箸があるとやっぱり便利だよな」

 そう呟きながら、溶き卵にくぐらせた豚肉を、大きなトレーに敷き詰めたパン粉に乗せていく。

 その横には、オリーブオイルを入れた大きなフライパンが火にかけられている。

「さあ、どんどん揚げていきますよっと」

 どうにも独り言が止まらないが、まあ仕方あるまい。

 手早く流れ作業でどんどんトンカツを揚げていく。


「トンカツ1、2、3……それから、こっちがチーズ入りトンカツ1、2、3……」

 サクラが油の切れたトンカツとチーズ入りトンカツを、数えながらせっせとお皿ごと飲み込んでいく。

 トンカツの大量仕込みが終われば、そのままビーフカツに突入だ。

 手順は同じなので、鼻歌交じりに慣れた作業をこなす。

「自分で作って言うのもなんだが、凄い量だよな。定食屋でバイトしていた時でも、こんなには作らなかったぞ」

 大量に出来上がるビーフカツの山を見て、思わずそんな呟きも出るってもんだ。

「本当にあいつらの食う量はおかしいよ。でも、クーヘンもよく食うから、もしかしてこっちの世界の人は皆大食いなのかね?」

「さあどうだろうね。でもまあ、ハスフェルとギイは、間違いなくよく食べると思うよ」

 突然聞こえた声に、俺は驚いて右肩を見た。

「いないと思ったら、そこにいたのか」

「だって、机の上にいるとお料理の邪魔になるでしょう。それに、ちょっと街の様子を見に行ってたの。君達がいなくなったって言って、皆大騒ぎしてたよ」

「あはは、そりゃあ、出走予定の奴が急にいなくなったら驚きもするか」

 苦笑いする俺に、シャムエル様も笑っている。

「ギルドマスターが、所用で出掛けただけだから、祭りまでには戻って来るって言ってたよ。まあ、噂はすぐに広まるだろうから、心配しなくて良いって」

「後始末を丸投げで申し訳ないけど、祭りの直前まで、街には近づかないようにするよ」

「まあ、なんとかなるって」

「だな、せっかくだから、祭りは楽しみたいぞ」


 シャムエル様と喋りながら、俺は次の鶏肉の仕込みをしていた。

 まずはチキンカツと鶏肉のバター焼き、それからゆで鶏も作る事にした。

 先に、鳥のムネ肉に砂糖と塩とお酒を振って、しっかり揉み込んで置いておく。

「あ、暑い時期だから冷やしておいたほうがいいな」

 ちょっと考えて、砕いた氷を大きな鍋に大量に入れて、その上に陶器のお皿に並べた鶏肉を置いて、蓋をしておいた。蓋の上に塊の氷を乗せておけば、即席の冷蔵庫の完成だ。

「あ、そっか。氷は自力で調達出来るんだから、あの氷で冷やす冷蔵庫を仕込み用に一つ買ってもいいな」

 今みたいに、一旦冷蔵庫で寝かせておくようなレシピもある、それは中々いい考えに思えた。

「しかし、冷蔵庫まで持ち歩くって、考えたら凄え世界だな」

 思わずそう呟いて小さく吹き出した。



 チキンカツを仕上げた後、コンロとフライパン総動員で、一気に鶏肉を焼いていく。

 少し考えて、バター焼きと塩焼きの二種類を作っておいた。

「BLTサンドとクラブハウスサンドも好評だったから、後であれも作っておこう」

 それが終わったら、深めの鍋にお湯を沸かして、仕込んでおいたゆで鶏を作る。

 これは簡単だ。鶏肉に味はもう付けてあるから、弱火で茹でて火を通せば完成だ。

「一時期、こればっか食ってたもんな。まあ美味いから良いけど、あいつらはこれだと物足りないって言いそうだ」

 熱々でも、冷めても美味しいので、半分は熱々のままサクラに渡し、残りの半分は、冷ましておくことにした。

 気が付けばもう辺りは赤く染まり始めている。

「サクラ、ランタン出してくれるか」

 慌てて、追加で買った合計三つのランタンとライターを取り出して順番に火をつける。

 机の上と、テントの梁にある左右のフックにも吊り下げておけば昼間みたいに明るくなるから安心だ。

「あいつら、まだ帰ってこないな。だけどもう、今日の仕込みはこれくらいにしておこう」

 もう使えない油や汚れた小麦粉なんかも、全部スライム達が綺麗にしてくれるし、野菜屑は、全部草食チームが喜んで平らげてくれるので、これだけ大量に料理をしてもゴミが一切出ない。

 これも、考えたら凄いよな。

 サクラとアクアを撫でてやり、ひとまず使わない調理道具を片付けていった。




「おおい、戻ったぞ」

「おお、なんだか良い匂いがするぞ」

「ああ、おかえり」

 二人の声がして振り返った時、俺は見えた光景が信じられずに、思わず二度見どころか三度見したよ。


 そう。ベースキャンプに戻って来たのは、ハスフェルとギイの二人だけでは無かった。


 彼らの後ろから、こっちを見ているのは全部で五人。

 はっきり言って、絶対全員神様だろう! って、即座に解るレベルに只者じゃないオーラがダダ漏れでした。



 そう言えば言ってたね……お仲間に声を掛けたって……。

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