まさかの会話と落ちたアサルトドラゴン
「ひええ〜〜〜〜〜!」
背後に迫る羽ばたく音を聞き、俺はもう必死になって飛んで逃げた。
もう、某大人気アニメの◯イヤ人レベルの加速っぷりだったぞ。
だけど背後の羽ばたく音は全く離れない。それどころかすぐ近くで鼻息のようなものまでも聞こえて来て、割と本気で泣きそうになった。
「こいつが氷の盾を作っていた人間か。ならば真っ先に倒さねばならぬのはこいつだな」
そして背後から聞こえたとんでもなく物騒な呟きに、俺は思わず反応して振り返った。
「待った待った! そんな物騒な作戦立てなくていいって! 俺は逃げるぞ!」
そう叫んでさらに加速する。もうスーパー◯イヤ人も真っ青レベルの加速っぷりだ。
「何だと? お前には我の声が聞こえるのか?」
俺の叫びに、まさかの反応。
「分かるよ! ってかどうして分かるのかなんて俺に聞くなよ!」
聞かれたところで俺に答えられるわけもないので、必死で逃げながら一応そう言い返しておく。
「ふむ、つまりお前は魔獣使いか」
感心したような声が聞こえて本気で驚く。やっぱりこいつは元従魔なんだろうか?
「お、おう。そうだよ。俺は魔獣使いだけど、それが何だって言うんだよ!」
振り返りつつ、咄嗟に俺の背後に氷の盾を作る。だって、なんかヤバい気がしたからだよ。
俺の判断は正しかった。
その瞬間にアサルトドラゴンがこっちに向かって炎を噴き出したのと、俺から離れたフランマが何か叫びながらアサルトドラゴンに向かっていくのと、もの凄い勢いですっ飛んできたハスフェルが衝突するみたいな勢いで俺を抱えてそのまま飛び去るのはほぼ同時だった。
「出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ〜〜〜!」
ハスフェルに抱えられるようにしてその場を離れた俺だったけど、即座に向きを変えてこっちに向かって更なる炎を噴き出すアサルトドラゴンの姿が見えて、俺はもう必死になってそう叫んだ。
フランマが俺を庇うみたいな位置で戦ってくれているが、恐らくお互いの攻撃が相殺されているみたいで少なくともアサルトドラゴンに攻撃が効いている様子は無い。
俺の叫びに応えるかのように次々に現れた氷の盾は、しかし次々に溶かされては出現するのを繰り返す。
次の瞬間、アサルトドラゴンの頭上から真っ直ぐに墜落する勢いで降下してきたギイが、手にしていた巨大な氷の剣をアサルトドラゴンの翼の付け根辺りに力一杯突き込んだのだ。
それと同時に、同じく墜落する勢いで降下してきたオンハルトの爺さんが、反対側の翼の付け根に同じように氷の剣をぶっ刺した。
成る程。フランマの無駄とも思える攻撃は、二人の存在を気取らせないための囮役か。
「ギエエ〜〜〜〜〜!」
恐らく悲鳴なのだろう。黒板に爪を立てたのと、金属を力一杯擦り合わせた時の音を百倍くらいにしたみたいな、とんでもなく不快な咆哮を上げて二人ごと墜落するアサルトドラゴン。
「おい! 大丈夫か!」
慌てて地面を見ると、剣を手放した二人がすごい勢いで上昇してきた。
「炎が来るぞ!」
「おうさ!」
オンハルトの爺さんの叫び声に俺が即座に応えて、足元に巨大な氷の盾を展開した。
「出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ!」
何度も叫び、氷の盾を重ねてかける。
何重もに重なった半透明な氷の盾越しに、それでも真っ赤な炎が見えて本気で血の気が引いたよ。
ガッチガチに凍らせた俺的に最強レベルの氷をあれだけ瞬時に溶かすなんて、マジでどんだけの温度なんだよ。
さらに重ねがけをしつつ必死になって上空に逃げる。
しばらくして、ようやく炎が届かなくなったらしく赤い色が俺の視界から消えた。
「あの亜種以外は駆逐完了だ」
「さて、どうやって奴にトドメを刺すかな」
側にやってきたギイとオンハルトの爺さんの言葉に納得する。
俺が例の亜種に追いかけられて逃げている時に助けに来てくれたのがハスフェルだけだったのは、残りのアサルトドラゴン達を倒してくれていたからなんだな。
でもって、ギリギリでハスフェルが俺を守ってくれたわけか。
「助けてくれてありがとうな。それにしても、翼を攻撃して飛べなくしたのは正解だったな」
地面に落ちてもがいていたアサルトドラゴンの亜種が起き上がったのを見てそう言うと、俺を抱えていたハスフェルが大きなため息を吐いて俺を離してくれた。
当然、飛行術が発動しているので落っこちる事なく空中に留まり、そのままハスフェルと並んで飛びながらその場で旋回する。
「あれとて時間稼ぎに過ぎん。すぐに回復するから攻撃を続けるぞ」
真顔のハスフェルの言葉に、俺はさっきの事を思い出して慌てた。
「なあ、ちょっとだけ待ってくれって。俺、あいつと普通に会話出来たんだよ!」
必死になってそう叫び、さっきのあのアサルトドラゴンとの会話を彼らに報告した。
「何だと? あれはただのデカいだけのジェムモンスターの亜種ではないのか?」
「分からないけど、少なくとも普通に会話が出来る程度の知能はあるのは間違いない。何しろ俺が氷の盾を作り出しているのに気付いていて、先に俺を倒すとか言っていたくらいだからさ!」
俺の言葉にハスフェル達だけでなく、来てくれたベリー達までもが揃って目を見開く。
俺達は、どうしたらいいのか分からなくなって、地面からこっちを攻撃する気満々な様子で睨みつけているアサルトドラゴンを無言で見下ろしたのだった。