ベリーの攻撃とその結果
「お見事! 是非とも次もこれでお願いします!」
思わず拍手をしながらそう言うと、揃ってこっちを振り返った三人は何故か揃って真顔で首を振った。
「このやり方が通用するのは、せいぜいが数匹程度だ。すぐに異変に気づかれる。アサルトドラゴンはそこまで馬鹿ではないからな」
ハスフェルにそう言われて納得する。
「あ、やっぱりそうなるのか。ってそりゃあそうだよな。狩りをするつもりで出ていったはずの仲間がいつまで経っても戻って来ず、同じように獲物を見つけて出て行った仲間達までが誰も戻って来なければ、そりゃあ警戒されるか」
そこまで言って、俺は重大な事実に気がついた。
「ええと、そうなると、次の手は?」
「弓と風の術による遠距離攻撃、と言いたいところだが、残念だがこちらは期待薄だな。成功してもせいぜいが減らせるのは一匹か二匹程度だ」
驚く俺を見て、ハスフェルが教えてくれた。
「アサルトドラゴンは火と風の術への耐性が異常に高い。水の術なら若干は効くがせいぜい弱らせる程度だし、土の術は、そもそも空を飛ぶ相手にはほぼ無意味だ」
「俺達の使う程度の風の術なら一撃で倒すのはほぼ不可能と思っていい。翼を少しでも傷つけて飛べなく出来れば大成功ってくらいだ。つまり術による攻撃自体ほぼ通用しないと思っていい。物理攻撃への耐性も異常に高いからな。一応、このあとベリーが最大威力で竜巻攻撃をしてくれるらしいから、これで数が減るのを期待するしかないな」
苦笑いするハスフェルの言葉に、マジで遠い目になる。
それって地下迷宮にいた時に、プテラノドンとかの翼竜を落とすのに使ったアレだよな……うええ、あの術でも駆逐出来ないって……アサルトドラゴン、どれだけ強いんだよ。
「だからこそ、弱点である氷の術を使った攻撃威力が高くなるのさ。お前が氷の攻撃魔法を知っていればもっとよかったんだが、シャムエルに確認したら、そっち方面はケンにはほぼ適性が無いので与えていないと言われてなあ」
すっごく残念そうにそう言われて、思わず謝る。
「ごめん。でも俺には攻撃適性が無いって言われても全く反論出来る気がしないよ。うん、色々残念だけど多分その通りだと思う」
いっそ開き直った俺の言葉に、三人はお前はそれでいいんだよと言って笑っていた。
確かに、バイゼンで岩食いとの戦いの際、吹き出してきた岩食いに向かってバンバン氷の固まりというかでっかい壁を何度もぶつけて爆散させていたけど、あれは俺的にはあくまでも防御の盾を投げつけて、投げつけたら爆発しちゃったって感じだったから、ハスフェル達やリナさん達なんかが普段戦っている時に使っている火や風、あるいは水の術による攻撃とは確かにちょっと根本的に違っていたと思う。
その後もカリディアが頑張ってくれて、結局三匹までは誘き出して倒す事が出来たが、ここで完全に警戒モードになられてしまい、誘き出し作戦はここまでになった。
『お待たせしました。準備が出来ましたので今から攻撃します。一応、皆様がいる方には結界を張って安全には配慮しますが、念の為あまり近寄らないようにしてくださいね』
この後はどうするかを思っていると、頭の中にトークルームが広がりベリーからの念話が届いた。
『よろしく頼む。残りは俺達で駆逐するから、遠慮なくやってくれ。ここなら周囲への影響は最小限だからな』
笑ったハスフェルの言葉に、ギイとオンハルトの爺さんも苦笑いしながら頷いている。
『ええ、では残りはお願いします。一応、周辺に大きな被害が出ない程度に攻撃力は抑えますので、この群れでは全滅は無理そうですからね』
こちらも苦笑いしたベリーの声が届き、もう一回遠い目になった俺だったよ。
アサルトドラゴン、マジでどれだけ頑丈で強いんだって。
『ではいきます!』
ベリーの力の入った声の直後、アサルトドラゴンの群れのいた場所に、唐突に巨大な竜巻が現れた。冗談抜きで雲まで届いてるよ。
一瞬で巻き上げられて、空中を文字通りぐるぐると振り回されたアサルトドラゴン達が吹き飛ばされて地面に落ちてくる。
「行くぞ!」
それを見たハスフェル達三人が一気に散り、落ちたアサルトドラゴンにトドメを刺しに行った。もちろん手にしているのは俺が作った氷の剣だ。
「ええと俺は……」
「ご主人はこのままここで待機していて! 生き残り達が我に返る前に、落ちた奴らにトドメを刺さないと駄目なの!」
キョロキョロと周りを見て、とりあえず俺も降りようかと地面を見て降下しかけたところでフランマに強い口調でそう言われて、慌てて急上昇して元の高さに戻った。
「了解! 勝手な事はしません!」
すごい速さで飛び回るハスフェル達を高い位置から見下ろしつつ、なぜかもう一回さっきよりは小さいがそれでも空まで届かんばかりの巨大な竜巻が出現するのを見て、フランマと共に慌てて移動して竜巻から離れた俺だったよ。
いや、マジで見ているだけで、自分が何をしたらいいのか分からない状況って結構なストレスだよ。
落ちたアサルトドラゴンの駆逐が完了したらしく、怪我もなく、俺の出番もなく飛んで戻ってくる三人を見て、密かに安堵のため息を吐いた俺だったよ。
「まだ安心するには早いですよ! あの亜種には全くと言っていいほど攻撃の術が効いていません!」
焦ったようなベリーの叫ぶ声がリアルに聞こえて、俺達は揃って飛び上がった。
「マジかよ!」
悲鳴のような情けない声でそう叫んだ俺だったが、ハスフェル達は全く笑わない。
真顔で、まだ噴き上げている竜巻を見る。
「気をつけてください! 奴はあなた達に気が付いています!」
ベリーからの悲鳴のような声の警告に、俺達は揃って思いっきり現場から離れた。
竜巻が霧散するのと、吹き出した炎がオンハルトの爺さんに襲いかかるのはほぼ同時だった。
「氷の盾出ろ!」
俺の叫びと同時に、吹き出す炎の前に巨大な氷の盾が出現して飛んで逃げるオンハルトの爺さんを守る。
「出ろ! 出ろ! 出ろ!」
しかしもの凄い炎の攻撃にみるみる溶け始めた氷の盾を見て、俺は慌てて更に三重に重ねて出し、更にはオンハルトの爺さんの前にはほぼ透明な氷の壁を作って守る。透明にしたのは、状況判断しやすくするためだ。
それでもどんどん溶けていく四重になった氷の盾を見て、冗談抜きで足が震えた俺だったよ。