アサルトドラゴンとの戦闘開始!
「まずは、襲われたのだという村の様子を先に見に行くぞ」
かなりの速さで飛び続けた俺達は、ハスフェルの言葉に揃って頷いた。
ベリーの案内で到着した森を抜けた先にあった開けた場所の上空で止まったんだけど、眼下に広がるそのとんでもない光景に俺達は揃って絶句する事になった。
ここがその被害にあった開拓民の村があった場所らしいが、もう、とにかく何もかもが焼け焦げて真っ黒になっているだけで、無事な建物は一つも無くなっていた。
近隣の街から来たと思われる軍の兵士らしき揃いの制服を着た人達が、瓦礫の山を手にした槍のようなもので崩している。
「あれ、ベリーが知らせたのか?」
襲われたのは早朝だと聞いていたのでそう尋ねると、真顔のベリーが小さく頷いた。
「私も被害を知ったのは、森林エルフ達から森の外ではあるが何やら異変があったようだと知らされたおかげです。すぐに見に行き……被害を確認してすぐに近くの街に知らせました。本当に酷い有様でしたよ」
目を閉じて首を振るベリーの言葉に、俺は返す言葉が見つからなかった。
少し離れたところに丁寧に並べられた、真っ白な布がかけられたものが何かなんて、考えたくもない。
「これは酷い」
思わずそう呟いたハスフェル達が真顔で俺とベリーを見る。
「例の群れのある場所は、ここから近いのか?」
「そうですね。まあ飛んでいくなら近いと言ってもいい距離ですが、徒歩で移動出来るような距離ではありませんから、襲われた村の人達にしてみれば、そんな場所にアサルトドラゴンの群れがあったなんて知る由もなかったでしょうね」
「そうだな。せめて被害者の魂が安らかである事を祈るよ」
上空で目を閉じたハスフェルの言葉に、俺達も揃って目を閉じて祈りを捧げたのだった。
この世界では、いわば輪廻転生が信じられているらしく、亡くなった人の魂は創造神様の元へ戻り、また新しい体をもらって生まれ変わるんだって。
俺の右肩に座ったシャムエル様が、それはそれは真剣な様子で目を閉じているのを見て、俺はもう一回、亡くなった方々に安らかであれ、そして新たな人生が良きものになるようにと、真剣に祈りを捧げたのだった。
「じゃあ、今から例の群れのある場所へ向かう。フランマはケンの守りを頼む。そしてケンは俺達の守りをよろしくな」
「任せろ。でも出来ればいきなり全力の戦闘とかはやめてほしいなあ。せめて実戦に慣れる時間くらいは欲しいよ」
「それは俺達だけの事じゃあないからな。アサルトドラゴン次第だから責任は持てないな」
「うう、お手柔らかに願います〜〜」
全面的にへたれな俺は、そもそもアサルトドラゴンがどれくらいの大きさなのかを考えてビビっているんですけどね。
不安を隠すようにぐだぐだと馬鹿話をしつつかなりの高度を移動して、到着したのは森の外れの大きな湖の辺りだった。
アサルトドラゴンは火の属性を持つが、水が嫌いってわけではなさそうだ。
まあ、どんな生き物であれ生きていくなら水は必要だろうからな。
「うわっ、あれがそのアサルトドラゴン。何あれ、めっちゃデカい!」
焼けこげた地面に寝転がってくつろいでいるアサルトドラゴンの群れを見て、予想以上の数の多さとデカさにドン引きする俺だった。パッと見ただけでも大きさに多少の差はあるが、間違いなく三十匹以上は余裕でいそうだ。
そして、周囲の木々が小さく見える。あれ、ちょっとしたビルなんかよりはるかにデカいはずなんだけどなあ……。
「あの、湖の近くにいる一番デカいのが、言っていた群れのボスの亜種か。あれ、頭の先から尻尾の先までだと余裕で30メートルくらいはありそうだ。立ち上がったら15メートルくらい……どんだけデカいんだよ」
ドラゴンの名の通り、背中にあるのは蝙蝠みたいな膜がついた翼。そして長い首と長い尻尾。後ろ脚は大きくて前足はやや小さめ。
長い首の先にある頭には後ろ向きに山羊の角みたいなやや湾曲した二本の大きな長い角が突き出していて、さらに
鼻先にもサイみたいな太くて短い角が突き出している。鱗に覆われた巨体は、トゲトゲが至る所に見える。
大きな口から垣間見える口の中には、犬歯の位置に巨大な牙が上下に二本ずつ。でも他の歯も鋭く尖っているから、あれに噛まれただけでも致命傷間違いなしだ。
「うげえ、こんなのと戦うなんて攻略法があっても絶対に無理ゲーだろうが。マジでどうやって戦うんだよ」
ハスフェルやギイがいくら大柄だとは言っても、所詮は人のサイズ。30メートル超えの巨体と戦えるとは思えない。
しかし、ビビりまくっている俺と違い、ハスフェルとギイ、それからオンハルトの爺さんまでやる気満々で早速俺が作った氷の剣を取り出していた。
「じゃあ、まずは予定通りに数を少し減らそう。カリディア、頼むよ」
ハスフェルの言葉に、ベリーの肩の上にいたカリディアが得意そうに頷き、そのままポンと飛び降りて降下していった。
地面に降り立ったところで、ぴょんと飛び上がる。
次の瞬間そこにいたのは、一頭の鹿だった。
そのままゆっくりと群れのある方へ近寄っていく。
すると、それに気付いた一頭のアサルトドラゴンが起き上がって長い首をカリディアの方に向けた。そのままゆっくりと起き上がり、翼を広げる。
立ち止まったカリディアは、まさに今ドラゴンの存在に気がつきましたと言わんばかりにわざとらしく飛び跳ねると、くるりと向きを変えて森に向かってすっ飛んで逃げていった。
当然、舞い上がったアサルトドラゴンがその後を追う。しかし、他のドラゴン達は見向きもしない。
勝手にやってろ。そんな感じだ。
そして鹿を追って森の中へ飛び込んできたアサルトドラゴンに、空中にいたハスフェルとギイが左右から同時に切り掛かった。
即座に気付いたドラゴンが身を翻すのと、上からオンハルトの爺さんが氷の剣を構えたまま急速で降下してくるのは同時だった。
そのまま喉を貫かれたアサルトドラゴンは、悲鳴を上げる間も無く地面に落ちていった。
いやあ、見事な連携で、俺の出る間は全くなかったね。
是非とも、次もこれでやっちゃってください!