緊急事態発生!
「うん、もう空中移動は大丈夫のようだな。じゃあ次は氷の壁を作る練習だな。これはとにかく速さを重視してくれ。逆に言えば、咄嗟の炎さえ遮ってくれれば、あとはまあ俺達の方でなんとかするから大丈夫だ」
笑ったハスフェルの言葉に、真顔で頷く俺だった。
フランマの案内で川沿いへ移動する間も、俺は頑張って空中を飛び回ったり急降下したり、さらには急上昇してみたりと色々とやってみた結果、ほぼ完璧に飛行術を使う事が出来るようになった。
それを見たハスフェル達からも、これなら実戦でも大丈夫だろうと言ってもらえて、指導役のフランマからも無事に及第点をもらう事が出来たのだった。
そして、目的地に到着したところで少し休憩をしてからいよいよ氷の壁を作る練習を始めた。
一応、バイゼンでの岩食いとの戦いの際に空中に氷の壁のようなものを作って爆散させるのは何度もやった事があるので、多分あれをもうちょい小さくしてやればいいのだろうと思っている。
なんとなくその辺りのイメージは出来ているので、フランマやベリーに教えてもらいつつ、任意の場所や空中に即座に氷の壁を作る練習を何度もやった。
しばらくして氷の大きさや出現速度が安定したところで、ハスフェルとギイ対オンハルトの爺さんで炎を使って実際の対決をやってもらった。もちろん俺は戦闘には参加せずに後方からの防御役だ。
その結果、最初のうちこそハスフェル達を巻き込まないようにしながら、適当な距離を取って氷の壁を作るタイミングが合わずに苦労したんだけど、日が暮れる少し前には完璧な氷の壁を任意の場所に即座に作れるようになった。
それを見た全員から、とても覚えが良いと褒められてちょっとドヤ顔になった俺だったよ。
とりあえずその日はここで撤収して、急ぎ飛行術で木の家まで戻った。
今回は従魔達が誰もいないので、安全面を考えると無理な野営はしたくないらしい。
「ご主人おかえり〜〜〜!」
日が暮れてしばらくしたところで無事に木の家に帰った俺達は、退屈していた従魔達から大歓迎を受けた。
「おお、ただいま〜うん、いつもながら良きもふもふだな」
飛びついてきたマニを抱き返してやりながら、あっという間に押し倒された俺はもふもふの海に沈みつつ柔らかなその手触りを満喫したのだった。
一休みしたところで俺の部屋で夕食を食べ、その日は早めに休んだ。
明日は、様子見がてら俺達もベリーと一緒にその新しく出来たアサルトドラゴンの群れがいる場所に行ってみる事にしたのだ。
いけそうなら、とりあえずカリディアとフランマがアサルトドラゴンを一匹ずつ誘き出して、言っていたように各個撃破してまずは群れの数を少しでも減らす予定らしい。
最初は、出来れば小さめの個体でお願いしたいなあ、なんて呑気に考えていた俺だったよ。
翌朝、俺は何故かいつもの従魔達によるモーニングコールではなく、ハスフェル達に叩き起こされた。
「ううん、なんだよ……」
眠い目を擦りつつ文句を言って目を開いた途端、俺は驚きに絶句する事になった。
何しろ、ハスフェル達は三人とも武器も防具も完全装備だったのだ。
「朝から何事だ?」
これは普通ではないと分かりさすがに目が覚めたので、なんとか起き上がりつつそう尋ねる。
「すまんが緊急事態だ。起きてくれ。例のアサルトドラゴンの群れが夜のうちに人の村を襲ったらしい。襲われたのは、街道から少し離れた場所に切り開かれたばかりの開拓者の村だ」
真顔のハスフェルの言葉に、俺は咄嗟に言葉が出てこなかった。
俺も聞いた事があるんだけど、開拓者の村とは、文字通り城壁に囲まれた街ではなく街道沿いを中心に郊外へ出て森を切り開き、人の住める村を作る人達の総称だ。
なんでも、引退した冒険者なんかがなる事が多いらしい。
開拓された村には、近隣の街から希望者が集まって住み、村の周囲に畑を作ったり牧場を作ったりもする。上手くすれば村はさらに発展していく。
特に開拓の最初の頃は、近隣の街や各ギルドからの援助をはじめ、収穫物の税制面での優遇措置なんかもあるらしい。
最初は木の柵で村を囲い、村がある程度以上の大きさになると石積みの城壁が作られる。
ここまでくれば開拓は大成功と言っていいが、そう簡単ではない。
ジェムモンスターだけでなく、餌を求めて集まってくる野生動物との戦い。畑や牧場を一から作るのもそう簡単ではない。場合によっては自然災害とも戦う事になるわけだから、文字通り命がけの仕事になる。
「村だけでなく、周辺の牧場や開墾地までほぼ全滅。直接の人的被害だけでも五十人を超えているらしい」
「直接の人的被害って……つまり死亡した人数って事?」
その場でサクラに綺麗にしてもらった俺が慌てて身支度をしつつそう尋ねると、真顔の三人が同時に頷いた。
「まさかここまで攻撃的な群れだったとは……即座に駆逐作戦を実行しなかった私の判断ミスです」
部屋の入り口付近にいたベリーが、悔しそうにそう言って俯く。
「いやいや、そんなの見ただけで判断出来ないって。とにかく何か食ってすぐに行こう!」
サクラが出してくれたいつものサンドイッチを並べつつそう言い、三人も急いでサンドイッチを取り分けた。
腹が減っては戦はできぬ、だからな。
多分最速スピードで食事を終えた俺達は、ベリーを先頭に廊下を走りそのままいつもの扉から外へ駆け出して行った。
今回も、従魔達は全員留守番だ。
いつもと違って体一つで空を飛びながら、俺は襲いかかって来るよく分からない不安と必死になって戦っていたのだった。