飛行術の訓練の開始!
「よし、それじゃあ行くとするか」
一休みしたところでそう言い、ベリー達と一緒にまずは全員揃って部屋から出て廊下を歩き、昨日と同じ扉からまずは外へ出た。
そして、扉の外にある広い場所に出たところでとりあえず立ち止まる。
今回、スライム達も含めた従魔達には全員部屋で留守番してもらう事にしたから、まずはここで飛行術をかけてもらうらしい。
一応、万一に備えてサクラから大量の食料や野営の準備一式を受け取って収納している。
「そう言えば、俺の収納も最初の頃に比べたらめっちゃ増えているよなあ。出してもらった分、全部収納出来ちゃったからな」
「そうだね。良い感じに広がっているから、その調子でどんどん増やしていこう!」
右肩に座ったシャムエル様が、俺の呟きが聞こえたらしく笑ってそう言いながら俺の頬をぺしぺしと叩いた。
「やっぱりそうなんだ。じゃあもっとガンガン使って慣れていけばいいんだよな」
以前聞いた話を思い出しつつそう言うと、笑ったシャムエル様がうんうんと頷いてくれた。
もう、これに関しては、俺には全くの未知の世界なので素直に言われた通りにするしかないよな。
のんびりとそんな事を話していると、フランマが俺の足に頭突きしてきた。
「ご主人、今から飛行術をかけるからね」
「あ、ああ。ごめんよ。ではよろしくお願いします!」
慌てて居住まいを正して、足元でこっちを見上げているフランマに向き直る。
頷いたフランマから、俺に向かってふわりと優しい風が吹いてきた。だけどそれだけで、それっきり特に何の変化もない。
不思議そうに首を傾げる俺を見たフランマは、笑って得意そうな顔になった。
「はい、これでいいわ。じゃあ、まずは軽く飛び跳ねてみてくれるかしら」
「ええ、もう今ので術がかかったのか? で、飛び跳ねる? ええと、こんな感じか?」
言われた通りに、とりあえず軽く真上に飛び跳ねてみる。
「うわっ! 体が浮いた!」
驚いた事に、一番高いところまで跳ねたまま俺の体がふわりと止まったのだ。
だけど、俺の体は空中に留まる事なく、すぐにそのままゆっくりと下降してしまい足が広場の床についた。
「まあ、初めてにしてはなかなかね。そんな感じで、まずは体が宙に浮く感覚を覚えてね。それで、完全に体が浮いて留まれるようになったら、軽い体重移動で動く方法を覚えるの。どう?」
俺の目の前で軽く飛び上がったフランマが、そのまま空中を右に左に動いて見せてくれる。
周りを見回すとハスフェル達三人は、当然のように空中に留まったままでこっちを見ている。どうやら彼らは飛行術を使いこなせるみたいだ。
となると、練習するのは俺だけか!
フランマが、俺の前に来てくれた意味を理解して小さなため息を吐く。これは個人授業って事だよな。
「了解だ。じゃあ、もうあとは練習あるのみだな。これも多分イメージが大事だろうから……よし、いってみよう!」
目を閉じて、自分が空中を自在に飛び回るシーンを思い描いてみる。
初めは何となくだったけど、具体的に体が空中に留まるところから始めて、左右に向きを変えたり上下したり、前後に動いたり輪を描いて飛ぶシーンを順番に思い描き、最後は高速で飛行するシーンまで考えたところで一度やってみる事にした。
「では行きます!」
そう言って、思いっきり床を蹴って真上にジャンプする。
「おお、止まった!」
さっきよりもかなり高い位置まで飛び上がったところで、そのまま空中に無事に停止出来て思わずガッツポーズをとった俺だったよ。
「で、このままゆっくりと左右に動き〜上下に動き〜前後にも動く〜〜最後は円を描く〜〜〜よし!」
頭の中で思い描いたままに体が動くのを感じて、ちょっとドヤ顔になった。
「これは驚いた。もしかして飛行術の経験があるのか?」
見ていたハスフェルに驚いたようにそう聞かれて、俺は笑って首を振った。
「いやいや、そんなのあるわけないって。でも、前の世界でこういうシーンは創作物で何度も見たから、イメージするのは簡単だったよ。魔法ってイメージが大事だろう?」
ドヤ顔でそう言ってやると、納得したらしくハスフェル達も笑っていた。
「それなら大丈夫そうだから、もうこのままとりあえず出掛けよう。それで、言っていたように氷の壁を作れるかやってみてくれ。強度や大きさは、実際に作ってみるのが一番だろうからな」
両手を広げて大きな輪っかを作る振りをするハスフェルの言葉に、俺も真顔で頷く。
何しろ、俺の氷の盾が彼らを守るんだから、ここはしっかりとやらないとな。
逆に言えば、万一にも俺がそれに失敗すれば、アサルトドラゴンの吹き出す炎とやらで彼らの体を著しく傷つけるような事態にも事になりかねないって事だ。
まあ、万能薬があるから即死でない限りは大丈夫だろうが、炎に焼かれた彼らなんて俺は絶対に見たくないから、防御を任される責任は重大だよ。
「じゃあ、こっちね。川沿いに広い場所があるから炎を使った訓練をするのならそこがいいわね」
フランマの言葉に、俺は後を追うようにしてゆっくりと空中に浮いた体を進ませた。
ムービングログに乗っていた時みたいに、軽く体重を移動させれば任意の方向に移動出来るんだよ。
まあ、ムービングログと違うのは移動が二次元ではなく三次元だって事。
慣れるには少し時間がかかったけど案外簡単に空中を自在に移動出来るようになって、驚くハスフェル達に向かってもう一回ドヤ顔になった俺だったよ。