この後の予定と作戦
「お疲れさん。そっちはどんな様子だった?」
一通りの料理や果物を並べたところで、タイミングよくベリー達が戻ってきた。どうやらフランマとカリディアも一緒だったみたいだ。
「予想以上に大きな群れのようですね。しかも明らかに亜種と思われる個体がいましたので、恐らくあれが群れのリーダーなのでしょう。まずはあの亜種を倒すのが良いかと思われます。おや、これは美味しそうですね」
机の上に並んだ飛び地のリンゴとブドウを見て、そう言ったベリーが嬉しそうに目を細める。
「いや、逆に亜種を先に倒すと群の統率が取れなくなって、群そのものが崩壊して四方に逃げられる可能性が高い。そうなると駆逐するのは至難の技だ。万一にも人の住んでいる方へ逃げられでもしたら最悪だ。それこそ大惨事確定だぞ」
「そうだな。大きな群れならば、時間はかかるが一匹ずつ誘き出して各個撃破して、先に群の数を減らすほうがいいだろうな」
真顔のハスフェルとギイの言葉に、ベリーも頷く。
「確かに言われてみればそうですね。すみません、その辺りは私よりも実戦経験が遥かに豊富なお二人の方が詳しいでしょうから、作戦はお任せします。もちろん何でも協力しますよ」
激うまリンゴを手に取りフランマとカリディアに渡したベリーの言葉に、ハスフェルとギイは顔を見合わせてから頷き合った。
「そうだな。まあ、その辺りの詳しい相談は食事の後だな。まずは食べよう」
分厚い岩豚カツサンドをお皿に取るハスフェルの言葉に、俺も笑って頷きまずはタマゴサンドを手にしたのだった。
食事を終えた後、おかわりのコーヒーを飲みながら俺は顔を寄せて真剣な様子で話をしているハスフェルやベリー達を見た。
まあ、こっち方面では俺はほぼ役立たずなのでお任せするよ。詳しい作戦が決まれば従うだけだ。
「なあ、アサルトドラゴンって、具体的にどれくらい強いんだ?」
同じく食事を終えて尻尾のお手入れに余念がないシャムエル様を見て、小さな声でそう質問してみる。
「そうだねえ。まあ空を飛ぶ翼があるから単純な比較は出来ないけど、強いていうなら……炎を吹くティラノサウルスに翼が生えた、みたいな感じかなあ。もちろんアサルトドラゴンは、ティラノサウルスなんかよりももっと大きいけどね」
振り返ったシャムエル様の言葉に本気で気が遠くなった。
「ちょっと待った! 俺、普通のティラノサウルス自体そもそも見た事がないんだけど。大きさはギイの金色のティラノサウルスくらいなのか?」
慌てた俺の言葉に、笑ったシャムエル様が少し考えてからこっちを見た。
「ああ、そうだねえ。まあ普通のティラノサウルスで、大体あれくらい、かな?」
尻尾のお手入れの手を止めたシャムエル様の言葉に、もう一回気が遠くなった俺だったよ。
「金色のティラノサウルスになった時のギイの大きさって、俺達三人が余裕で背に乗れる上に、俺が自力で背中に乗れないくらいにデカいんだぞ。それより余裕で大きい上に翼があって炎を吹き出す? そんなのと普通の人間が戦うなんて、そんなのもう攻略不可能レベルの最高難易度のクエストだろうが。無理ゲー確定じゃないか!」
頭を抱えて叫んだ俺は、間違っていないよな!
「まあ、そう叫びたくなる気持ちは分かるが、ちゃんと攻略法があるから安心してくれ」
どうやら話が終わったみたいで振り返って笑ったハスフェルにそう言われて顔を上げた俺は、ジト目でハスフェルを見た。
「そうか? 俺には、またしても俺が痛い目に遭うか酷い目に遭うかの二択な未来しか見えないんだけどなあ」
「一応、ちゃんと守るからそこは心配しなくていいと思うぞ。多分」
「ええ〜〜、ハスフェルったら一応な上に、多分とか言ったし!」
笑いながらの俺の叫びに、ハスフェルとギイにオンハルトの爺さんだけでなく、こっちを見ていたベリー達まで揃って吹き出し、その場は大爆笑になったのだった。
「はあ、笑いすぎて腹が痛いって。でも冗談抜きでそんなデカいのを相手に俺に何が出来るんだって話なんだけどなあ」
笑いすぎて出た涙をぬぐいつつそう言うと、笑いを収めたハスフェル達が一つため息を吐いてから真顔になって俺を見た。
「その事なんだがな。とりあえず戦いそのものは俺達三人とベリーとカリディアが請け負うから、お前は後方でフランマに守ってもらいつつ、氷の盾を作ってアサルトドラゴンが吹き出す炎から俺達を守って欲しいんだ。炎の吹き出すタイミングと場所はフランマが教えてくれるから、言われた場所に氷の壁を作ってもらう感じだな」
思わずフランマを見ると、フランマは困ったように笑いながらうんうんと頷いた。
「今回の相手はアサルトドラゴン。私ほどではないけれど炎を扱うちょっと厄介なジェムモンスターなの。とはいえ炎を司る私には、奴等が扱う程度の炎の攻撃なら一切通じないんだけど、逆に言えば私の扱う炎の攻撃もあいつらにはほとんど効果が無いのよね。だから戦う相手としては私とアサルトドラゴンって最悪の相性なの。もちろん、最強の業火を使えば攻撃自体は可能なんだけど、周囲の森に飛び火する可能性が高いから、無理にはやりたくないの。そうなると、私ではあいつらを攻撃するのはかなり難しいのよね」
「そうか。戦う際に炎対炎だと、強い術でもお互いにあまり効果が無いわけか」
「そうなの。だから今回は私の役目はご主人をお守りする事ね。それから炎の発動が私には分かるから、あいつらが炎を噴き出すタイミングも当然分かるの。場所も全部教えてあげるからご主人はそこに氷の壁を作ってくれればいいわ」
「それから、スライム達が今回は出動出来ないので、フランマが貴方達に飛行の術を施します。これで私達がいつもやっているように任意の空中での移動が可能になりますから、戦う際はそれで行きます。今からもう一度森の外へ出てその辺りの連携と訓練をしたいと思いますので、一休みしたら早速行きましょう」
「おお、さっき言っていたお空部隊の子達の背中にスライム無しでは乗れないって話か。へえ、普段ベリー達が使っている飛行の術を俺達にもかけてもらえるなら、確かにそれが一番だな。じゃあ一休みしたら午後からは実戦訓練だな。俺もどれくらいの氷の壁をどんな風に作ればいいのか、皆に見て教えてもらいたいからな」
笑った俺の言葉に皆も笑顔で頷き、とりあえず今すぐに緊急出動するってわけではないと分かって密かに安堵した俺だったよ。