木の家への帰還と剣の量産
「とりあえず戻ろう。それでこの件はベリーに相談すべきだな」
相談してどうにかなるかどうかは分からないけど、もしかしたらベリーなら何か有効な魔法を知っていたりするかもしれないからな。
「そうだな。とりあえず戻ろう」
顔を見合わせて揃ってため息を吐いた俺達は、それぞれの従魔の鳥達の背に分かれて飛び乗った。もちろん俺が乗ったのはいつものファルコの背の上だ。
「じゃあ確保しま〜〜す!」
得意げなアクアの声の直後に俺の下半身が包まれる。左右にいるマックスとニニもしっかりとホールドされている。
「では行きますね」
一応、俺はまだ火のついたランタンを手にしたままだったので、空の上ではこれは必要ないので一旦消してから収納しておく。
「おお、真っ暗で何も見えないぞ〜〜」
見下ろした眼下の景色は本当に真っ暗で、今夜はごく細い三日月が上がっているだけなので月明かりも殆どない。
まあ、有り難い鑑識眼のおかげで近くにいるマックスやニニは見えるけど、さすがにこれだけの高度だと景色はほぼ真っ暗だ。
木の家に到着するまでの間、俺はうっかり寝そうになるのを必死になって堪えていたのだった。
「無事に到着〜〜〜なんだかめちゃ疲れたけど、まだもう一仕事残っているんだよな」
例の踊り場みたいな所に降りたところで、ファルコの背中から降りた俺はそう言って伸びをした。
そのまま扉を開けて中に入り、ひとまず俺の部屋に集まる。
「じゃあ、すまんがよろしく頼むよ」
ハスフェルとギイだけでなく、オンハルトの爺さんまでがガンガン剣を取り出すのを見て、俺は少し考えてアクアに椅子になってもらってそこに座った。
するとソファー型だった形がググッと変わり、背もたれ部分が上と左右に伸びて全体に大きくなり、文字通り俺の体全体を背後から支えてくれる形になって止まった。
「おお、これはいい。ありがとうな。じゃあ、順番に付与するから剣を抜いてくれるか」
俺のすぐ前に来て同じくスライム椅子に座ったハスフェルが、まずは用意した剣を抜く。
あとはもうひたすら流れ作業で、順番に剣を受け取っては俺がせっせと氷を巻き付かせていく。
「ううん、最初の頃に比べたら、かなり効率的に付与出来るようになっている……ような気がするんだけど、実際どうなんだろうな」
そう呟いた直後、とある事実に気がついた。
「あ、魔力の減り具合もさっきよりも少ないかも。これだけ付与してもまだ余裕が有りそうだもんな」
一旦休憩して軽く首を回してから腕を伸ばし、肩も回してからそう呟く。
「同じ術を何度も続けて行使すると、その術に慣れて魔力効率が上がったり、付与するスピードが上がったりする事があるからね」
「へえ、それって文字通り俺の氷の術がレベルアップしたって事だよな。よしよし、なんだか嬉しくなってきたぞ」
とりあえず、相当量の剣に氷の術を付与し終えてその夜は解散となった。
途中で戻ってきたベリーとハスフェル達が何やら顔を寄せて相談していたから、何か有効な方法が見つかる事を願っておいたよ。
翌朝、従魔達総出のモーニングコールに起こされた俺は、朝食の後、ベリーが例の群れの場所を確認しに行ってくれている間もひたすら氷の剣を量産し続けていたのだった。
「はあ、とりあえずこれだけあればなんとかなるだろうさ。万一足りなくなった際には、戦いから離れた場所に移動するから、ケンにはそこで追加で氷の剣を作ってもらう事にしよう」
「そうだな。じゃあ、ケンは休んでいてくれていいぞ」
「そうだな。お疲れさん。ゆっくり休んでくれ」
にっこり笑って、量産した氷の剣を次々に収納するハスフェル達の言葉に、若干の脱力感を覚えていた俺は、一つため息を吐いてそのまま目を閉じた。
すると、ニュルンとスライム椅子が動いて平らなベッドの形になってくれたので、遠慮なく手足を投げ出して横になった。
「そろそろベリーが戻ってくるぞ。それと、そろそろ昼なんだけどな」
額を軽く叩かれて目を覚ました俺は、ハスフェルの笑った声に驚いて起き上がった。
「もうそんな時間なんだ。じゃあベリーが戻ってくるなら果物も出しておくか。久しぶりに俺も食べたい」
一旦スライムベッドから起きた俺は、テーブルにサクラが適当に出してくれた料理を並べつつ小さく欠伸をした。
「まあ、でもおかげで体の方はほぼ回復したっぽいな。さて、どうなるのやら」
どう考えても、俺が痛い事になるか酷い目に遭うかの二択しか思い浮かばないんだけど、冗談抜きで大丈夫かね?