ベリーの報告
「はあ、ごちそうさま。じゃあ一休みしたらここは撤収だな」
魔力回復の意味を込めていつもよりもしっかり食べて大満足したところで、俺はそう言って残っていた麦茶を飲み干した。
俺のお皿からガッツリ食べたシャムエル様も大満足状態らしく、今は食後のルーティーン、テーブルの上で尻尾のお手入れの真っ最中だ。
「ああ、いつもながら美味しかったよ。それじゃあ、一休みしたら戻ろう」
こちらは平然と食後に赤ワインを飲んでいるハスフェルの言葉に、ギイとオンハルトの爺さんも笑顔で頷く。
「じゃあ、氷の剣作りは戻ってからだな。それでベリーが戻ってきたら、そっちの話を聞いて今後の予定が決まるんだよな」
「そうだな。元の棲家の方に問題が無ければ、そのまま言っていたように森の外に棲みついたアサルトドラゴンの駆除に入る。あの位置だと人里に出て行く可能性があるから、放置出来ん。その際には一応お前も同行してくれ」
「絶対酷い目にあって死にかける未来しか見えないんだけど、お願いだから守ってくれよな」
普通のジェムモンスターが相手なら、まあ勇敢に立ち向かえるかどうかは別にして、今の俺の装備なら大抵の場合は何とかなると思っている。
だけど、さすがにハスフェル達でさえこれだけ入念な準備をするドラゴンの群れを相手に戦うなんて、俺は絶対にごめんだ。
元サラリーマンの一般人に、そんな無茶を求めるなって。
遠い目になりつつ現実逃避していると、不意に頭の中にトークルームが広がるのが分かった。
『今よろしいですか? おや、どちらかへお出かけでしたか?』
ベリーの声が聞こえて、後片付けをしようと思って立ち上がりかけていた俺は慌てて椅子に座り直した。
『ああ、郊外の川で従魔達に水浴びをさせてやっていたんだ。今食事を終えて休憩していたところだよ』
ハスフェルが答えてくれたので、とりあえず片付けかけていた冷えた麦茶をもういっぱいマイカップに注いだ。
『元の生息地の方を確認してきました。若干全体の個体数は多かったようですが、特に何か問題があるようには見えませんでしたね。一応、近隣の地脈の噴き出し口も一通り見てきましたが、大繁殖の兆しも確認出来ませんでしたね』
「それは何よりだ。となると、例の森の外に棲みついたのは、単なる群れの独立と考えていいのか?」
『恐らくはそうでしょうね。一応、明日にでもそっちの群れの様子も確認してきます。大丈夫そうなら、すぐにでも駆除を開始しましょう。私も結界魔法で少しはお手伝いしますね。一旦戻りますので、後ほど詳しい話をしましょう』
苦笑いするベリーの言葉に、ハスフェル達も笑っていた。
凄い魔法の使い手だけど実は氷の魔法が苦手なのだというベリー。まあ、他の魔法がそもそも桁違いの強さなので普段は特に問題にはならないみたいだ。
だけど今回のように明らかに弱点が分かっている相手の場合は、弱点の魔法が上手く扱えないと戦いが長引いたり、思わぬ反撃を受けたりするらしいから、この時ばかりは氷の魔法を扱えてよかったなあって本気で思ったよ。
これこそ仲間である事の最大の利点だよな。仲間が苦手な事はそれを得意な者が補う。
うん、普段は助けられてばかりだから、俺もこんな時くらいちょっとは役立ちたい! まあ、アサルトドラゴンとまともに戦えるとは思わないけどさ……。
だって、鱗であの大きさだぞ! 見せてもらった鱗がどの部分なのかはわからないけど、仮にあれが最大クラスの鱗だったとしても……あの大きさな時点で全体の大きさは、推してしるべし、だよな。
そんな事を考えて遠い目になっている間に、トークルームが閉じられるのが分かった。
「じゃあ俺達も戻るか。それで明日の状況次第ではすぐに駆除に入る可能性もあるから、すまんが戻ったら氷の剣を作れるだけ作っておいてくれるか」
「おう、了解だ。とりあえず作れるだけ作っておくから、あとで付与する剣を出してくれよな」
「もちろんだ。じゃあ戻るか」
赤ワインを飲み干して立ち上がったハスフェルの言葉に、スライム達がわらわらと集まってきてあっという間に汚れた食器を全部片付けてくれた。
「じゃあ、これも片付けま〜〜す」
得意げなアクアの声の後、机や椅子もあっという間に全部片付けられて、更にはランタンを手にした俺達が外に出たのを見てあっという間にテントも片付けてくれた。
「もう帰るのご主人?」
駆け寄ってきた猫族軍団の子達やマックス達を順番に撫でてやる。
「ああ、とりあえず今日のところは戻るよ。それで明日はベリーが例のアサルトドラゴンの群れを見に行ってくれるから、場合によってはすぐに戦うらしいんだ。ええと、こいつらは不参加でいいよな?」
いくら俺達の従魔が強いとは言っても、さすがにドラゴン相手は無理だろう。
「そうだな。今回は留守番してもらうべきだな。ああ、ちょっと待て。従魔達を全員留守番させると、俺達の足が無くなるぞ」
ハスフェルが最後は慌てたようにそう言い、ギイと顔を見合わせて考えこむ。
確かに、あの深い森を徒歩で自力踏破出来るとは到底思えないからな」
「ご主人、それなら我らお空部隊はお連れください。さすがにアサルトドラゴン相手では我らはまともには戦えませんが、ご主人達の移動の足程度にはなります。戦う際にも、地上にいて空を飛ぶ相手と戦うよりも、我らの背の上で戦う方が安全だし戦う方法も増えるかと思います」
むふって感じに頬を膨らませたファルコの言葉に、思わず俺はハスフェル達を振り返った。
「なあ、ファルコがお空部隊の子達は連れて行ってくれって言ってるんだけどどうだ? 確かに、地上から空を飛ぶ相手と戦うより、こっちも空を飛べる状態で戦う方が安全じゃあないか?」
「だが、スライム達は連れて行けないぞ。アサルトドラゴンは炎を吹き出す。戦いの際には間違いなく火の粉も飛び散るから、スライムには致命的に相性の悪い相手だ。そうなると、スライム達にホールドしてもらえない状態で鳥達の背に乗るのは危険過ぎるぞ」
真顔のハスフェルの言葉に絶句する。
確かに、火の粉が飛び散る事が分かっている戦いの場に、スライム達は連れていけない。となるとホールドしてもらえない状態でファルコの背に乗るのは危険過ぎる……。
「うわあ、それってもしかして完全に詰みじゃん。どうするんだよ」
俺の叫びに、困ったように顔を見合わせるハスフェル達だった。
ううん、これはマジでどうするべきだ?