朝食と料理開始!
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
「ううん、おき……る……」
半分無意識で返事をしたが、まだ寝ていたくてふわふわのニニの腹に潜り込んだ。
「おーきーろー!」
ペシペシと、頬を叩きながら笑うシャムエル様の声が耳元で聞こえて、俺はもっとニニの腹毛に潜り込もうとした。
ザリザリザリ!
ジョリジョリジョリ!
突然、うつ伏せになっている首筋をソレイユとフォールのザリザリの舌で舐められて、俺は悲鳴をあげて飛び起きた。
「うわあ、起きます起きます! 待って! 俺の大事な首の肉、持って行かないでください!」
咄嗟に首筋を押さえてそう叫ぶと、両隣のテントから吹き出す音が聞こえた。
「ご主人起きたー!」
「やっぱり私達が最強ー!」
起きたと言って喜ぶソレイユとフォールの声に、俺はもう笑うしかなかったよ。
岩場の湧き水で顔を洗い、テントに戻ってサクラに綺麗にしてもらう。
身支度を整えたら、朝飯の準備だ。
「さてと、何にするかな。中途半端に、色々残ってるんだよなあ」
唐揚げも、二皿分ぐらいしか無いから、一食分には心許ない。トンカツも似たようなものだ。
「あ、色々出しておいて好きに食ってもらおう。よし、そうしよう」
揚げ物系の残りを適当に取り出して並べ、昨日の照り焼きチキンのぶつ切りも一緒に並べておく。
パンもあまり使っていないベーグルやクロワッサンもどき、コッペパンもどきなどいろいろ取り出しておいた。
「野菜も適当に出しますよ、っと」
葉物と温野菜の残りも、まとめて大放出だ。トマトは、くし切りと輪切りにして、お皿に並べておく。
バター、マヨネーズも取り出しておき、それからチーズの塊を取り出して、サクラに頼んで薄切りにしてもらう。
野菜スープの残りも、小鍋に取り出して火にかけておく。
「あ、ホットコーヒーの在庫が、これで終わりだ。淹れておかないと」
うっかりしていたが、確認したら、取り出したピッチャーが最後の一つだったみたいだ。
コーヒーの横に、ミルクも取り出して並べておいた。
使うかどうか分からないけど、一応簡易オーブンも出しておく。
「おはようございます」
身支度を整えたクーヘンとマーサさんが、それぞれのテントから出て来て伸びをしている。
「おはようさん。しばらく良い天気みたいだな」
「おはよう。おお、なんだか朝から豪勢じゃないか」
「おお、本当だ」
ハスフェルとギイも揃って起きて来たんだが、机に並んだ朝飯を見て喜んでる。
「いろいろ半端に残ったからさ。順番に片付けていこうと思ってね」
「じゃあ、もしかして作り置きの在庫が少ないのか?」
心配そうなハスフェルの質問に、俺は笑って頷いた。
「揚げ物系はもうこれでほぼ壊滅。スープもかなり減ってるし、出来れば今日と明日くらいは料理の仕込みをしたいんだけどな」
二つに切ったコッペパンにバターを塗りながらそう言うと、ハスフェルとギイが顔を見合わせて考えている。
「それじゃあ、クーヘンとマーサさんを送った後、俺達はそのままジェムモンスター狩りに行くから、ケンはここで料理をすると良い。従魔達にも、行くなら交代で狩りに行って貰えば良いだろう」
「良いよそれで。じゃあ、ジェムの確保は任せるよ」
「了解だ。それじゃあその予定で行こう」
ってな感じで、サクッと今日の予定が決まり、それぞれ好きにサンドイッチを作る。
俺は、コッペパンに薄切りチーズとレタスと目玉焼き、それからナイフで半分に切った唐揚げを並べて挟んでみた。
ハスフェルは豪快に、コッペパンに目玉焼き二つとトンカツ二枚とチーズを挟んでるし、ギイも似たようなものだ。こいつら、朝から食う量がおかしい。
クーヘンは、クロワッサンに切り目を入れて、目玉焼きと照り焼きチキンを豪快に挟んでる。
マーサさんはちょっと考えてクロワッサンに目玉焼きとチーズ、それからトマトの輪切りを挟んだ。
「皆、朝から凄いね。私はこれでも多いくらいだよ」
マーサさんの言葉に、皆笑った。
「あ、じ、み! あ、じ、み!」
机の上で、もふもふダンスを踊っているシャムエル様を突っついて、俺はナイフでコッペパンの真ん中で半分に切り、目玉焼きの黄身の入った部分を小さく切り分けてやった。
「はい、どうぞ召し上がれ。今朝は唐揚げサンドとホットコーヒーだよ」
「わーい、美味しそう」
嬉しそうに両手で掴んで、勢い良く食べ始める。
しかし、珍しく黙って食べているから口に合わなかったのかと心配したが、尻尾が物凄い勢いで振り回されている。どうやら無言で喜んでるみたいだ。
「んー! んー! んんーー!」
何やら妙な鳴き声と言うか唸り声みたいな声を上げたシャムエル様が、突然、持っていた唐揚げサンドをお皿に戻して、横に置いてあったコーヒーを一気に飲み干した。
「はあ、びっくりした、目玉焼きの黄身で、一瞬喉が詰まっちゃったよ」
驚いて覗き込む俺に、シャムエル様は照れたようにそう言って笑った。
「そ、それは大変だったな。大丈夫か?」
「えへへ、大丈夫です。あまりの美味しさにちょっとがっついちゃいました」
「はい、じゃあもう少しコーヒーをどうぞ」
俺のカップから、少し冷めたコーヒーを、空になったシャムエル様の盃に入れてやる。
「ありがとうね。残りは味わって食べます!」
笑って残りを食べ始めたのを見て、俺も残りの唐揚げサンドを平らげた。
「本当にどれも美味しかったよ。ご馳走さま」
満面の笑みのマーサさんと、クーヘンはハスフェルとギイと一緒に、一旦街へ戻って行った。
リード兄弟との打ち合わせと、そろそろお兄さん家族がやって来る頃らしい。そりゃあ戻っておかないとな。
一気に人がいなくなり、俺と俺の従魔達、そしてクーヘンの置いて行った肉食系の従魔達だけになる。
「あ、ベリーは果物は?」
「はい、少し頂きたいですね。お願い出来ますか」
マーサさんがいなくなったので呼んでみると、すぐ近くで姿を表したベリーが嬉しそうにそう言う。
サクラから適当にまとめて箱ごと取り出してやると、フランマも姿を表して、モモンガのアヴィやウサギチームも加わり皆で仲良く食べ始めた。
なんとなく、仲の良い従魔達を眺めて俺は、椅子に座ったまましばらく和んでいた。
「さてと、それじゃあ俺は仕込みでもしますか」
気分を切り替えるように大きな声でそう言うと、まずはサクラに頼んで葉物の野菜を全部取り出してもらった。
「ううん、これはちょっと凄い量だな。まずは、半分だけ仕込んでこう」
苦笑いした俺は、空いた木箱に葉物の野菜をまとめて入れて水場へ向かった。
ここの岩場の水は、とても綺麗で水量も多いので、まずは水場で葉物の野菜をまとめて洗っていく。
自分で作った氷水の入った大きなお椀に、ちぎった葉物をつけて冷やしては水切りして、順番にサクラに預けていく。
一時間以上かかって、何とか半分くらいは洗い終わった。残りは箱に種類別に整理して入れて、サクラに預けておく。
「今夜は肉を焼くとして……そうなると、サイドメニューをまずは仕込むか。サクラ、アクア、手伝ってくれるか」
せっせと皮を剥いてくれるスライム達に助けてもらって、まずは取り出した大量のジャガイモをフライドポテトと粉ふきいも、それからポテトサラダにしていく。
「今回は、皮付きジャーマンポテトも作るぜ」
そう呟いて、別に置いてあったジャガイモの芽だけを取り除いてもらって、皮ごとくし切りにする。
スライスした玉ねぎとベーコンを炒めて、茹でて水切りしたジャガイモを一緒に炒める。塩と胡椒を振ったら、粒マスタードをたっぷり入れて、更に炒める。マスタードの香ばしい香りがしてくれば完成だ。
それから、ブロッコリーもどきとカリフラワーもどきも、それぞれ小房に切って茹でておき、今回初めて見つけたキャベツも洗って千切りにした。これは見本を少しだけ俺が切って、残りはアクアがやってくれたよ。
そんな感じで午前いっぱいかかって、取り敢えず一通りの野菜の仕込みが終わった。
いやあ、しかしスライムアシスタント様々だね。料理するの超楽チン。
もう、スライムアシスタント無しでは、俺、料理出来ないかも。