検証結果とお疲れの俺
「じゃあ、一度やってみるか」
河原に出て、とりあえず安全のために川にできるだけ近づいた所で立ち止まったオンハルトの爺さんの言葉に、真顔のハスフェルとギイが頷く。
まだ水遊びをしているマックス達からもかなり離れているので、ここならば安全だろう。
オンハルトの爺さんから少し離れた位置に、まずハスフェルが立った。
「では、俺が炎を噴き出すから、お前はそれを切ってみてくれ」
「了解だ」
真顔のオンハルトの爺さんの言葉に、こちらも真顔のハスフェルが短くそう言って氷の剣を構えて小さく頷く。
俺とギイは少し離れたところで待機だ。
「いくぞ!」
右手をハスフェルに向けて差し出したオンハルトの爺さんが大声でそう叫ぶと、その声と同時に炎の柱が噴き出した。
「うええ。ちょっと威力ありすぎじゃね?」
予想以上の熱気に思わず数歩下がる。
しかし、即座に横に飛んで逃げたハスフェルは、大声を上げてその噴き出した炎を文字通り剣で横からぶった斬った。
シュン、って感じの音がした直後に炎が収まる。
「どうだ?」
真顔のオンハルトの爺さんの声に慌ててハスフェルを見ると、こちらも真顔のハスフェルは手にしていた剣を高々と掲げてみせた。
「おお、さすがにちょっと溶けたな」
ハスフェルの腕に雫が垂れて濡れているのが見えて、そう呟いて駆け寄る。
下ろした剣の切先からポトリポトリと小さな雫が地面に落ちている。即座に溶けて無くなったわけではないが、熱のダメージはかなりありそうだ。
だが、ハスフェルは嬉しそうに濡れた氷の剣を見て満足そうに笑った。
「あの業火でこの程度なら、まあしばらくは保ちそうだな。ギイの結界魔法と合わせれば、もう少し保つだろう。一度やってみてくれるか」
最後は、ギイを見てそう言ったハスフェルが下がる。
「おう、じゃあちょっとやってみるよ」
何やら嬉しそうにそう言って進み出たギイが、氷の剣に手を添えて刃に触らないようにそっと上から下へと撫でる。
「よし、これでいい」
小さくそう言って構えるのを見て、俺は慌ててさっきの場所まで下がる。
どうやら今ので、その結界魔法とやらで剣を包んだのだろう。
濡れた剣を手にしたままのハスフェルも、さらに下がって俺の横に並んだ。
「ではいくぞ」
構えたギイが頷くのを見て、そう言ったオンハルトの爺さんが、またさっきと同じくらいの炎の柱を噴き出した。
同じく横っ飛びに逃げたギイが、返す刀で炎の柱をこれまたぶった斬った。
「おお、今度はほとんど溶けていない!」
炎の柱が収まったところで、急いで駆け寄ってギイの手元を確認すると、先ほどとは違って氷の剣は溶けていなくて、元の形をほぼ保っていた。雫も垂れていない。
「ふむ、これならなんとかなりそうだな。ではあとは……」
「あとは持久力というか、耐久力がどの程度あるかだな。恐らく壊れる時は一瞬だろうから、直後の対応も考えておかねばならんぞ。ケン、すまんがこの氷の剣を何本か作っておいてくれるか。武器の交換は迅速に行いたいのでな」
「了解。じゃあちょっと待ってくれよな」
さっき貰った剣をまとめて取り出した俺は、とりあえず適当な一本を抜き早速氷の剣を作り始めた。
駆け寄ってきた三人にも手伝ってもらって、抜き身の剣を並べてどんどん氷を付与していく。
十本作ったところで、冗談抜きでレベルが上がった感じがした。何というか、一気に作る速度が上がったんだよ。
「お、これはもっと頑張れば時間短縮出来るかも」
なんだか嬉しくなってそう呟き、結局全部で三十本の氷の剣を作ったところで疲れが出たのでひとまず中断した。
「うん、これだけあればしばらくいけるな。何なら、ケンはテントで休んでいてくれていいぞ」
「そうだな。ちょっと冗談抜きで魔力切れっぽいから、テントに戻って休ませてもらうよ。検証するのはいいが、怪我だけはしないようにな」
苦笑いした俺の言葉に三人の返事が返る。
「ご主人! ではどうぞ! テントまでお運びしま〜す!」
疲れてフラフラになっている俺を見て、まだ水遊びをしていたスライム達がわらわらと集まってきた。
「あはは、よろしく頼むよ」
笑ってそう言い、即座にくっついて大きくなったスライム達に遠慮なく倒れ込む。
ポヨンと跳ねて、そのまましっかりと受け止められた。
「では、行きま〜〜す!」
得意げなアクアの声の直後、俺の下半身がスライム達にホールドされてすすっと移動し始めた。
いつものスライムタクシー状態だ。
「ご主人、休憩ですか〜〜?」
水遊びには参加せず、その辺に寝転がって寛いでいた猫族軍団が戻ってきた俺を見て嬉々として集まってくる。
「ああ、ちょっと疲れたから昼寝タイムだ」
スライムタクシーの上から笑ってそう言うと、当然のように皆がそれに続いて追いかけてきた。
「到着〜〜!」
にょろんと伸びた触手がテントの垂れ幕を巻き上げて中に入り、空いた場所に止まっていつものスライムベッドになってくれた。スライムタクシーの時よりも全体に柔らかさが増した感じだ。
「じゃあ添い寝役は私達ね!」
嬉しそうなニニの声に続き、カッツェとマニがスライムベッドに飛び上がってきて俺の周りにくっついて猫団子を作ってくれる。
そしてタロンが俺の腕の中に潜り込んできて抱き枕になる。
慌てて後を追いかけてきていたウサギトリオが、俺の背中側にくっついて収まる。
他の子達も、小さいまま俺の顔の横や足元、それからマニの上に遠慮なく上がって張り付く。
「ふああ、なんだよこの幸せ空間……モフモフしかないぞ……」
一つ深呼吸をしてモフモフに顔を埋めた俺は、小さくそう呟いて目を閉じた。
そのまま気持ち良く、俺は眠りの海へ落っこちて行ったのだった。
モフモフの癒し効果、いつもながら最高だね。