氷の剣の検証?
「はい、これでどうだ?」
二人から受け取った長剣に、ちょっと時間はかかったけどさっきの試作品と同じようにネジ状に氷を巻きつけて作った氷の剣を渡す。
「コツさえ掴めば作る事自体は簡単なんだけど、意外に時間がかかるのが難点だな。これはあらかじめ剣を何本か預かっておいて、作って渡しておくのが正解な気がするな。戦闘中に万一折れたり氷が砕けたりした時に、次の剣をすぐに渡せないと大変だろうからなあ」
嬉々として氷の剣同士で手合わせを始めた二人を見ながら、俺は思わずそう呟く。
それに戦いになったらこんなにのんびり氷の剣を作っている余裕は無いと思うから、あらかじめ作っておくのは絶対に必要な気がする。
「確かにこれはいい感じだな。ちょっと、一度アサルトドラゴンのところへ行ってみるか。これならかなり楽に戦えそうだ」
「確かに相当な強度がありそうだ。これは一度実戦で試してみたいな」
目を輝かせた二人に何やらとんでもない事を言い出されて、本気で気が遠くなったよ。
「待て待て。思いつきだけで行こうとするんじゃあねえよ。今、ベリーが大元の調査に行っているんだろうが」
「ああ、そうだったな」
「ううん、早く試したいぞ」
揃って苦笑いした二人を、俺はジト目で見ていたのだった。
「それにしてもなかなかの強度のようだな。ちょっと見せてくれるか」
とりあえず手合わせを終えてもヒビ一つ入っていない俺が作った氷の剣を見て、オンハルトの爺さんがそう言って右手を差し出す。
「ああ、なかなかバランスもいい。あとは実際にどれくらい切れるかだな」
氷の剣をオンハルトの爺さんに渡したハスフェルの言葉に、俺は思わず考える。
「そっか、この状態だと刃が無いから普通の剣みたいに切るのは無理っぽいな。なあ、ちょっと試作をやって見たいから、何本か予備の剣を貸してもらえるか」
間違いなく俺よりたくさん持っているだろうから、試作用の剣はハスフェル達に借りる事にする。
「ああ、じゃあこの辺りかな」
予想通り、当然のように何本も取り出して渡してくれたので、受け取ってとりあえず適当な一本を手にして抜いてみる。
「まずは氷をまとわせてネジ状に凍らせる。それで、この巻きついた氷を剣みたいに平らに近い形状にしてから刃に当たる部分を薄くして鋭く尖らせてみる……ううん、ちょっと形のバランスが難しいなあ……よし、これでどうだ!」
ちょっとした思いつきだったけど、案外上手くいった。
要するに、ネジ状に凍った氷を俺の能力で削って、全体に剣の形に近づけてみたんだよ。
刃にあたる部分は特に気をつけて均一になるように作った。もちろん、ガッチガッチの最強の硬度の氷になるようにしてある。
「切れるかな?」
完璧に尖った氷になったそれを見て、ちょっと考えて厚めの紙を一枚取り出してみる。
その紙に氷の剣を当ててそのままゆっくりと滑らせてみる。
「うおお〜〜めっちゃ切れる!」
簡単に切れた紙を見て思わず叫ぶと、目を輝かせたハスフェル達が三人揃って駆け寄ってきた。
「おい、ちょっとそれを貸してくれるか!」
「ああ、どうぞ」
差し出した剣を奪い取るみたいにして受け取ったハスフェルが、そりゃあもうキラッキラに目を輝かせて剣を構えた。
そしてオンハルトの爺さんが即座に取り出したのは、直径が10センチ、長さは50センチほどの丸太だ。
それを、構えたハスフェルの前の地面にそっと立たせる。
「いくぞ」
嬉しそうにそう言ったハスフェルが、勢いよく剣を振って丸太に叩きつける。
スパン!
そうとしか表現出来ないくらいに勢いよく振り抜かれる氷の剣。
そして、上下に真っ二つになって転がる丸太。
「うおお、すっげえ。切れ味抜群!」
自分で作って言うのもなんだが、めっちゃ怖いぞ。氷なのに丸太が一瞬で切れるって、どうよ。
「これって、一歩間違えるとただの棒切れとかにも使えるよなあ。うわあ、武器の残らない完全犯罪、成立しちゃうじゃんか」
予想以上の切れ味に、思わずドン引きする俺。
「ほう、この程度では刃こぼれもないぞ」
ハスフェルの言葉に、目を輝かせて駆け寄るギイとオンハルトの爺さん。
「じゃあ、もう少し太い丸太でもやってみよう」
そう言って、今度はギイが直径30センチくらいはありそうな大きな丸太を取り出して置いた。
「いくぞ」
でもって、嬉しそうなハスフェルがそう言って氷の剣を振るうと、これまた見事に真っ二つになった。
「いやいや、ちょっと待て! そもそも普通の剣では丸太なんて切れないだろうが!」
それを見て、真顔で突っ込んだ俺は間違ってないよな!
「まず、切れ味に問題は無さそうだな。となると、あとは直接の熱攻撃を受けた際の溶け具合だな」
真顔のオンハルトの爺さんの言葉に、またしても真顔になるハスフェルとギイ。
「河原へ行こう。俺の炎でその剣がどうなるか、一度やってみる必要があるだろうからな」
確かに炎の攻撃実験をするなら、火災にならない場所でする必要がある。
頷き合い嬉々として河原へ走って行く彼らを見て、俺も慌ててその後を追ったのだった。